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初仕事⑦

 総矢は次に扉を閉めたまま耳を押し当てる。しかし、しばらくしても何も聞こえない。思い過ごしかと思い、総矢はもう一度静かに扉を開けて目を凝らす。

(やはり何もいない。……気のせい、だよな……)

 念のため総矢は一人で扉の先を偵察することにした。『A棟』は総矢がこれまで見てきた建物と違い、入口が壊されることも無く、中には傷付いた研究者達もいない。

(入口に近いからか?動物達の気配がまるで無いな……)

 だが、総矢は『A棟』の入口の脇で一人の男性の亡骸を見つける。その男性は総矢が『G棟』で出会い、社員証を借りた中年男性であった。思わず歯を食いしばる。

(何てことだ……クソッ!……ん?何だ……何かおかしい)

 男性の遺体は後頭部を殴られた跡しかなかった。普通、動物に殺されたのであればもっと様々な箇所に打撲や出血が見られるはずだが男性に見られる外傷は頭のものだけであった。疑問に感じつつも周囲に何もいないことから安全と判断し、総矢はすぐに一行の下へと戻った。皆を連れ、出口に向かう。激しい雨が降り続いてはいるが、『A棟』からは正面門が何とか視認できた。

「あそこだ。もう少しで我々は助かるぞ」

「ここまでくれば何とかなるわ」

「ありがとう。君のおかげだよ」

 口々に喜びを口にする生存者達。総矢が最初に出会ったときに比べ、その表情はとても明るい。

「はい、もう少しです。では向かいましょ……」

 言いかけた総矢は背筋が凍るような寒気を感じる。冷たく、真っ黒なその意志は『A棟』の中から総矢達に向けられていた。

「走れ!正面門に向かって思いっきり走れ!」

 叫ぶと同時に総矢は正面門に背を向けて、武器を構える。慌てる総矢の様子から、危険が迫っていることを理解した生存者達は全力で駆け出した。

(なんだ?なんなんだ?この感覚、普通じゃない……何が来る?)

 『A棟』の四階の窓ガラスが割れ、総矢の正面に落ちる。落ちたのはガラスだけではない。内側に取り付けられた金属製の格子が大きく変形した状態で共に落下した。壊れた窓のところに人影が見える。人影は壊れた窓から総矢を見下ろしている。

「もう残ってるヤツは全員死んだと思っていたけど、まだいたのか」

 呟くと、四階からその人影は飛び降りた。もちろん総矢にはそんな呟きは聞こえない。

(人か……?そんな高さから飛び降りたらいくらなんでも……)

 思わず総矢は心配した。だが、壊れたのは地面の方であった。大きな衝撃と共に、アスファルトは揺れ、人影が飛び降りた場所は少し陥没し、周囲にはヒビが入っている。飛び降りた人影の正体は、若い茶髪の男性であった。背は高く、体つきも総矢よりしっかりしている。だが、どう見ても普通の人間だ。とてもじゃないが金属製の格子を破壊できるようには見えない。男性は立ち上がると総矢に話しかける。

「あんた、さっきここの研究者達と一緒にいただろ……あぁ、アレか」

 総矢の背後で正面門に向かって走る生存者達を見つけ、目が鋭くなる。側に落ちているガラスの破片を拾い、走る生存者達の一人に狙いを定める。

「逃がしてたまるかよっ!」

 掛け声と共に男性は破片を思い切り投げる。破片はまっすぐ飛び、男の足に直撃――するはずだった。だが、男に当たる遥か手前でガラス片は総矢が左手で持った棒に直撃し、砕けていた。

「邪魔すんなよ。お前はここの人間じゃなさそうだから殺さずにいてやるってのに」

 総矢を睨む目がさらに鋭くなる。恐れることなく総矢は男性に向かって告げた。

「俺には、あの人たちを守るって約束があるんだ」

予定していたより『初仕事』の部分が長引いてしまいました。

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