護衛⑩ – 翌日-
事件の翌日。翌日とは言っても、既に午後三時を過ぎている。
「……アレ?」
総矢はソファから身を起こした。見覚えのある部屋だ。初めてレイルに会ったときに通された部屋であることは遠い昔のように感じた。左右を見渡しても部屋の中には誰もいない。
「……俺は、どうしたんだ?」
思わず独り言を呟く。総矢は起き上がり、部屋を出る。店のカウンターではレイルがコーヒーを淹れていた。
「やっと起きたか。ってかお前、寝すぎだろ」
総矢は呆れるレイルに苦笑いし、記憶が途切れるまでのことを尋ねる。
「帰りの車ん中で眠って全く起きなかったんだよ。仕方ねぇからココに連れてきて中に運び入れてやったんだ」
と簡単に説明した後、一言付け加えた。
「当然だがこれも貸しに入れていいよな?」
「……え~と、拒否権はないですよね?」
レイルはニヤリと笑い、総矢は諦めてため息をついた。その直後、店の戸が開いた。レイルが声をかけるより早く戸を開けた人物が挨拶する。
「こんにちはっ!」
優衣だ。元気よく入ってきた少女はそのまま総矢の隣に座る。
「よっ。昨日は親父さんに怒られなかったか?」
レイルがそう尋ねたのは、昨日の事件で優衣の帰宅時間がかなり遅くなってしまった事を気にしてである。レイルが車で家まで送りはしたものの、優衣が家に到着したのは午後8時を回ってしまっていた。
「怒られました。昨日は少しお手伝いが忙しくて、長引いたからって言ったのに……」
優衣は余計な心配をさせるだけだと思い、事件に関わったことは両親にすら口にしなかった。
「悪くない言い訳だがな」
レイルが笑いながら答える。
「そしたら、『これからは帰りが5時半を過ぎたら手伝いは2度と禁止』って約束させられて……」
優衣は不満そうに口にした。それから目覚めたばかりの総矢に二人が昨日の事件についてのテレビや新聞での報道の内容を色々と聞いていた時、
「ユイッ!」
その張り上げた声は戸が開く音をも掻き消した。声の主は開いた戸から走ってそのまま優衣に飛びついた。二人は何を言う訳でもなく見合って笑った。
「よー、リゼ。また1人できたのか」
レイルが皮肉っぽく言った。そんな些細なことが全く気にならないのか、嫌な顔をせずに素直に答える。
「今日はお父様と一緒よ」
(な、何だこの素直さは? こ、これはホントにリゼなのか?)
総矢は心で叫んだつもりだったが、言葉に出てしまっていた。少女達が総矢を見る。
「失礼ね!」
「そうよそうよ!」
(息ぴったりだな、オイ)
そんなやり取りをしている間に、リゼの父親も店の中に足を踏み入れていた。
『護衛』の話の次ですが、諸事情により少し投稿に間が空いてしまいそうです。
簡単に言うと作者の個人的なミスが原因です。少しばかり投稿遅れると思いますがご了承下さい。