調査⑫ -地下の戦闘-
エレベーターを降りてから、二人は通路の両脇の普通の扉を無視して奥へと進む。エレベーターを降りたときから見えている一際大きい扉に向かって真っ直ぐ歩いていた。誰が見ても何かあるとしたらその先だった。扉のノブにそっと総矢が手をかける。当然能力を使い、扉の向こう側に人がいないことを確認しながら。だが、
「ぐふっ」
突然扉が開き、頭を強打した総矢は尻もちを着いた。
(な、何で? 誰もいなかったはず……)
確かにそこに人はいなかった。総矢が顔を上げると扉を開けた人型のロボットが目に入る。全身を白く塗られ、関節部分から僅かに見える金属の光沢は実に見事なデザインだ。
「あ」
玲子が一文字だけ言葉を発する。
「ロボット? ひょっとしてこれ」
振り返ると玲子が嬉しそうな顔をしている。
「ようやく見つけた~。……ん?」
だが、その表情からすぐに笑みが消えた。
「総矢! 離れてっ!」
玲子が叫ぶと同時にロボットは総矢に向かって左腕部を向ける。人間で言うところの掌から銃口が現れると同時に、射撃が開始される。総矢は慌てて飛び退く。銃弾をタイミング良く避けながら通路脇の扉を開き、身を隠す。
「あれどうなってるんですか?」
「見間違いじゃなければあれは私の作ったもの。武装も見た感じそのまま。言いづらいんだけど、警備プログラムも組み込んであったからそれが動いてるのかも」
(あれが警備ってレベルかよ? 銃仕込むって物騒すぎる警備だな、オイ!)
総矢は心の中で文句を言いながら対策を考える。その間もロボットはゆっくりと総矢たちに向って歩を進めている。
「でも、開発者の私には攻撃を加えないようにプログラムしたはずだから……」
扉の陰から体を出そうとした玲子を止める。
「リスクが大き過ぎます。それに場所が悪い。ここは一本道ですよ。さっきは何とかうまく避けられましたけど、いざっていう時に逃げにくいですよ。せめて上に出ましょう」
だが、総矢の提案もそう簡単なものではない。一本道で、背を向けて銃弾を避けながらエレベーターまで走り抜けるのは正直厳しい。
「……アレ? そう言えば明らかに異常事態なはずなのに誰かが来る気配も無いわね」
「そう言えばそうですね。銃の音なんて相当響き渡ってるはずなのに……どういうことですかね?」
「相手があの子だけなら問題ないね」
玲子は総矢の手を引き離し、扉の陰から歩み寄るロボットの正面に立った。
「あ~、あ~。分かるかな?」
「バ……」
総矢は手を離してしまったことを後悔した。再び手を伸ばし、扉へと引き戻そうとした瞬間に銃弾が放たれる音が聞こえる。銃弾が咄嗟に避けた玲子の髪と、伸ばした総矢の腕を掠めた。
「いつっ!」
「ダメみたいだね。少し荒っぽい事しなきゃ止まらなそう」
玲子は冷静だった。体勢を立て直し、立ち上がる。歩み寄るロボットに自らも歩み寄る。
「ちょ! 危ない!」
「ヘーキ! そこから出ないで」
玲子は放たれる銃撃をテンポ良く避けながらロボットへ近づく。ロボットに取り付けられていた銃からは一定時間ごとに一発ずつ放たれていた。銃撃に一定の間隔があることを知っていたとしてもそれを避けるのはそう簡単ではない、ハズなのだが玲子は余裕の表情で近づき続けている。総矢は死角で起きている出来事を、能力を使うことで何とか把握していた。
「よしっ!」
玲子がロボットから放たれた銃弾を自身の銃を盾にして弾くと同時に左腕部の付け根に銃口を向ける。麻酔銃ではなく、実弾が装填されたものだ。引き金を引き、大きな音と共にロボットの左腕が垂れ下がり、停止した。
「ふうっ、何とかなった。コレなら修理も少しで済みそう。もういいよ」
陰から出てきた総矢に対し、振り返りながら声をかける。
「武装ってそれだけなんですか?」
「そうだけど。別にこの子で戦闘するつもりなんて……」
言いかけた瞬間、ロボットの右腕部から鋭い刃物が現れた。ロボットに背を向けたままの玲子に向かってその先端を突き出した。