初仕事⑨
男性の叫びを聞き、総矢の隣に立っていた女性が静かに話す。
「あなたは動物達の代弁者になったつもり?自分も実験台にされたからって……」
「俺は俺自身の復讐しているだけだ。俺は実験に成功した、成功して力を手に入れた。だが……」
言葉が途切れる。男性は歯を食いしばり目を見開く。
「命を何とも思ってもいねぇここの奴ら何ざ、生きてる価値なんかねぇんだよ!」
男性の話を黙って聞いていた総矢が口を開く。
「だからってどんな理由があってもお前が人を殺していいことにはならないだろ……」
「分かってんだよ!俺はここの連中と同じで命を簡単に奪う極悪人、いずれ地獄に落ちてやる。だがここの人間には俺が地獄に落としてやらなきゃ気が済まねぇ!」
男性は目に涙を浮かべている。総矢の隣にいた女性が総矢に一言告げた。
「あなたが決めなさい。どうするのか。私はあなたのサポートに来たの」
総矢は一歩前に踏み出し、うつむきながら答える。
「分かってる、アンタは手を出さないでくれ。……俺が、やる……」
総矢は棒を構えてゆっくりと男性に歩み寄る。男性は身構えると、地面を思い切り蹴る。
(ごめんな、こんな兄貴で。お前の命を奪った奴らと同じ人殺しになっちまった。お前は天国に行ったんだろうが、俺はそっちには行けない。でもその分、お前を苦しめた奴らは苦しめて苦しめてそれから地獄に送っておいてやるからな)
男性の考えが、総矢の頭に流れ込む。
「んなことしても……お前の弟が喜ぶわけねぇだろうがっ!」
叫びながら総矢は棒を振るう。自身のスピードが速すぎたため、男性は先読みした総矢の攻撃を避けることが出来なかった。左手で防御する。実験で強化された男性の腕は堅く、総矢の攻撃は弾かれた。それと同時に男性は右手で総矢の脇腹を殴る。既に傷ついていた箇所だっただけに総矢へのダメージは大きい。だが総矢は倒れることなく再び武器を構える。
(何だ?弟なんて口にはしてないはずだ。コイツ、俺の頭ん中が分かるのか?)
「お前は、お前がやらなきゃいけなかったことは……そんなことじゃないだろっ!」
再び襲い掛かる動きの早い男性に対し、再び総矢は先読みして攻撃を繰り出す。先程同様避けることが出来ず、左手で総矢の攻撃を防ぐ。
「いちいちうるせぇ」
言いながら男性も先程と同じ箇所を今度は鋭く蹴った。総矢の口から血が溢れる。それでも総矢は地面に膝すら着けずに再び武器を構える。
(復習なんてしてもアイツは生き返りはしねぇさ。けどよ、怒りを、悔しさを、悲しみを、どこかにぶつけなきゃやってられなかったんだよ!もう、止まれねぇんだよ!)
「本当はもう、気付いているんじゃないか……そうだよ。こんなことしたって、誰も……」
口元の血を左手で拭いながら総矢は話す。総矢も相当傷は深い。言葉は切れ切れだった。総矢の言葉を無視して、男性は総矢へと突っ込んだ。
(死んでしか止まれないってのかよ……バカ野郎……)
総矢は歯を食いしばり、思い切り棒を横に振りぬく。三度目には総矢は叫ぶことも出来ず、頭の中にその一言を思い浮かべるだけで精一杯だった。再び左手で防ごうとしたが、男性の左腕は総矢の三度目の打撃で砕かれた。そのまま男性の側頭部に総矢の攻撃が当たる。
「ガァッ……」
声にならない叫びを上げながら男性は倒れた。男性は白目を向いたまま動かない。総矢もすぐにその場に倒れ、そのまま気を失った。気を失った総矢に歩み寄ると女性は優しく声をかけ、頭を撫でる。
「お疲れ様、新人さん。悪くない仕事ぶりだったよ」
総矢は気絶しながらも歯を食いしばり、涙を流していた。
「……急がなきゃね。完成前のバリケードは壊しやすかったけど……間に合うかな……」
右手に持った銃を転送すると、ポケットから取り出した少し大きめの転送装置を取り出す。取り出した転送装置を使い、女性は自分の脇に大型のバイクを転送させた。タイヤの付いていないそのバイクは起動と同時に地面から少し浮き上がる。総矢を乗せ、ロープで無理やり固定すると正面門に向け猛スピードで走り出す。