初仕事①
激しい雨の振る中、レイルは車を走らせる。
「俺は店に戻って情報を集める。IDは借りておくぞ。使えそうな情報があれば連絡入れるからな」
「分かりました」
レイルは尋ねる。
「今更だが怖くはないのか?」
「怖いですよ。でも何もしないであの子の前で父親を見殺しにすることを考えるより怖くはないです」
「ご立派だな。本当にそれが本心か?」
「はい」
雨はますます酷くなっていた。
「着いたぞ。こっから先はお前1人だ」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきます」
とは言ったものの塀は高い。正面門では警察がバリケードを作っていたために入ることができなかった。仕方なく塀を越えることにしたが、高さ約五メートルかつ手をかける場所もない金属製の塀を上るのは困難であった。だが、総矢は棒を手元に転送させると、棒を踏み台にし、高く跳んだ。何とか塀に手をかけてよじ登る。塀の下に落ちた棒を再度手元に転送してから塀の内側へと飛び降りる。
(雨で視界が悪いな。これじゃ何かいたとしても先に見つけるのは大変だな。)
総矢は雨の中を走り始めた。建物沿いに走っているとすぐに入口が総矢の視界に現れた。念のため周囲を確認すると、入口の脇に『G棟』と大きく書かれた看板が立っている。取りあえず中に入ろうとした総矢は入口のガラスが派手に破壊されていることにようやく気付く。そしてその側には頭から血を流し恐怖で引きつった表情のまま死んでいる研究員が倒れていた。研究員の男性の腕や足が無理に折られたことが容易に想像できるほど妙な角度になっていることから相当な力を持った『何か』がいることがうかがえる。
(これだけの力もつヤツが多くいたら厄介だな。)
総矢は研究員の目を閉じ、黙祷する。黙祷を終えると建物の内部へと入っていった。内部は酷く荒らされ、明かりはほとんどない状況だった。そのため、総矢が先に『何か』を見つけたのは偶然に他ならない。
(アイツらは一体何をして……)
部屋のうちの一つに三匹の巨大なゴリラが集まっていた。部屋の外からそっと様子を伺っていたが気付かれた様子はない。獲物が隠れていると思ってか部屋を荒らしている。
――ピリリリリ――
「っ!?」
携帯が突然鳴り響く。だがそれは総矢のものではなく、部屋の中から聞こえたものであった。三匹のゴリラは動きを止めて音の鳴るほうを凝視する。音はすぐに聞こえなくなったが、ゴリラたちは音の鳴っていたロッカーに向かいゆっくり歩み寄る。先頭の一匹が大きく吼え、ロッカーを思い切り殴る。大きな音を立てて変形するロッカー。と、その時
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
中から男の悲鳴が聞こえる。誰かがロッカーに隠れていたようだ。部屋の中の三匹は皆ロッカーに夢中だった。故に総矢の一番近くの巨体の後頭部に一撃を入れて倒れこませるまで、ゴリラたちは総矢の存在に気付くことはなかった。
「っよし!まず一匹!」
振り返った瞬間、二匹目の顔面にも思い切り振るった棒が当たる。
「二匹目!次!」
残りの一匹が怒り狂い総矢に飛びかかる。冷静さを欠いた猛獣の攻撃は速さはあるものの単調であるために総矢は容易にかわし、カウンターで顔面を思い切り棒で打ちぬいた。三匹は倒れ、動かなくなった。頭部を思い切り殴られ、死んではいないのかもしれないが当分は襲ってこないと思われる。酷く変形したロッカーを軽くノックする。
「もう大丈夫です。コイツらは当分目を覚ましませんよ」
総矢の言葉を聞き、ゆっくりとロッカーの扉が開かれた。中から出てきたのは中年のメガネをかけた男であった。
「助かった。誰だか知らないが感謝するよ。早く何とかここから脱出しないと……」
男性は総矢に簡単な礼を言うと部屋を見回し、そのまま立ち去ろうとする。
「待ってください。教えてもらいたいことがあるんです」
「そんなこと外に出てからでいいだろう。とにかく早く外に……」
怯えて混乱する中年男性。総矢は彼の腕を掴む。男はしばらく抵抗していたが、総矢の手は振りほどけなかった。総矢から逃れることを観念した男に再び言葉をかける。
「落ち着いてください。俺は色々知りたいことがあるんです」