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大塚みこと

 4F最北端の個室に救助されたうちの一人はいた。大塚みこと。彼女はCAとして最も近い出口に座っていたために最初に救出された、という話だ。

「初めは君と同じように相部屋でしたが、彼女と同室だった方から苦情が来まして。」

「どんな苦情だったんですか?」

「すみません。それはお答えできません。…着きました。開けますよ?」

 軽くノックをしてから矢口は扉を開けた。

「……」

 黒く長い髪の女性が外を眺めている。病室に入った二人を気にも留めずに外を眺めている。

「みことさん。今日の体調はいかがですか?」

「……」

 矢口に声をかけられ、みことはゆっくりと振り返り、小さく頷く。視線を矢口から鍵矢に緩やかに移動させる。みことと目が合った鍵矢は慌てて自己紹介をした。

「あ、俺は志井鍵矢っていいます。あなたと同じ航空機の事件の生存者です」

「……」

相変わらずみことは何も話さない。だが、鍵矢の言葉を聞き、みことの表情は少し硬くなったように感じる。僅かな変化であるため、矢口は気が付いていない。

(……あれ?なんだこの人、まさか……。だとすると、矢口先生の前で話すのはまずいな……)

「話を変えましょう。俺の出身は……」

 鍵矢は返事のないみことを相手に自分の話をしばらく続けた。

「そろそろ戻りましょう。私も午後の診察の準備をしなくてはなりませんから」

 黙って様子を見ていた矢口の一言で二人は話を切り上げ退室した。

「みことさん、また来ますね」

 部屋を出る際に鍵矢はそう告げた。

「先生の言ったとおり返事してもらえませんでしたね」

「ええ、ですが君の話を聞くことで少しずつでも心を開いてくれるようになるかもしれません。ですからこれからも時々は彼女の部屋に行ってあげてくださいね」

「分かりました」

(やはり先生は気付いていないみたいだな。)


 その夜、消灯後に鍵矢は一人静かにみことの病室へ向かう。四階に到着した瞬間、鍵矢はどこかから流れてくる負の感情を感じ取った。

(暗い感情…いや、黒い感情というべきか…)

 原因は分かっていた。みことの部屋へと急ぐ。部屋に入ると目に飛び込んできたのは昼間と変わらず外を眺めるみことの姿だった。

「……」

ゆっくりと振り返るみこと。その様子は昼間とまったく変わらない。

「今は俺しかいませんよ。もうその演技やめたらどうですか?」

 みことの反応が変わった。

「……医師やカウンセラーも騙せていたというのに。どこで気付いたの?」

「今日の昼間。『事件』て言葉に少し反応していた。矢口先生は気付かなかったようだが。」

「表情には出てないはずよ。あの注意深い矢口先生が見逃すはず無いわ。」

(……俺ってそんなに鋭かったか?)

「まぁそれはいいとして、どうしてこんな演技していたんですか?何をかくしているんですか?」

「あんたには関係ないことよ」

「……すべて復讐のため、ですね。あの事件の」

「犯人が憎いと思わない?殺してやりたいと思わない?死んだ人たちの無念を晴らしたいとは思わない?あの日からそう思って毎日過ごしてきたわ」

 彼女が発する黒い感情が針のように鍵矢の頭を突き刺す。苦痛に顔を歪め、頭を抑える。

「そんなことばかり考えてたからかねぇ?こんな『力』が手に入ったのは」

 掌を上に向け意識を集中させると、みことの掌には赤い炎がゆらゆらとゆれている。

「な……?」

「あんたになんで見せたか分かるかい?演技のことを知られたから当然口封じはしなくちゃならない。それとここでの生活中に訓練したこの『力』がどのくらい使いこなせるか確かめておく必要があるからさ」

「本当に復讐で頭が一杯みたいですね。俺はまだ死ぬ訳にはいかないんで抵抗させてもらいますよ」

 そう言うと鍵矢は右足のスリッパを飛ばすと同時に振り返り、病室の扉めがけて駆け出した。

(この部屋さえ出られれば……)

「単純ね。分かりやすすぎるわよ」

 みことは自分に飛んでくるスリッパを避けながら掌の炎を病室の扉に向けて投げつけた。炎は扉を赤く燃やし、変形させた。熱さをこらえて鍵矢は扉を必死に動かそうとするが、まったく動かない。

「だれか! 助けてくれ!」

「大声出しても無駄よ。ここはナースステーションからもっとも遠いうえに4Fにいるのは心に病を持った患者ばかり。助けなんて来ないわ」

(どうする……どうすればいい……)

「火災報知機も無駄よ。何度も火を使って作動させていたら困り果てた看護師達が取り外してしまったみたいだからね。ほら」

 炎を天井に投げつける。変化は何も無い。

「同室だったの人の苦情の原因もそれか。でもこの扉見たら誰でもおかしいと思うだろ」

「朝までには直すわよ。この『力』を使ってね。だから……もう燃えてしまいなさい!」

 鍵矢に炎を投げつける。

「やばっ……!」


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