捜索③ -重要度-
「ただいま」
「おう、おかえり陽太」
散歩を終えた少年、陽太が家に帰ると、陽太の兄が玄関で少年を出迎えた。彼が手にしていた書類の内の一枚が少年の足元へと舞った。
「悪い、陽太。それ取ってくれ」
「何だ? 兄貴、もう仕事に出かけるのか?」
「まぁな。あのテロ事件からもう一月以上経ったけど、確認したいから資料持って来いって上の人間がな。感謝してるぜ、さすがに俺1人でこの数の人間の調べるのは厳しかったからな」
グリグリと荒っぽく頭を撫でる。
「ふぅん、まぁバイト代は十分だったし構わな……え!?」
拾い上げた紙を見た陽太は目を丸くした。その紙には数人の男女が顔写真と名前が記載されており、左上には『7月7日 テロ事件 死亡者リスト』とある。その中の一人は先程出会った総矢だった。
「どうした?」
「この人……俺さっき会った……まさか、幽霊? だからゴンがあんな反応したのか?」
「え? おい、陽太。お前今何て言った!?」
総矢を指差して震える陽太を見て、彼の兄は詳しい話を聞き始めた。
総矢は、街から少し外れた小高い丘の上に到着していた。矢口から送られた地図の場所は個々の墓がいくつも並ぶ墓地とは異なり、綺麗に整備された所であった。そこには大きな慰霊碑が一つ置かれ、一人一人の名前が刻まれていた。石碑の周囲には数多くの花束が置かれている。犠牲者の名前は非常に多かったが、総矢はすぐに自分の名前のすぐ近くに刻まれていた両親の名前を見つけた。
「父さん、母さん……俺の名前はあっても理紗のはない、か」
しかし、やはりそこにも妹の理紗の名前だけは書かれていなかった。だが逆にそれは妹の生存を示していると総矢は信じていた。
(……父さん。俺は必ず理紗を守るよ、今度こそ『俺』が)
両親の名前に手を当てながら目を閉じ、硬く決意した。
陽太から総矢と出会ったという公園まで全力疾走できた兄は息を切らせながら周囲を見回す。
「クソッ! やっぱりいないか……」
携帯を取り出し、連絡を取り始める。連絡先の相手は電話に出るとすぐに話しかけてきた。
『圭輔か? どした? お前から連絡入れるなんて珍しいな』
圭輔が電話をかけた相手は火口 煉。煉は昨日、大塚みことと話をしていた人物だ。
「煉、よく聞け。重要な情報だ。大塚みことと同じ航空機テロの生存者かもしれない男の目撃情報だ」
『……は? お前何を言って……』
煉に対し、圭輔は言葉を被せながら話す。
「名前は『シイ ケンヤ』、20代男性」
『生き残りって、生き残ってるのはもう大塚みことだけだろ? ……待て、『シイ ケンヤ』だと?』
煉は昨日のみこととの会話の中に出た男の名前を思い出した。
『圭輔、詳しく話せ。確かに重要かもしれない』
煉の目つきが鋭くなる。
一通りの説明を受けた煉から返ってきた返事は簡単なものだった。
『分かった。俺達全員で探すぞ』
「全員で? 何もそこまで……」
『いや、俺の勘だがそいつはかなり貴重な情報もってやがるぞ。俺達情報屋が全員で動いてもそれに釣り合うほどの情報をな』
「分かった。俺は引き続き彼を探す」
通話を終えた圭輔は興奮していた。
(あいつの勘、意外と当たるからな。全員で動くほどの情報となると……やべぇな)
投稿遅くなりました。すみません。
遅くなりましたが、メリークリスマシタ!