調査① -内容-
「潜入先はここからそれ程遠くない。海岸沿いの工場地帯の中の1つだ」
清正が総矢の目の前のテーブルの角に触れると、上面全体が瞬時に地図へと変わった。
「ただ、正確な位置が掴めていない。ここから……ここまでのどこかに在る筈なんだが」
清正が指でなぞった範囲はかなり広い。一つの建物が巨大なこともあり、軽く見積もっても5km四方はある。
「こんなに……広いんですか?」
「だからこそ君にやってもらいたい」
清正は左手でずれた眼鏡を掛けなおし、不敵に笑いながら告げた。
「君の『能力』があれば尋問なんて野蛮な真似はしなくても済むのは当然だ、下手に聞き込みをする必要さえ無いだろう? つまり、君はしばらくここにいるだけで良いんだ」
「……そこに入ること自体難しいんじゃないですか?」
巨大な工場エリアの入り口にある厳重なセキュリティに目を落としながら尋ねた。
「逆だ。入れはしても出るのが困難なんだ、ここは」
清正は目を細めながら続けた。
「これまでも俺達の仲間が何人か調査に向かっている。戻ってきた人間は皆、その時の事は何も覚えていない。何を見たのかも何をしていたのかも……一番悲惨なヤツは、自分の事すら分からなくなっていたんだ……」
総矢は音を立てて唾を飲み込んだ。
「記憶を、消した……? 一体どうやって? それにそうまでして守る秘密って……」
清正が頷く。
「そう、それを調べるのが目的だ。ここまで話しておいてなんだが……」
「やめませんよ、俺は行きます」
「……そうか。少し準備が必要だ。2日間待っててくれ。それから……ほら」
清正は机の中から鍵を取り出し、総矢に放り投げた。
「っと。 ……301室?」
「ここの中の一室だ。そこを好きに使ってくれ」
「いいんですか?」
「くどいぞ。協力関係になったんだろ? ID登録もしたし、出入りも自由だ」
「……どうも」
総矢は清正の部屋を出た後、まずは受け取った鍵の部屋へと向かった。
「ここ、か」
鍵を開け、部屋に入る。狭い部屋の中にはベッドが一つだけ置いてあり、それ以外の物は何一つ無い部屋だった。
「ベッド付か、有難いな……」
総矢はベッドに仰向けに倒れ天井を見上げた。
(記憶を消す、か……記憶……を……消す……?)
徐々に瞼が重くなり、やがて総矢の意識が途絶えた。
「清正、本当に総矢にあそこの調査任せるのか?」
「ああ、適任だと判断したんでな。何か不満があるのか?」
煉が清正の襟に掴みかかった。
「……何だ? 言いたいことがあるなら口で言え」
「……っ! てめぇはまた犠牲者を増やしたいのか!」
「総矢が自分で行くと言った」
「だからって! あいつの記憶が消されてもいいってのか?」
「いずれは誰かがやらなきゃならない。総矢なら無事に戻る可能性が高いから俺は提案した。それがそんなに許せないか?」
「今の総矢が行ったところでどうにかなるとは俺には思えない」
「それはお前の主観でしかない」
そう言い切った清正が煉の手を振りほどいた。
「……これ以上は話しても無駄みてーだな」
「そうだな。これ以上は時間の無駄だな」
「俺は総矢のサポートに入るぞ」
「お前が? ……止めても聞くつもりはないな? 好きにしろ」
煉は荒々しく戸を閉め、清正の部屋を後にした。
数少ない読者の皆様、遅くなって申し訳ありません。
先週一週間色々と手が離せなくなり、休みました。
これからもちょくちょくこんなことがあると思いますが、どんな形であれこの小説は完結させるつもりなので、これからもよろしくお願いします。