調査⑭ -無人-
総矢はロボットが出てきた部屋の扉を押し開け、中を覗く。
「どう? 中はどうなってる?」
「誰も……いないですね。やっぱり」
扉のところから覗き込んだ範囲、総矢の能力が届く範囲には動くものはなかった。当然誰もいないからといって気は抜けない。警戒しながら二人はゆっくり中に入る。
「え……これは?」
思いもよらないものが総矢の視界に入った。ロボットだ。総矢達がついさっき行動不能に追いやったロボットと同じものが直立状態のまま何体も並べられている。向きが悪く、覗いただけでは何か分からなかったが、部屋に入ることで初めて内部が何かを知った。
「実機って、コレのことだったのか」
総矢の呟きを玲子は横目で少しだけ見る。視線を一番近くにあったロボットに移して近づく。
「さっきのとも、微妙に違うみたいね。銃が更に無理矢理追加されてる……これで戦争でもするつもりだったのかな? ……でもコレさっきのより腕のラインが美しくない」
脇のPCからシステムを閲覧しながら文句を言っている。その間に総矢は部屋の更に奥へと踏み入った。奥に進むと、機械の陰に液体がこぼれているのが目に入った。
(何だ? オイルか? こんな地下って状況でオイル漏れってヤバイだろ)
総矢はやれやれ、と思いながらオイル漏れと思われる場所へと近づく。近づくにつれ、異様な臭いを感じ、同時にそれがオイルでないことが分かった。
「……っ!」
何人もの人間が折り重なるようにしてその場で死んでいた。総矢が初めにオイルと思ったものは人間から流れ出ていた赤い液体だった。思わず顔を背け、目を閉じる。
(どうしてこんな……?)
玲子の下に戻った総矢は奥にあったものを簡単に説明した。
「それだけ? まぁもうこの部屋に用は無いね。次を早く調べるよ」
「それだけですか? もっと何か言うことは無いんですか?」
「何かを言ったところでその人達は生き返らないでしょ? それに、私はこれに関った人間は全て消すつもりでいるからその手間が省けたという点では寧ろありがたく思ってるよ」
玲子は無表情でそう言い切った。総矢はそれがどうしても納得いかなかった。
「そんな言い方」
「私は、こんな兵器を目的とするようなものを作り出すやつらを許さない、絶対」
「だからと言って殺す必要があるんですか?」
「なら逆に聞くけど作られた兵器で何の罪も無い人間が大勢死ぬのを許せというの?」
「兵器を壊して研究員を拘束すれば……」
「欲しがる人間は必ずいる。いずれは誰かに伝わり、広まり、そしてまた誰かが作ることになるよ」
「それはただの憶測でしょう?」
「人間はそういう生き物。だから私は私が作ったあの子も壊す。全部を壊すの」
総矢はもう反論できずにいた。玲子は後ろを向いた。気付かれないためだったが、目にうっすら浮かんだ涙を総矢は見逃さなかった。
「あなたが何を言おうともこの地下は潰す」
「……確かに、この部屋の兵器として存在するものは流石にあってはいけない。でも……」
総矢は玲子から目を逸らし、言葉を濁した。
「とにかく、ここは破壊。コレをこことあそこの柱と、あとそっちの柱にもセットして」
転送装置で取り出したのは爆弾だ。
「破壊って物理的にですか?」
「もちろんデータの方もよ。データは私がやる。だからその間にそれのセットお願い」
先程の涙はどこへ行ったのか明るく総矢に告げ、玲子はPCに再び向かい、ディスクを取り出していた。
梅雨ですね。ああ、梅雨ですね。