調査④ -特訓-
地下に向かう途中、改めて煉に尋ねる。
「……で、何なんですか? 俺に何の用が……」
「清正から聞いた。海沿いの工場地帯に行くんだってな?」
「え? あ、はい。ここの宿賃代わりにって事でですが」
「いいのか? このまま行くとお前は他のヤツらと同じ目に合う羽目になるぞ?」
煉の言い方は普段より厳しい。少なくとも総矢にはそう感じられた。
「……行きます。少し気になることもあるんです」
「まぁ理由は深くは聞かねーよ。とにかく行くんだな? なら何もしないよりマシだろ。気休め程度だが少し鍛えてやる。能力にも関して、な」
煉は軽く笑った。その笑顔から悪意は感じられない。純粋に総矢を心配しての台詞だった。
「分かりました。お願いします」
礼を言い、煉と総矢は先日戦った地下の訓練場に入った。
「ハァ、ハァ……」
三時間程の煉の訓練の後、総矢は床に仰向けになって倒れていた。
「ハァ、ふぅ……やっぱこの短時間じゃ完璧にってのは無理か」
「ハァ、ハァ……でも、完全じゃないにしてもこれなら少しは体力消費を抑えられます」
煉は一度深呼吸をしただけで息切れが治まっていた。
「大塚もこれはまだ不完全な状態だ。すぐにできるもんじゃねーってのは分かってる」
訓練を始める前に気休め程度、と煉が口にしていたことを思い出す。
「それでも、方法を知っているだけでも上達は早まると思います」
「随分と前向きじゃねーか。そんじゃ俺は先に部屋に戻らせてもらうぞ。じゃな」
煉は嬉しそうに総矢を見ると、訓練場から先に出て行った。一人訓練場の天井を見上げてボーっとしていた。
(能力の完全制御、か……かなり難しいが完璧にできれば……)
総矢は呼吸が整うと起き上がった。
(それもあるが、純粋に能力無しでもある程度は戦えるようになる必要はありそうだな)
先程の煉の訓練からしみじみとそう感じていた。
(守れる力くらいは欲しいな……せめて、身近な人だけでも……)
崎見総矢を名乗ってから出会った人物の顔を次々と思い出す。そして最後に、
(……理沙も)
顔も思い出せない妹を思い浮かべる。誰もいない訓練場で総矢は転送装置を起動させる。取り出した金属製の棒を握り締める。ひんやりとした冷たい感触とそこそこ重量感のある感覚。
(コレの開発者、か……連絡取れないような大変な事態だったらそれこそ俺にどうしろっての……このままじゃ完全に力不足、いや、足手まといになるだけだ)
総矢は部屋に戻った。IDカードを取り出し、規制情報を閲覧する。
――海岸の工場地帯にて、不穏な動きあり。調査の必要あり――
手を止め、情報の項目の一つに見入った。
(これか……水谷さんが言っていたのはこれのことか。それにしてもどうやってこの情報を手に入れたんだ? この前の反応からはレベル制限付IDの事は知らないみたいだが……)
詳細を調べたが、調査日や調査内容、不穏な動きについての詳細は分からなかった。
(これは……俺のIDレベルじゃ閲覧不可って事か。それから、こっちはどうだ……)
総矢はもう一つ『柏木玲子』を続けて検索した。ID制限無しで記載されている情報は他と変わらず名前と生年月日のみだけだったが、制限を解除した途端、情報量が急増した。
(あった。『転送装置開発者』、写真も出てる。この人で間違い無いな。現住所は……ないか。やっぱり閲覧不可なのか……?)
これ以上の情報はないと半ば諦めながら下へ下へと送っていた手を止めた。最後に赤文字で目立つよう書かれていた。
――事情聴取の必要性あり。現在、行方不明かつ捜索中。発見次第拘束せよ――