調査② -普段通り-
『鍵矢? いるの?』
下の階から聞き覚えのある声が聞こえる。
『ん、なんか用? 母さん』
自室で寝転んでいた総矢が気の無い返事をした。
『ちょっと牛乳切れたから買ってきて』
『……理沙に頼んでくれよ……』
『……何か言った?』
部屋で独り言のように呟いたはずの声は正確に母親の耳に入っていた。
『すいません。すぐいってきます』
『よろしい。急いでね』
嫌々ながら階段を降り、扉に手を掛けた。
『待ちなさい。あんたすぐ何でも忘れる……ホラ、お金』
『あ、あぁそうだった……』
金を受け取ろうと振り返った―――
(……ん。まぁ夢、だよな……。それにしても、やっぱり顔は見えなかったな……)
時計を見ると午後三時を回っていた。
「そりゃ腹も減るわけだ……行くか」
建物の外に出た総矢は自分がいた場所を知って驚いた。清正達のアジトであるこの建物はレイルの店から歩いて五分程度しかない場所にあった。
(こりゃいい、随分と便利だな)
戸を開くと聞き慣れた声が聞こえる。
「よぉ、来たのか」
「ども。それより腹減ってるんです。何か食べ物ありましたっけ?」
レイルがメニューの一角を指差した。
「それじゃサンドイッチセット」
「はいよ、ちょっと待ってな」
そうは言ったもののレイルは新聞を広げ、カウンターに腰掛けて動こうとしない。
「……サンドイッチは?」
「だからちょっと待ってろって……」
言い終える前に店の戸が開いた。元気な声が店内に響く。
「こんにちはーっ!」
「よし、いいタイミングだ優衣ちゃん。早速注文、サンドイッチ頼む」
レイルが掛けた言葉は優衣には届いていなかった。
「総矢さん。来てたんですね。何か注文はありますか?」
「あ、ああ。じゃあサンドイッチセットを頼むよ」
「はい、少々お待ちください」
嬉しそうに返事をすると優衣はカウンターの中の流し台へと向かった。
「……今、俺言ったじゃん。総矢が来るといつもこうだな」
優衣はご機嫌そうにサンドイッチを用意している。
「……少し話がある。優衣ちゃんが帰った後で、な」
優衣を見ていた総矢に小さく呟いた。
(拒否してぇ……)
総矢は心ではそう思いながらレイルを見た。だがその表情は真剣なものだったために総矢は断る気が一気にして失せた。
「……分かりました……でも、今は力になれるか分からないです……」
「お待たせしました。レイルさんと何話してるんですか?」
「あぁ、ありがとう。いや大したことじゃ……」
「聞いてくれよ。優衣ちゃんに猫耳が似合いそうだっていきなりコイツが言い出すんだよ」
「ブッ!! ちょ、ちょっと待て。いつ俺がそんな……」
思わず総矢は噴出した。驚きながらもレイルの暴走を止めようとした。
「え? えぇっ? いきなり何言い出すんですか? ……ね、猫耳、ですか?」
困った顔をしてから優衣は総矢にゆっくりと視線を向けた。
「……ゆ、優衣ちゃん前向きだな……。別に引いてもいいんだぞ」
レイルが顔を引きつらせながら呟いた。
すいません。今回、全然進展してないです……