捜索⑬ -能力の判定-
右側頭部への蹴り、正面胸元に左手の正拳、続けて右手の裏拳……そこから最後は顎狙いの回し蹴り。それらの一連の流れを全て総矢は受け流していた。
(へぇ、確かに俺の攻撃の前から受け流しの動作が始まってるな)
「だが、それだけじゃない」
清正が呟いた。
「突然、何?」
隣のみことが当たり前の疑問をぶつける。
「鍵矢の初期動作は確かに全て煉のものに合わされ、尚且つ煉の攻撃の前に始まっている」
「だから能力は間違いなく……」
「だが、そうであったとしても動きに無駄が無さ過ぎる」
「そう? 動きが分かるならアレくらい誰でもできるんじゃないの?」
実際、清正の意見は正しかった。総矢は常に煉の動きに対し、最良の立ち位置へ動く。単純に避けるだけではなく、次の自分の反撃と煉の体勢をも考え理想的な立ち位置へと足を運ぶ。突然、煉が攻撃を中断した。
「おい、鍵矢! お前も少しは攻撃してこいよ」
「カウンター狙ってる相手にわざわざ攻撃仕掛けるほどバカじゃありませんよ!」
「へぇ、そこまで分かるのか。そんじゃあ……」
煉の動きが速くなる。煉はここまでの間、常に初動と同時に攻撃方法を頭の中で呟いていた。考えながら体を動かすという動作は自身では意識せずとも確実に煉本人の動きを僅かながら鈍らせていた。『考える』行為を止めた煉の動きは先程の動きよりも明らかに速い。
「くっ! うおっ!」
それでも、何度も繰り出しても拳、蹴りは総矢に重度のダメージを負わせることはできなかった。だが、避けきれない攻撃を受ける回数が徐々に増えていたのも事実だった。
「ハァ、ハァ……感覚に頼った無意識の攻撃もここまでかわされるとはな」
煉は軽く息を切らしながら少し悔しそうに呟いた。総矢は至って冷静な表情をしていた。
(……って~。防いでるはずなのにそれがここまで痛いってどういうことだよ)
だが、それが総矢の本音だった。
「フゥ……。よし、それじゃこっからは本気だ」
「え? まだやるつも……」
口を開きかけた総矢は慌てて後ろに飛びのいた。総矢が立っていた場所は火柱が立ち上る。
(ほ……炎? 大塚さんと同じ……いや、この人の能力はそれよりもヤバい!)
「ギリギリ……とは言え、悪くねぇ反応だな」
(っ! 確かに今のはヤバかった! 能力を一瞬でも解除したら死んでいたな……)
先程までの楽しそうな表情は煉から完全に消え失せていた。本気というのは嘘では無かった。その煉の表情の変化を見ていた清正も更に真剣な表情へと変わる。
「どうしたの?」
思わずみことが尋ねる。
「ここからが本番だ。彼が危険になった時のための対策も含めて、俺も気を抜いてられない」
緊張した雰囲気の中、みことは煉の攻撃を避け続ける総矢に視線を戻した。視線の先では総矢が煉の炎を巧みに避け続けていた。みことが視線を戻した直後、これまで防御か受け流しに徹していた総矢が初めて拳を振るった。
(このタイミングでの俺の攻撃は考えてない! これならっ!)
だが、煉は拳を払いのけそのままカウンターで総矢の顔面に肘を入れる。
「がっ……いってぇ! な、何で……?」
頬を押さえながら体を起こし、総矢は不思議そうに煉を見上げる。
「何で、って何がだ? 俺はお前のパンチを見てから動いただけだぞ」
「俺の攻撃について全く想像してなかった筈なのに、って事ですよ」
「イヤ、単純に遅いだけだ。振りもデカいしな」
実際、総矢の攻撃はそれ程遅くは無い。それでも煉にとっては『遅い』と感じるレベルだった。
「……成程な。大体分かった。煉、鍵矢、終わりだ」
一人頷きながら清正が突然、二人に終了を告げた。
「ハァ? 今から面白くなりそうだったってのに……」
(た、助かった……)
過度の緊張により、総矢の体力消費は想像以上に早かった。
「それは別にどうでもいい。俺達が知りたかった鍵矢の能力と実力は十分に分かった」
「……あー、そーかい……」
煉の気の無い返事を聞き流し、清正は二人に歩み寄る。
「2人ともお疲れ。それから鍵矢、最後の質問だ」
清正は鍵矢を見て真剣な表情のまま尋ねた。
「君は記録上死んでいるはずの人間だ。何故生きている?」