護衛① - リゼ -
「レイルさん。それに……総矢さん!」
優衣は総矢の名前を口にした時だけ、自然と声が大きくなっていた。すぐさま反応したのはレイルだ。
「おいおい、何か差別してねぇか?」
「あ、いや、そんなことないです。それより今日これから出掛けるのに付き合ってくれるのは総矢さんなんですか?」
総矢は微妙な表情で答える。
「まぁ、ね」
優衣は嬉しそうに笑いながら対面していた少女に再び顔を向ける。
「紹介するね。この人が今日一日私たちに付き合ってくれる総矢さん」
優衣の正面に座っていた少女は総矢をじっと見る。その表情が不安さを物語っている。
(この人が護衛?大丈夫……かな?ちょっと頼りなさそう……)
「よろしく。頼むからあんまりわがまま言わないでくれよ」
(まぁ、レイルさんよりはマシかな。あの人だと……)
「初めまして、リゼ・クラーナ・アリエルです。リゼと呼んでください」
「よろしく。俺は崎見総矢、『ソウヤ』でいいよ」
リゼの頭をポンポンと叩きながら総矢は言った。総矢のその態度にリゼは思わず不満を口にする。
「あの、子ども扱いしないで頂けますか?」
横から優衣も口を挟む。
「そうよ。女性に対していきなりそんな態度は失礼よ」
二人からの非難を受け、総矢はレイルの顔を見る。総矢とレイルは互いに顔を見合わせ、困った表情をする。
(女性って……子供だろーが。優衣ちゃんと似たような年なんだろ)
心の中で不満を呟きつつも総矢は口で形だけの謝罪をする
「あ~、悪い。すまなかった。許してくれ」
「以後は気をつけてくださいね。それじゃユイ、行きましょ」
そう言いながら総矢の横を通り過ぎ、外に向かって歩き出す。優衣も軽い足取りで後に続く。
「ソウヤ!早く。出掛けるわよ」
「総矢さん。行こう」
総矢はレイルに助けを求める視線を送る。レイルは総矢の視線に爽やかな笑顔で応える。
「ホラ、呼んでるぞ。早く行ってやりな」
「……分かってますよ。ハァ……。……覚えてろよ……」
小さく呟くと、総矢はうな垂れながら店の外へ向かう。店を出る三人に爽やかな笑顔のまま声をかける。
「いってらっしゃーい」
店に残ったレイルは安堵した表情でカウンターに腰掛け、新聞を読み始めた。
「それで、どこ行くんだ?要望とかあるのか?」
「男ならそれくらい察してエスコートするものじゃないのかしら?」
「エスコートする甲斐のある大人な女性なら喜んでそうするんですけどね」
互いに不満そうだ。
「リゼ、行きたいところあるんでしょ。総矢さん、この近くに可愛い服置いているお店知りませんか?」
「服か。この近くでって言うと……隣の駅まで行かないとないな。どうせなら外れにあるショッピングモールに行かないか?服に限らず色々あるし」
「うん、いいかも。じゃあまずは駅ね。リゼ、行こう。電車乗るよ」
「うん」
嬉しそうに優衣に答えるリゼ。総矢は優衣がついてきてくれたことに感謝していた。リゼは総矢と話すときは常に不満そうだが、優衣が間にいるだけですごく楽しそうに笑っている。すぐに三人は駅に到着した。
「切符買ってくるからここで待ってろよ」
「分かっています。早くしてくださいね」
リゼの態度に軽く不満を感じながらも時間の無駄使いを避けるため総矢は券売機へと向かう。総矢が離れてから優衣がリゼに尋ねる。
「総矢さん、嫌いなの?」
「……そんなことありませんよ」
「それならもっと普通に話したらいいんじゃないの?私みたいに」
「そうじゃないの。ただ……」
リゼが言葉を詰まらせる。少し悲しそうな表情に優衣は戸惑う。だが、総矢が戻ってきたことに気付くとリゼはすぐに表情を戻す。
「はいよ。お待たせ。そんじゃ行くぞ、電車は……3番ホームか」
三人はホームへと向かった。
……今回、特に何もしてません。






