死んだ存在
章によってかなり長さ変わってしまうと思いますがご了承ください。
何かお気づきの点がありましたらご指摘、アドバイス等して下さい。よろしくお願いします。
白い壁、白い天井、白い蛍光灯…目を覚ますとその風景が目に飛び込んできた。
辺りを見回すと隣のベッドには心配そうな顔で自分を見つめている老婆がいた。
「目が覚めたのね。うなされているものだから心配したわ。」
「……」
頭がぼんやりする。話しかけた老婆は優しく微笑みながらこちらを見つめている。徐々に覚醒し、体の痛みを改めて感じてきた。痛む体を何とか起こす。
「すみません。五月蝿かったでしょうか?」
「いいのよ。気にしなくて。それより無理して起き上がらないほうがいいわよ」
「大丈夫です…まぁ少々、ではなくかなり痛みはしますが死にはしませんよ」
「そうですか、では私の質問に答えて頂けますか?」
突然の男の声に驚き、振り返るとそこには医師らしき男が立っていた。
「お話を聞きたいが、構いませんか?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「まず自己紹介をしましょう。私は矢口。君の担当医師です。気分はどうですか?」
「まだ少し頭の中がボーっとしていますけど、問題は無いと思います」
安心したように矢口は頷いた。
「……君はここに運ばれてくる以前の事は覚えていますか?」
「運ばれてくる前、ですか?」
表情が強張る。頭に思い浮かんだのは数多くの人間の悲鳴、激しい衝撃、熱風。改めて自分の体を見る。全身に巻かれた包帯や数箇所に取り付けられたギブスから自分のイメージは現実のものであったと確認した。
「……テロ事件に巻き込まれた。…そう、ですね?」
矢口に静かに告げる。
「そう。君はあの事故で救出された人間のうちの一人。ですが……」
迷いがあるのか矢口は躊躇った。
「君は本当にあの飛行機に乗っていたのですか?」
「……はい。」
医者の質問に首をかしげる。
「では、君は一体誰ですか?名前を教えて下さい」
力強く尋ねる矢口に気圧される。2047年からすべての国内で出生された者はDNA登録されることが義務付けられていた。たとえ意識の無い急患であろうと直に本人確認はできるために、その質問には疑問を感じずにはいられない。
「…え?志井 鍵矢、ですけど」
矢口は手にしていた書類を確認した。
「彼は死亡しています。もちろんDNAの確認も取れています」
「は?」
「もう一度言います。志井鍵矢さんは死亡しています。それに君のDNAに該当する人物は国内に存在しません。もしや海外でお生まれになりましたか?」
「そんなはずは…。俺が生まれたときの写真やビデオを見せてもらったことがありますがあれは間違いなく国内でした。DNA登録の様子も確かに録画されていましたし…」
「ですが君のDNAは存在しないのです」
沈黙が続く。
(え?何故?旅行前に病院で検査した時DNAは確かに一致していた…)
「…鏡を持ってきてください」
「これでいいかな。」
慌てて自分の顔を確認する。包帯などで所々隠されてはいるが確認くらいはできる。
(間違いない。俺自身だ。他に何か無いか…自分を証明できるものは…)
だが、彼は何も持っていない。救助されたときには財布、携帯、自宅の鍵のいずれも所持していなかったという話だ。
「俺の自宅に案内します。そこならば写真があるはずです」
「分かりました。車を用意するのでついてきて下さい」
病院から約1時間。家に到着した。が、家は柱を数本残して完全に焼け落ちていた。
「なんで…なんでなんだ…」
当然ながら身分を証明できるものなど何一つ見つけられはしない。崩れ落ちた鍵矢を矢口は何とか車に乗せ、病院へ戻った。
「…俺は…本当に志井、鍵矢…なのか?」