調査⑩ -協力-
「地……下? エレベーターにもそんなものは無かったはず」
疑いの視線を総矢に送っている。突然そのようなことを言われても信用できないのは当然だ。
「あるんです。この建物の研究室の一室に隠し扉があって、その先に地下へ通じるエレベーターがあるんですよ」
(いったいどこでそんな情報を……? いや、本当かは分からない……)
自身満々で言い切る総矢を見て、思わず事実であると信じてしまいそうになっていた。
「その顔はイマイチ信じられないって事ですね。俺だってこれが100%信用できる情報だとは思っていませんが、無闇に探し回るよりもマシかと思って試しに来たんです」
玲子は総矢の意見に同意した。
「それもそうかな。『もしかしたら』があるかもしれないしね。もう気付いてると思うけど、私の目的とあなたの目的は多分、無関係じゃない」
総矢は黙って頷く。
「だとすると、」
「協力した方が効率も良さそうですね」
総矢と玲子は握手を交わし、協力の意思を示しあった。思い出し、総矢は付け加える。
「それとその地下に入るにはIDだけじゃなくて、指紋の照合が必要なんです」
玲子は素直に驚き、問い直す。
「随分厳重みたいね。その部屋がどこかは分かる?」
「102室です。入ってすぐを右に進んだ所です。どうするんですか?」
玲子はニヤリと笑い、総矢に向かって一言告げた。
「少しばかりお休みしてもらうの。コ・レ・で」
玲子が手にしていたのは銃だ。総矢は目を丸くして『お休み』の意味を悪いものと連想した。
「これは麻酔銃。当たったらチクッとするくらいの痛みだよ。試してみる?」
「遠慮しておきます。それより、それ隠して下さい。行きますよ」
殺傷するものでないと分かり、安心した総矢は研究棟へと再び入っていった。
「それで? 中の人は?」
「私が調べた範囲ではそんなに多くなかった。ただ」
言葉を一度止める。
「ううん、何でも無い」
「……?」
総矢は疑問に感じながらも、そこから先は問いかけることが出来なかった。
(確実では無いけど、おそらく普通の研究者ではない人間が数名いるみたいなのよ。他の棟にもいたけどここは特に空気が重い気がした……)
玲子には確信が無かった。数値等で出る結果を元に物事を考える玲子には不確実な内容を口にするのは抵抗があった。
「とにかく、ここね」
102号室。戸を開け、中に入る。部屋の内部に人影は無く、静まり返っている。総矢はその場で目を閉じて能力を使う。だが、隣にいる玲子以外に部屋の中には誰もいない。
「入口はあの棚の裏ですが、指紋の照合も出来ませんね」
「この部屋にもさっきは人がいたから、少し待てば誰かは来るはずよ」
玲子の提案に従い、二人は部屋の影に隠れ潜むことにした。隠れてから五分も経たないうちに一人の男性が大あくびをしながら部屋に入ってきた。
「ふぁ~……ダメだ。やっぱ眠い……いくら俺の送別会だからってあそこまで俺に飲ませるかよ。気持ち悪くて全然寝れなかったなぁ」
男は入り口近くの椅子に腰掛け、手にした缶コーヒーに指をかける。力が加わる瞬間、左手の甲に軽い痛みを感じて体を硬直させた。が、その原因を知る前に男の全身から力が抜け、缶コーヒーが床に転がった。
マイペースで書いてます。ご容赦を。




