調査⑯ -正気-
「あなたは……さっきの?」
玲子の問いかけに女性は感情を抑えた表情を作った。一瞬であったが、十分に確認できた。初めに地下に降りた際に出会った女性だ。
「アら、あノ子に会ったのネ~。私が寝テる間ってコとハ、仕掛ケが終ワってカらミたいね。イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
どう考えてもおかしい。話し方は当然、引きつった顔で笑い続けるその女性から異様な雰囲気を感じ取り、総矢達は身構えた。
「二重人格か? もう一人は何も知らないみたいだが、あんたは色々知ってそうだな。話を聞かせてもらうぞ」
総矢は口ではそう言いながらも、すぐに能力を発動させた。途端に、頭の中に激しい叫び声、うめき声が響き渡り、激しい頭痛が引き起こされる。
「あ……うぁっ!」
突然の事に総矢は頭を押さえて膝を付いた。
「総矢!?」
玲子が驚いて横を見る。その隙を突いて女性が銃を取り出し、玲子の足を撃った。狭い上に、足の傷もあり、玲子は完全には避けられない。銃弾が傷口近くを掠める。
「痛っ」
だが、痛みに構っている余裕は無く、玲子は銃を取り出し、反撃しようと構える。その動きを察知した女性は再び玲子に向けて銃を向ける。
「待った、待った!」
総矢が玲子を壁に突き飛ばした。結果的には二人が同時に放った銃弾はどちらも相手に当たらずにすんだ。玲子が総矢を睨んだが、総矢は玲子に一瞬だけ目を向けると、頭痛を堪えて愛用の棒を右手に構えながら立ち上がる。
「この人は誰かに操られている。傷つける訳には!」
能力を解除しただけで総矢の頭痛は消えた。
(原因はやはりこの人の思考。直接ではないのに俺にまでこれ程の影響が出るなんて……早く何とかしないと彼女自身も危険なはずだ)
銃を総矢に向け、女性は躊躇い無く発砲した。体を屈ませるが、銃弾は左腕を掠める。
「ぐっ……」
だが、総矢は左腕を庇うことなく女性に正面から突っ込んだ。女性はもう一度総矢に向けて銃を構えた。だが、銃弾は狙いを大きく外れて天井にめり込んだ。
「……?」
女性は何が起こったのか理解できていなかった。総矢に意識を集中させていた間に、玲子が素早く狙いを銃に定め、女性の銃を撃っていた。
「悪いね」
玲子は立て続けに二発の銃弾を女性の右手の銃に撃ち込む。衝撃で手から銃が弾き飛ばされる。その間に接近した総矢が女性の両腕を掴み、床に押し倒す。痛みを感じていないのか、女性は笑い続けている。
「操られているんだったね。それならコレで」
玲子が錠剤を取り出し、強引に女性の口の中へ押し込んだ。数秒間暴れようとする女性を二人は必死で押さえた。だが、それが終わると急に動きが止まった。
「え、え、え? ちょ、ちょっと? ここ、これ……何ですか?」
暴れる動きが治まった直後、悲鳴にも似た声で女性は尋ねた。
「ふぅ、落ち着いたね。総矢、もういいわ」
玲子の言葉通りに総矢達は女性から離れた。座ったまま下がり、女性は距離を取る。
「心配しないで。別に危害を加えるつもりは無いよ。それより体の調子はどう?」
「え……? べ、別に何もありませんけど?」
怯えながらも女性は答えた。総矢が一歩前に出て、尋ねる。
「今何をしていたのか、とかさっき俺たちに会った事を覚えていますか?」
総矢の問いかけに首を傾げる。
「エレベーターで会ったのは覚えているけど、1階に着いた記憶は無いです。気が付いたらあなたたちが私に覆いかぶさって……」
「エレベーターに乗る前には何をしていたんですか?」
「エレベーターに乗る前ですか? 確か……え? あれ? ちょっと待って下さい」
頭を抱え、必死に思い出そうとした。だが、考えても考えても答えが見つからない。
「私、どうしちゃったのかしら。ごめんなさい、全然思い出せないわ。でも下に行けば」
言いかけの言葉を遮り、エレベーターへ向かおうとした女性を強引に止める。
「あなたは記憶を失っている間、催眠術か何かで操られていました」
そこから総矢は地下で見たもの、負った傷等詳しく説明した。総矢が一通り話した後、女性は憤慨し、総矢の頬を強く叩いた。
「はぁ? 人が死んだなんて冗談でも言っていい事といけない事があるでしょう!」
「俺だってそう思いたいですよ。でも事実なんですよ!」
「いい加減に」
再度女性が手を振り上げた。その時、エレベーターの扉が大きな音と共に破壊された。