護衛③ - 事件発生 -
三人は先程の洋服店には向かわず、二階にある別の洋服店へと向かった。さすがに誘拐されそうになった店に再び行くことには抵抗があった。更に今回は二人共総矢に常に触れていられるほど近くで洋服を物色している。
「あぁ、そうそう。優衣ちゃんも一着好きなの選びな」
「わたしもいいんですか?」
「意外と太っ腹ね」
「まぁさっきは護衛なのに2人に怖い思いさせたからそのお詫びってことで」
優衣は喜び、嬉しそうに洋服を手にとり見比べている。
「2人とも試着と貸してみたらどうだ?」
「うん。ちゃんとそこで待っていて下さいよ」
「覗いたりしないでよ」
「するか。さっさと行け」
試着室の前で二人を待つ。周囲を見渡すが、先程の様な不審な人物は見当たらない。周囲を確認すると総矢は自分のIDカードを取り出す。携帯に接続し、情報を探る。
(リゼの父親についてはまぁ当然あるか。今回の訪問の目的は……あった。)
『今回の訪問の目的は、首相との極秘階段と大使館の直接の業務監査である。』
(何で内密に行っているんだ?別に隠す必要は無い、よな……?)
先程のリゼの様子を思い返す。頭に浮かべるだけで総矢の顔が引きつる。
(何か良からぬことでも企んでいるのか。……嫌な予感しかしないな。また厄介事な気が……?)
先行きに不安を感じつつ、総矢はIDをポケットに押し込んだ。
「総矢さん!これどうですか?」
「……」
優衣がはしゃぎながら試着室から出てくる。対してリゼはすごく恥ずかしそうにしながら出てきた。
「あぁ。2人とも似合ってるぞ。リゼ?何で照れてんだ?」
「だって、こういう服あんまり着ることなくて……」
リゼは優衣が選んだスカートをはいていた。ジーンズ素材のスカートは先程のリゼが着用していたワンピースと比較するとかなり脚が出ている。恥じらいのために歩き方がぎこちない。
「大丈夫だ。パンツは見えてな……いっっって!」
総矢が言い切る前に優衣が思い切り足を踏みつけていた。優衣の方を見ると、優衣が黒い笑顔で総矢を見上げている。その表情に総矢は思わず一歩下がった。
「よ、よし。じゃあその服でいいな。さっさと買ってアイス食いに行くぞ」
総矢は慌ててレジへと方向転換して歩き始める。洋服の購入を終えた三人は入口の脇にあるアイスクリームショップでくつろいでいた。その時、総矢の携帯が鳴る。
『ご苦労従者。どうだ。お姫様の様子は?』
「今はご機嫌でいらっしゃいますよ。アイスがお気に召されたらしくて」
『それは何より。だがこちらは少々ご立腹のようだ』
「何がですか?」
『依頼者から苦情の電話だ。まだ見つからないのか!ってな。あんの野郎共文句があるなら自分達で探せっての』
「愚痴言うために連絡したわけじゃないですよね?」
レイルの声の雰囲気が突然変わった。
『ああ。さっき姫さんが逃げ出した大使館で何かあったらしい』
「何かって?」
『原因は不明だがリゼの父親が意識不明の重体なんだとよ。だからとっととリゼ見つけて連れて来いってさ』
総矢は横目でリゼを一度見る。電話の内容を告げたとき、楽しそうに優衣と話すその表情が崩れることは容易に想像できる。急に言葉が途絶えたことを察してレイルが続ける。
『……電話を代われ。俺が伝える』
「いや、俺が言います」
『……分かった、任せたぞ。それと、お前今どこにいる?』
「郊外のショッピングモールです」
『郊外か……なら駅へ向かえ。俺もそっちの駅まで車で向かう。なるべく急げよ』
「分かりました」
掻き始めたときは『話と現実の季節を合わせて進められたらなぁ』なんて思ってましたが、そんな力は私にはありませんでした。
ちなみにこの話8月31日って設定なんですよね……自分でも「8月長っ!」って思ってしまいました。




