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初仕事④

 建物の内部には爪で引っかいたような傷や所々赤いシミがあった。だが、倒れている研究者の姿はなかった。

(……ここに死者はいないのかな?皆ただの怪我だけで何とか逃げられたのか?)

 ふと疑問に感じた直後、総矢の前方に白衣を赤く染め、曲がり角の壁にもたれかかっている女性を見つけた。総矢は急いで駆け寄り声をかける。

「大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 肩に手をかけ女性の顔を覗き込んだ。その瞬間、女性は既に死んでいることに気付く。驚いた総矢は思わず後ろに飛び退く。飛び退くと同時に黒い物体が物凄いスピードで総矢の鼻先を掠めた。黒い物体は総矢の目の前を通り過ぎ、大きな音を立てて壁にぶつかる。

「え?」

 壁の方を向くと起き上がった黒い犬が口から血を流しながらをこちらを睨んでいる。口元の血は人間を襲ったときに付着した血液と見て間違いない。

(コイツ、隠れていたのか?囮を使ったのか、まるで狩りだな)

 襲われた直後なのに冷静でいられる自分に感心しつつ、もう一つの可能性に気付き思わず後ろを見る。

(まてよ、単独とは限らな……)

 総矢のカンは当たっていた。振り返った瞬間、もう一匹の犬の大きく開けた口が総矢の目の前に迫っていた。思い切り体を捻ることで何とか避ける。だがバランスを崩し、総矢はその場に倒れた。

「しまっ……」

 今度は先程正面にいた犬が総矢に迫る。倒れた総矢は当然逃げることはできなかった。総矢の右肩に牙が深く突き刺さる。鋭い痛みで総矢は表情を歪める。犬は頭に喰いつこうとしたが、体を無理に起こすことで総矢は頭への傷を何とか避けていた。

(まずい!これじゃ……)

 総矢は慌てて左手で犬を殴りつける。このままでは肩を喰いちぎられるという恐怖を感じながら必死に抵抗する。総矢の拳は偶然にも犬の目に強く当たった。犬は悲鳴を上げ、総矢の肩から離れ、距離をとる。

(やばい!右手に力が……これじゃ殺される……)

 立ち上がり右肩を抑える。総矢は身の危険を感じつつも以前に感じたことのある感覚が自分に目覚め始めていることに気付く。犬の一匹が勢いよく飛び掛る。正面から突撃してくる犬に対し、総矢は棒を突き出す。しかし犬は素早く総矢の突きを避け通路の壁に足をかけ、反動を利用して飛び掛る。

「分かってる。この突きはただの囮だ」

 呟きながら犬の動きを先読みしていた総矢は突いた棒をそのまま横へ振るう。大きく開いた犬の口に見事に直撃し、その一撃で犬の牙はほぼ全て折れた。犬は倒れながらも、痛みに苦しみ暴れていた。もう一匹は総矢の危険さを嗅ぎ分けたのか既に逃げ出していた。

(起き上がって襲ってくる前に逃げておかないと)

 総矢はすぐに会議室に向かって再び走り出した。その後、会議室までは何事もなく辿り着けた。いつの間にか先程の感覚は消え、痛む右肩を左手で抑えていた。扉には総矢が通ってきた通路と同様に傷がいくつか付いている。動物達が中に入ろうとしていたのだろう。

(つまり、この中には人がいるはず……)

 総矢はノックをして、中に呼びかける。

「中に誰かいますか?今ここには動物達はいません。中に入れてください」

中で物音がした後、扉が開いた。

「早く入ってください」

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