初仕事②
「そうですか。つまりはよく分からないということですね?」
「すまない。情報がなくて……」
男は知りうることを話した。だが最終的に動物達が暴走した原因は『分からない』という結論に達していた。
「この施設で人が残っていそうな場所に心当たりは?」
「動物を実際に扱っていたのはここ『G棟』の他には『H、I棟』がある。その2箇所はもう……」
途中で言葉が途切れる。
「この騒動の中心はこことあと2箇所ってことですか。その他はまだ無事かもしれませんね」
「ああ。だがもう建物から出て暴れまわっていることも考えられる。それにこのゴリラのように他の動物達も大きかったり、素早かったりするから『G、H、I棟』以外でもかなり危険だ」
目の前に倒れている動物はゴリラにしてはかなり大きい。
「相当でかい、ですよね?……それと、この建物の入口は既に破壊されていました」
それを聞いた男は困った表情をする。総矢はさらに話を進める。
「この施設の地図、あるいは全体図とかないですか?」
男性は社員証を裏返す。裏のボタンの一つを押すと立体図が浮かび上がる。
「あ、ああ。これが全体図だ、内部も見られる。ただし建物だけだがな」
総矢は大まかに自分の位置、他の建物の位置を頭に入れる。全体を見ていると端に何も書いていない建物が一つあるのがある。気にかかり、男に尋ねる。
「ここ?ここはこの施設全体の管理システムのある場所だ。社員でそこに行く方はほとんどいないはず。研究施設と関係がないから特にアルファベットも書かれていないんだ」
総矢の携帯が鳴る。
『もしもし、レイルだ。総矢、無事か?今やっと店に戻った。あの子の父親の顔写真のデータをそっちに送る。確認しておいてくれ』
「分かりました。何か分かったこととかないですか?」
『そこにいる動物は大きさ、力、素早さなど皆普通の動物に比べて危険度が高い。様々な動物の遺伝子をいじって強力にしたり、知性を高めたりする研究も行われていたらしい』
横で聞いていた研究員は倒れている化物を見て、総矢に話す。
「遺伝子操作で筋肉の弱体化、脳の問題を抑えるための研究をしていたんだ……」
『そこにいるのはその施設の研究員か?暴走の原因は一体……』
「それはさっき俺が聞きました。この人は知らないようです」
総矢はレイルから送られた画像データを確認する。そしてそこに写っている男性を、横にいる男に見せて尋ねる。
「この方を知りませんか?それとどこで働いていたかも分かりませんか?」
男は画像を見ると、ハッとして答える。
「有馬?私の同期だ。アイツは植物系の実験担当のハズ……確か『D棟』だ。ってまさか行くつもりか?」
「はい。随分奥の方ですね。でも植物系ってことは生存の可能性は十分ありますね」
「本気か?……どうしても行くなら脱出の際はここにある裏口から……」
男が言い切る前に電話口からレイルの声が聞こえる。
『裏口からの脱出は無理だ。裏口付近のバリケードはもう完成している。脱出口はもう正面門しかない。そこはまだ武装した警官隊が守備しているだけだ。とは言っても正面門もバリケードが完成するまでそんなに時間は無いがな。』
レイルの発言に少し焦りを覚えつつ、総矢は尋ねた。
「完成までどれくらいですか?」
『このペースなら1時間ってとこかな。バリケードが出来次第、爆撃開始だとよ』
横で聞いていた男が通信に割り込む。
「ま、ま、待ってくれ。バリケードってなんだ?爆撃って一体?」
総矢は簡単に状況を説明する。
「何てことだ……だったら一刻も早くここを出なければならないじゃないか!ここからなら正面門の方が近い。こっちだ、ついてきなさい」
男は建物の外へ向かって歩き出す。だが総矢は男の後に続こうとはしなかった。
「いえ、俺は予定通り『D棟』に向かいます」