捜索⑩ -勧誘-
到着するまでの間、誰もが口を閉ざしていた。煉と清正は何かを考え込むような表情、みことは相変わらず疑いの眼差しを総矢に向け続ける。もちろん目隠しをされた総矢にはそんなことは分からない。移動の間に少しでも眠れば体力の回復ができたかもしれないが、とてもじゃないがその余裕は無かった。
「着いたぞ、っと鍵矢! お前はまだそれ外すんじゃねぇぞ!」
煉が車のドアを開けながらクギを指す。
「分かってますよ。俺だって命は惜しいですよ」
苦笑いしながら答える総矢に煉は再び肩を貸す。
「大塚さんも彼の話を聞いていくか? ここから先は自由にしていいぞ」
「聞いていくわよ、ここまで着たら当然でしょ」
「それなら1番の会議室に先に行っててくれ。俺は少し荷物を取ってくる」
「分かったわ」
清正の足音が遠くなり、すぐに聞こえなくなった。総矢は見えない状態のまま、足音との消えた先とは別方向の『1番の会議室』へと向かった。
扉の開く音。中に入る。閉じる音。もうひとつガチャリという鍵の掛けられる音。その後、総矢は目隠しを外す許可を得た。
「ふぅ……」
思わずため息が出る。目隠しを外した総矢の目に入ったのは、完全に外部と隔絶された部屋だった。窓は無く、出入り口は今通って入ってきた一つのみ。現状の確認後、自分の後ろを振り返る。何の変哲も無い普通の扉、その脇には大塚みことが立っている。まるで部屋の唯一の出口を自らの手で封鎖するかのように。
「悪いな。もう少し待っててくれ。清正は多分すぐに来るから」
煉が総矢に一言掛ける。先程自分を殺すことについて会話していた人物とは思えないごく普通の言葉に戸惑う。
(あれ? やっぱりそんなに危ない人じゃ……ないのか? さ、さっきのが冗談だよな?)
外からの軽いノックにみことが扉の鍵を開ける。
「待たせてすまないな」
軽い謝罪と共に会議室に入ってきた清正。その手にはノートPCがあった。
「それじゃ早速、まずは自己紹介からでも。そうは言っても名前ぐらいだが。俺は水谷清正」
「火口煉だ」
「大塚さんとは知り合いみたいだから今は省略させてもらうぞ……さて、本題だ」
清正の表情が真面目になる。真面目なときの清正の目は、冷たくすべてを見透かされるような不思議な威圧感がある。
「な、なんでしょうか?」
「遺伝子研究所で君が知っている限りの内容を話してもらえるか?」
「分かりました。……あの、けど関った人物を特定できる内容は伏せさせてもらってもいいですか?」
「分かった。それで構わないから話してくれ」
「まずは……」
総矢は一人で簡単な概要を話した。事件が発生したという情報を得た人物から、内部に残った人達を助けて欲しいと頼まれて遺伝子研究所へ向かったこと。研究所内では動物が暴れ周り、死者や怪我人がいたこと。そして――
「あの研究所では人体実験も行われていたようです」
黙って話を聞いていた三人は無表情、怒り、疑いとそれぞれ異なる表情を見せた。
「証拠等はもうないとは思いますが、俺は人体実験の被験者と主張する人物に会いました」
「研究所の中でか?」
煉の問いかけに無言で頷き、説明を続ける。
「異常な脚力や皮膚の硬さ等、確かに普通の人間では有り得ない体を持っていました」
無言且つ無表情で話を聞いていた清正がそこまで聞いてようやく口を開いた。
「鍵矢、俺達と手を組まないか?」
口元には不敵な笑みを浮かべていた。