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護衛⑥ – 裏切り -

「……という訳で協力をお願いしてもいいですか?」

『……なるほど、んでその役が俺か。分かった、協力してやるよ』

「ありがとうございます。それじゃ」

「総矢さん? どうしたんですか?」

「どうして今は理由を教えてくれないのかしら? どうでもいいけど早くお父様の所に……」

 二人の質問に総矢が答えることはなかった。口元は僅かに笑みが浮かんでいる。

「……それより、今のうちにトイレに行っておいたほうがいいぞ」

 それだけ言うと総矢は入口の方を見つめる。二人が総矢の言う通りにトイレに入った直後だった。見つめる先で自動ドアが開き、ロブが店内に入ってきた。戻りが遅いことを不信に思い、様子を見に来たのだ。

(アイツも随分余裕がないみたいだな……それは俺もか。レイル、早くしてくれよ……)

「お嬢様達はまだ化粧室ですか?」

「あぁ、そうだ」

「少し、時間がかかりすぎでは?」

「同感だ。だが、いくらなんでも女子トイレには……」

「そんなことを言っている場合ですか! 中で何かあったかもしれないんですよ!」

 急ぎ足でロブは総矢の前を通り過ぎ、中に入ろうとする。が、その瞬間、二人の少女が化粧室から出てきた。

「あ、ロブ。……まさか今ここに入ろうとしたの?」

 少女に疑惑の眼差しを向けられた大男は動揺しながら弁解する。

「あ、いえ。お嬢様達があまりに遅いので心配になって……」

「だからって……まぁいいわ。急ぎましょ」

 車に戻ると、総矢達は大使館へ向けて、移動を再開した。


 移動を再開してから約三十分、車は大使館へと到着した。

「申し訳ないのですが、お2人はここで……」

 入口前で総矢と優衣に言うが、優衣は納得しようとしない。困り果てたロブに総矢はそっと耳打ちした。

「大丈夫ですよ。俺は大使館側の方に雇われたんですから。この子も俺には協力しますよ。それに、この子がいたらリゼが逃げ出したりする可能性が低くなると思いませんか?」

 総矢の言葉にやや不満気味だが、仕方なく二人を乗せたまま車は中へと入っていった。

(何故この男そんなことまで知っている? 依頼の時に事情まで説明したのか?)

 気にはなったが、急ぐロブはそのまま先へと進んだ。


 車を降り、四人は建物の中へと入る。

「お父様はどこなの?」

「こちらです。お早く」

 総矢と優衣はリゼ達に続き、奥へと進む。案内された部屋で椅子に座った一人の男性が目に入る。

「お父様!!」

 リゼが叫びながら思わず男性に駆け寄る。優衣がリゼを追って部屋へと駆け込む。

「……え? あれ? お父様? 怪我をなさったって聞いたのですが……どういうことですか?」

 どう見ても男性は至って健康そのものだ。だが、男性の表情は険しい。

「リゼ、すまない。私の計画は失敗した」

 後からゆっくりと部屋に入ってきたロブが落ち着いて説明する。

「私が情報を流させていただきました。私はあなた方一家のSPであると同時に、この大使館側の人間でもあったんですよ」

「そうか、お前が裏切り者だったか!」

 リゼの父親は激怒し、殴りかかる。その拳を止めたのは総矢の左手だ。後ろからロブと同じ格好をした数人の男が部屋へと入ってきていた。その中で一人だけが明らかに様子が違う。この大使館の館長だ。明るい茶系のスーツに身を包み、メガネをかけた短髪の男性は不敵な笑みを浮かべ、楽しそうに話を続けた。

「『お嬢様の捜索』に我々大使館の人間の注意を逸らし、その間に我々の調査を行うというあなたの計画は意外性があり、悪くない。ですが、初めから情報が漏れていては計画も何もありませんよね?」

 総矢に突き飛ばされ、リゼの父は壁に寄りかかった。その父親に駆け寄ろうとするリゼの腕を掴み、ロブが軽々と持ち上げる。ロブは最早リゼの知っているロブではなかった。

「さ、外交特使殿。報告書を作成していただけますな。我々は武器、兵器の密輸とは無関係であったと」

 横目でリゼを見ながら父に迫る。歯を食いしばり、リゼの父親は抵抗の眼差しを送る。不満を感じた館長は顎でロブに指示を出した。同時に部屋にリゼの悲鳴が響き渡る。

「痛い! 痛い! 離して!!」

 ロブが手に一層力を込め、強く握った。

「リゼ! このぉっ、リゼを離してよっ!」

 優衣がロブに向かって、泣きながら拳を振り上げながら駆け寄る。振り上げた拳を総矢は止め、暴れようと必死にもがく優衣を強引に押さえ込んだ。リゼの悲鳴は館長が思った以上の効果があった。

「分かった! 言う通りにする。やめてくれ!」

「そうそう。人間素直が一番ですよ」

 館長はリゼの父親の方に手をかけ、嬉しそうに笑った。

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