捜索④ -捜索開始-
サブタイトル変更させて頂きました。
電話を終えた火口 煉に同室にいた水谷 清正が話しかける。
「煉、今の連絡は何だ?」
「仕事だ。圭輔が面白い情報持ってきやがった。全員呼び出せ、清正」
彼らは情報屋。仕事はその名の通り『情報の提供』。ひどく危険な状況だが、それでも必要な情報がある時や、一般の記者たちが法に触れる危険があるため立ち入れない事情の場合、彼らに情報収集を依頼する。当然ながら彼らは法に触れるようなことは経験済みだ。
「俺に命令する権限はお前には無い筈だ。それと先に説明をしろ」
「……ノリ悪ぃな。説明するって」
吐き捨てるように言った煉に対し、清正はあくまで冷静に話を進める。
「簡潔に説明してくれ」
へいへい、と口ではなく肩と目で返事をした。煉は昨日の大塚との会話を含め、内容の説明を始めた。
「なるほど……彼が本当に志井鍵矢だとしたら、貴重な情報を持っている可能性は十分にあるな。君の言う通り総動員で探すべきかもしれない」
清正が静かに告げた。
「大塚には黙って探すことを俺は勧めるが、どうだ?」
「何故だ?」
「今話しただろ。アイツは自分が殺し損ねたおかげで秘密を知られているだけの存在だと思い込んでいる。彼よりも自分の秘密を優先すると思うぞ」
「彼女に『見つけても殺すな』という命令を出したらどうだ?」
「どうだか……。まだ俺達のことも完全に信用しきっていないんだぞ?」
清正は目を閉じ、数秒考えた。
「……分かった。お前の意見を聞き入れよう。煉はすぐに捜索を開始してくれ、俺もすぐに出る」
「了解、そんじゃ」
煉は部屋の外へと駆け出した。
慰霊碑の傍で、総矢は立ち尽くしていた。目を閉じるとかつての出来事が次々に目蓋の裏に甦る。家に帰ったときにリビングで寛いでいた父親、食事の支度をする母親、二階から下りてきた妹、実に平和な日常の風景を思い出していた。だが、塗り潰されたように、あるいは靄がかかったように思い出の中で、家族の顔だけが見えない。思い返すたびに理由を考え、家族の記憶さえ無くしてしまうのではないかという不安に駆られる。
(ダメだ……分からない)
総矢はすぐ傍に立っていた木の根元に座り、再びボーっと慰霊碑を見つめていた。総矢以外にも僅かながら人はいる。花を手にした者、慰霊碑の前で手を合わせる者、目的は皆同じだった。
(あの事件の犯人はまだ捕まっていない……使用された爆薬は例の大使館から流れたものであることは間違いないとして、それを買った奴が……ん?)
総矢は見覚えのある人間が花を持って慰霊碑のところへ歩み寄るのに気付いた。
(あれは、大塚さん!? ま、まぁ確かにココに来ても不自然ではないけれど……)
総矢のいる位置は慰霊碑から見て間右の方向だ。迂闊に動かない限り見つかる可能性は低い。とは言え見つかることは命の危険に直結することを知っている総矢は木を楯に体を隠し、様子を見る。
「……」
慰霊碑の前に花をそっと置くと、みことは静かに手を合わせて目を閉じた。長く目を閉じ、動かないみことを見ていた総矢は視線を外し、呼吸を整える。
(よし、バレてない……よな?)
再び総矢が、木の陰からみことの様子を覗く込んだ瞬間。
総矢は、大塚みことと目が合ってしまった。
前書きにも書きましたが、サブタイトルを少々変更させて頂きました。
今更ですみません。
当然ながら変更点は『捜索』を付け加えただけです。