捜索① -情報確認-
リゼ達親子が店を出て、帰国した夜のことだった。
「お前もそろそろ帰ったらどうだ? 昨日泊めたのは『仕方なく』だったんだからな」
「そう、ですね……」
口ではそう言っているものの、総矢はカウンターから立ち上がりそうにない。
「そもそもお前がどこに住んでるか聞いてなかったな。まぁ基本的に名簿の登録に必要なのは連絡先だけだからな」
(家、か……)
総矢は焼け落ちた自宅を思い出す。今の総矢には自宅へ行っても野宿と大して変わらない状態だ。残り数時間で九月へと変わる時期ではあるが、残暑が厳しいため野宿したとしても凍えて死ぬとは考えられない事がせめてもの救いだった。
「おい、聞いてるか?」
ボーっとしていた総矢の顔を覗き込みながらレイルが話しかける。
「え? あぁハイハイ。それじゃそろそろ帰りますよ」
「おう、そんじゃな」
別れを告げ、総矢は一人店を出た。
(帰る? 俺はどこへ帰ればいいんだろうな……)
総矢は今までのことを思い出す。テロ事件の後はしばらく矢口がいた病院、その後は退院直後にまたもや遺伝子研究所で大怪我、またも病院で数日の生活。
「怪我でもして、病院のベッドに帰れってのか?」
ため息をつきながら呟く。行く当てのない総矢は町をさまよい歩いた。大きい池のある公園のベンチに座り、空を見上げる。
(今日はともかく、他の事件は死んでもおかしくないものだったよな……。でも生きている。これは全部『能力』があったからだよな。)
自身の能力に感謝しながらも、その能力の問題点についても少々悩む。
(極端に体力が減るからな。病院とか研究所では使いすぎて回復するのに丸一日必要だった。でもそれは大塚みこともそうだったはず。こういう能力ってのは体力消費が激しいみたいだな)
冷静に分析しながらIDを取り出した。携帯に接続し、リゼ達のニュースを再び見る。
IDによりロックされていた情報の一部が閲覧可能となった。
『この事件の解決にはこの親子以外に関わっていたものが数名いる』
ロックされていた中にその一文見つけた。
(やはり完全には情報を隠し切れないか。俺のIDレベルでこれが閲覧可能って事は、上に行くと名前まで割れるかもな……)
不安を感じつつも、総矢にはどうすることも出来なかった。だがそんな不安とは裏腹に、最高レベルであっても実際には総矢達の名前までは明かされてはいなかった。
暗くなり始めた時間帯、人気の無い工場跡地で一組の男女が会話をしていた。女性の方は大塚みことだ。
「……って訳で私の攻撃は全部避けられたのよ。で、何でまたこんなこと話させるの?」
「俺は直接は聞いてない。いいから話を戻すぞ。全部避けられたと言っても途中からだろ?」
「確かにそうだけど、でも違うの。止めを刺そうとしてからは1発も当たらなかったわ」
「……俺が見ていた限りでは初めから動きは悪くはなかった。お前が倒れるまで動きが極端に速くなった訳でもないように見えたが?」
この男性はかつて病院にいた大塚みことを監視していた人物だ。それ故直接聞いていなくとも大体のことは分かっている。
「確かに速くはなっていないわ。でも確実に見切られていた。まるで狙いが見透かされているような……」
考えながら話すみことに対し、男性はニヤつきながら答えた。
「お前単純だからな。考えがすぐ表情に出る」
キッと睨みつけ、反論しようと口を開く。が、言葉を発する前に男性が続けた。
「ほらその顔だ。まぁいいや、そんでその男の名前は何て言ったっけ?」
「志井 鍵矢よ。私と同じテロ事件の生存者の1人」
「……? すまん、もう1回言ってくれ」
「『シイ ケンヤ』よ」
男はポケットから取り出した端末でデータを照合した。
「……俺の仕入れたリストではそいつ死んでるぞ?」
「……え? 死んでる?」
男はデータを再確認する。
「間違いない。あの事件で助かった人間は3人。1人はお前、だがもう2人は十分な情報得られてないし、俺の監視はお前が中心だったから十分には探りを入れられなかった。それとな、リスト上では今日までの生存者は既にお前1人しかいないぞ」
「それなら、秘密が、」
「ああ、ばれることは無いんじゃないか?」
それを聞いたみことは安堵の表情を浮かべた。
遅くなりました。
色々と方向性を考えていたら、かなり時間かかってしまいました。
登場人物を増やすとキャラが被りそうで怖いです。