護衛④ - SP -
通話を終え、携帯をポケットに入れると同時に優衣が話しかけた。
「今のレイルさんからですか?」
「ああ。ちょっと問題が発生してね……悪いがお楽しみはココまで。駅に向かうぞ」
総矢の言葉に真っ先に反抗したのはリゼだった。
「どうして? せっかくここまで来たのだからもう少し色々見て……」
「リゼ、お前の親父さんが怪我したそうだ。無理矢理にでも連れて行くぞ」
「え……? お父様、大丈夫って言っていたのに……?」
リゼは目にうっすらと涙を浮かべる。優衣は思わずそんなリゼの頭を抱きしめた。その優衣の目にも涙が浮かんでいる。
(リゼ……)
「……行くぞ」
総矢はそれだけ言って立ち上がった。二人の手を引き、店の出口へと早足で向かう。店を出て、バス停へと向かう途中、総矢達の目の前にガラの悪い男が四人立ち塞がる。一人は先程逃げ出した男だ。リゼは怯えたが、逆に総矢には怒りが込み上がった。そんなこともお構いなしに声をかけてくる。
「その子、渡してくれねえか?」
「邪魔だ、どけ。急いでるんだ」
「やさしく言っているうちに……」
そう言いながら一人の男が総矢の肩に手をかける。手が肩に触れると同時に総矢は男の股間を蹴り上げた。急所に鋭い一撃を受けた男はその場に倒れ、苦しみ悶えている。
「どけよ。急いでるって言っただろ。俺をこれ以上苛立たせないでくれ」
「てめっ、調子に乗るなっ!」
言いながら拳を繰り出す別の男。その男の拳は総矢に届くことはなかった。男の拳は突然現れたスーツにサングラスの大男によって片手で軽々と止められた。総矢の後ろから現れたその大男に優衣は怯えていたが、今度はリゼが安心したような顔をしていた。
「なんだお前? 離せっ!」
「……お帰りいただけますな?」
大男は止めた拳を力まかせに握った。大男の握力は見た目通りに物凄いものであった。
「いい、いでぇ。分かった、分かったから離せ!」
「本当ですね?」
さらに力を入れ、念押ししてから手を離す。男達は突然現れた大男の気迫に気圧され、すぐさま逃げていった。
「ロブ、ありがとう。でもどうしてここが分かったの」
「単なる偶然です。私だけではなく他のものもお嬢様を探して街に出ていましたから」
「リゼの知り合い、でいいんだよな?」
総矢は目の前でリゼと話す男に確認を取る。
「はい。私は……」
「私達のSPの1人よ。名前、じゃなくてニックネームがロブ」
「そうか、SPなら安心だな。っとそれより、今はのんびり話してる場合じゃない」
「そうです。お嬢様、すぐに車を回します。ここで待っていてください」
そう言ってロブは走り出した。だが、ロブが離れた後も優衣だけは怯え、震えながら総矢の腕を掴んで話そうとしない。
「優衣ちゃん? どうした?」
「やだ……あの人……怖い……」
リゼは軽く笑いながら優衣に話す。
「大丈夫よ。確かにロブは大きいし格好も顔も怖いけど、本当は優しいから。目を見れば分かるわよ」
「ちがうよ……格好とかじゃないの……その、目が……」
優衣は一度深呼吸し、一気に最後まで言い切った。
「リゼのことを見る目が物凄く、冷たかったの……」
駐車場に着いたロブは携帯を取り出した。
「リゼ様を発見しました」
『よくやった。絶対に傷つけるなよ』
「見知らぬ護衛が1人と付き添いの子供が1人います。どうしますか?」
『護衛と付き添いの子供? あぁ、おそらく私が直接捜索を依頼した奴だ……見つけていたのに連絡すら入れないとは感心しないな。可能ならば邪魔だから置いて来い。まぁ1人程度なら大した問題ではないがな』
「は。分かりました。では」