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初仕事⑧

「先に言っておくが、ここは爆撃される。時間が無いからあんたも早く逃げたほうがいい」

 総矢は男性に告げる。男性は驚きもせず、笑い出した。

「ハハハハッ!なるほど、まぁそりゃそうか……」

 息を整えると男性は総矢を睨むと今度は真面目な顔で話す。

「俺ァ死ぬ気はねぇぞ。奴らを逃がすつもりもねぇ。邪魔するんならお前も殺すしかねぇよな」

「勝手なことを言うな。俺も死ぬ気は無いし、あの人たちを死なせる気も無い」

 総矢は武器を構える。

「俺に逃げろと言いながら戦う気満々じゃねぇか」

「そうでもしないとあの人たちを殺すつもりなんだろ?」

「分かってるじゃねぇか。けどこうすりゃ防ぎようがねぇだろ」

 男性は強く地面を蹴り、七~八メートル程跳び上がり、手にした数個のガラス片を生存者達に向かい全て投げつける。

(アイツ、ホントに人間か?ってしまった!これじゃ……)

 総矢は振り返り、生存者達に向かって叫ぶがその声は必死に走る生存者達には届かない。ガラス片が生存者達に迫る。思わず総矢は顔を背ける。男性は無表情のまま生存者を見つめながら着地した。生存者達は正面に自分達の方に銃を向けている女性が現れ、思わず足を止める。女性は生存者達を撃つことはなく一言だけ告げた。

「伏せてっ!」

生存者達が伏せると同時に、数発の銃声が鳴り響く。

「なかなかいい出来ね。思った以上に反動が小さくできたわ」

 女性は右手に持った銃を感心しながら見つめる。生存者達はゆっくり顔を上げる。

「ホラ、もう平気よ。速く立って、行きなさい。ちょっとばかりバリケード壊しちゃったから今なら出れるわよ」

 総矢は銃声のした方向に顔を向け、そっと目を開ける。一人の女性が足早に駆けてくるのが見える。

「なんだ?アレはお前のお仲間か?また邪魔しやがって……」

 総矢の背後から男性の声が聞こえる。男性も総矢に攻撃せず、女性を見ている。

「さて、間に合ったみたいね。あなたがレイルに仕事任された新人さん?」

 総矢に話しかけたその女性は背が高く、ジーンズにTシャツという男勝りな格好をしていた。だが、短い髪を左手でかき上げる姿はどこか気品を感じさせる。

「はい。崎見総矢です」

「自己紹介は後。来るわよっ!」

 男性に背を向けたままの総矢を横に突き飛ばす。男性が二人の間に脚を振り下ろす。

「おい、ねーちゃんよぉ。人の邪魔しやがって。あんたもコイツの仲間だな?」

「そうね。そういうことになるわね」

「ならテメェもだっ!」

 男性は総矢ではなく女性のほうへ突っ込む。四階から飛び降りても無事な強さを持った脚力は、男性に尋常ではないスピードでの移動を可能にしていた。先程の蹴りを避けた女性を軽々と先回りしている。

「これで……終わりだ!」

 思い切り脚を振りぬく。だが、男性の脚は何にも当たりはしない。見事な反応で男性の蹴りを伏せて避けた女性は男性の額めがけて右手の銃を撃つ。男性も素早く腕で銃弾を弾き飛ばし、身を守った。総矢はそれを見て『A棟』入口で死んでいた男性を思い出す。

(銃弾を防ぐほど硬い腕……?あの人の頭部の傷……殺したのはコイツか?)

「結構な速さと硬さね。それはここで行われた人体実験の成果かしら?」

 女性は再び総矢の隣に立つ。女性の言葉を耳にした男性は激怒して女性に叫ぶ。

「お前、ここの一員か?手を貸したりしていたのか?」

「その反応からして、人体実験って本当なのね」

 女性は顔を曇らせる。総矢は二人の会話を聞いて目を丸くしていた。

「……人体、実験……?」

「カマかけやがったな。まあいい、なら教えてやるよ。俺は無理矢理体をいじられた化物だ。そしてここでの実験で唯一成功した人間だ」

「やっぱり、被験者はあなただけじゃないのね」

「当たり前だ!それからな、ここの動物達が人を襲う理由は俺と同じだと思うぜ。野生の本能だけじゃねぇ!恨んでるんだよ、人間を!自分達のいいように使って、試して、殺して……そんなことされりゃどいつもコイツも人間を恨むに決まってんだろうが!」

 総矢は男性の叫びを呆然と聞いていた。今の総矢にはそうすることしかできなかった。

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