調査⑥ -潜入開始-
「……ずっとこのままでいたら関節がおかしくなりそうだな」
総矢は憂鬱になりながら一人膝を抱えて小さく丸まっていた。携帯の明かりを頼りに受け取ったパンを口にする。ただただすることも無くなった総矢は、振動の続く箱の内部で眠りに落ちた。
午前十一時、総矢が目を覚ましてから二十分程経過していた。
(も、もう限界だ……膝が、腰が……もう出てやる! これ以上我慢してられねー!)
内部からの開放スイッチを押そうと窮屈な箱の中で強引に右手を動かし、スイッチに触れようとした瞬間だった。これまでに無い衝撃が一度響いた後、長く続いていた振動が完全に停止した。
(……降ろされたみたいだな。とすると、ココはもう例の工場内部なのか……それなら)
総矢は『能力』を使い、周囲にいる人間を確認した。
(……3人か、どうするか……)
『……何すかこの箱? コレだけやたら重量ありましたけど』
『さぁな。コレが何なのかってのを知るのは俺達の仕事じゃねぇよ。いいから次行くぞ』
『わ、分かりました。……それじゃリストにあるのはコレで全部なんで我々はこれで失礼します』
『ご苦労様です。ありがとうございました』
『スンマセン。ちょっと俺トイレ行ってきていいっすか?』
『ったく。しゃーねーな、サッサと行ってこい。先にトラックに戻ってるぞ』
『トイレならこちらです。案内しますよ』
(都合よく全員がいなくなった。よし、今だな)
総矢はすかさず開閉スイッチを押し、箱の中から飛び出した。清正が用意た『必要な道具』を全て取り出し、箱を閉じるとすぐにその部屋を出た。
(とりあえずどこか隠れる場所を……)
総矢は人に見られないよう注意しながら廊下を歩きながら、隠れられそうな部屋を探した。人に見つかるわけにはいかないという緊張感を感じながら歩くうちに、『納品リスト保管所』と書かれた部屋を見つけた。
(保管所……ここなら大丈夫か?)
ドアノブを回して押し開け、中の様子をそっと伺う。人影は見当たらないが蛍光灯の明かりは点いている。その時点で危険は感じたが、早めに隠れる場所を確保したい感情を優先した総矢はそのまま音を立てずに中へと入った。
(とりあえず、一安心……ってとこだな)
総矢はドアから死角になる部分で手にしていた清正が用意したケースを開けた。中に入っていたのは従業員の作業服とキャップ、例の電子爆弾が二つ、電子爆弾と色違いのものが一つ、それと透明な液体の入った小さい霧吹きだった。
(作業服と電子爆弾は分かるが……この2つは何に使うんだ?)
疑問に感じながら早速作業服に着替える。着替えを終えると総矢は携帯を取り出し、清正に連絡を取る。
『もしもし?』
「水谷さん? 今無事に潜入したところです。少し聞きたいんですが用意したっていうケースの中に初めてみる物があるんですけど」
『液体のほうは即効性の睡眠薬。顔面近くで吹き付けると大抵の人間はすぐに眠る。もう1つの電子爆弾の色違いは正真正銘の爆弾。電子爆弾と違って実際に爆発するものだから取り扱いには十分に注意してくれ』
(冗談じゃねー……あの箱の中でうっかり爆発したらどうするつもりだったんだよ……)
「な、なんでそんな物騒なものを?」
『念には念を、だ。あるに越したことはないと思ったんだ。先に言ったら君は断るだろう?』
「当たり前です。こんな危なっかしいもの持ち運べって……」
『そうだ。見つかって逃げるにしても丸腰の君じゃ、数で圧倒されたらどうにもならない。相手を傷付けるか威嚇するか使い方は気味次第だ』
「威嚇、ですか……」
総矢はどうにも納得したくは無かった。だが清正の言う事も、もっともであったために已む無く持っていくことにした。ケースを部屋の隅に置き、総矢は入ってきた入り口へと向かった。
(……なっ!! だ、誰かいる?)
入った時には死角だった棚の陰から人の足らしき物体が出ていることに気付いた。
(しまった……今の会話まで聞かれてしまっていたのか……?)
気配を殺し、その場へと近づく。足の出ている部分の逆側から近づき、棚の裏まで来ると総矢は完全に呼吸を止め、そっと覗き込んだ。だが、目に入ったのは総矢が想像していたものとは全く異なる状況だった。手足を縛られ、目と口を塞がれた女性が2人その場に倒れていた。
(……何だ?)
総矢はすぐに二人に駆け寄り、首に手を当てる。
(脈はある……ただ眠っているだけみたいだな)
総矢にとっても好都合ではあったが、このまま放置しておくことも気が引けた総矢は、二人の足を拘束しているロープを切り、目と口を塞いでいたタオルを取り外してその場を去った。
(……俺以外にも誰かが侵入している)
総矢は確信した。
更新遅れて申し訳ありませんでした。