最初の依頼人
二人は地下から出て、店でコーヒーを飲んでいた。時刻は三時過ぎだが外は激しい雨が降っているために薄暗い。
「総矢、お前昔から武器とか使ったことないって言っていたが本当なのか?」
「そうですよ。武器が必要な生活なんて考えたことすらなかったんですから」
レイルに殴られた右頬に手を当てながら答える総矢にレイルは疑問を感じていた。
「今までのスポーツとか格闘技の経験は?」
「陸上くらいですね。どうしてですか?」
「いや、それにしては武器の扱いが上手いと思ってな」
総矢は地下で棒の他に、木刀、トンファーに加えて銃も試してみていた。銃以外のいずれの武器もかなりのレベルで扱えていた。銃に限っては人型の端を掠めることしかできなかった。銃以外の武器で『訓練』と言われレイルと軽く手合わせをしてみたところ、総矢がレイルの攻撃をほぼ全て受けること無く捌いたことにはレイルも驚いていた。思い出すたびにレイルの頭に疑問が浮かぶ。
(戦闘の素人があんなに正確に攻撃を捌けるもんかな……?)
「それで、俺にはどの武器が一番合っていたと思いますか?」
総矢はレイルに尋ねる。
「自分の感覚が大事だっての。他人が見たって分からない感覚もあるし、お前の場合は特にどれがいいとか一概には言い切れないしな」
レイルの返答に納得する。総矢は目を閉じ、地下での武器を使っていた時の事を思い浮かべる。
(一番動きやすかったのはトンファーだな。でも攻撃が考えていたよりうまくできなかったな。逆に木刀は防御に問題があったな。とすると……)
「『棒』ですね。今の俺には『棒』が一番あっていると思います」
「そうか。なら……コイツをやるよ。大事にしてくれよ。」
レイルは総矢に向かってポケットから取り出した腕時計を投げた。総矢は受け取るとすぐに上部のボタンを押し、手元に出してみる。
「え、これ……軽い?」
手にした棒は先程使っていたものと比較すると驚くほど軽い。白く輝く金属の棒は総矢の手にしっくりとくる。初めて手にした自分の武器に見とれている間にレイルはペンを片手に書類を作成していた。書類の記入とデータの入力を終えたレイルは総矢に言葉をかけた。
「ギリギリだったが合格だ。これでお前は俺の店の名簿に登録完了だ」
突然の合格宣言に総矢は目を丸くし、動きを止める。
「さっきまでのは武器選択って名目上のお前のテストだったんだよ。判断材料は強さと人間性だ。強さはもちろんだが、俺は戦うことで人間性の善し悪しくらいはなんとなく分かるからな」
「強さと、人間性ですか?」
「あぁ。強さについては問題なさそうなんだが……人間性に関しては少し不安があるな」
(人間性?俺が?そんなに危険な人間じゃ……)
「人間性って言っても一般的な観点で言う不安ではないからな」
総矢の微妙な表情を見て察したレイルが言った。
「お前は、少し甘すぎるんだ。仕事内容によっては非情にならなければならないこともあるからな……」
「そういうことですか」
総矢は少し安心する。
「じゃあさっそく最初の仕事を紹介して……」
レイルは入り口の窓に映る影に気付き、言葉を止める。カウンターを出てドアを開けると一人の少女が立っていた。外は大雨が降り続いていたため、傘を持たない少女はずぶ濡れだ。
「こんな雨の中どうしたんだ?」
「……がい……けて」
雨で言葉が聞き取れない。レイルは顔を近づけ尋ねる。
「どうした?何だって?」
少女は弱々しく答える。顔は雨で濡れていたが泣いていることはハッキリ分かる。
「……お願い。パパを助けて」
前回の話の終わりでレイルと戦い始めた感じにしましたが、その部分が異常に長くなってしまいそうだったので省略させていただきました。
※投稿ペースが無茶苦茶で申し訳ありません。先まで書いていますが、話の繋がりからやむを得ず書き直している部分があるので投稿の間ににばらつきが出てしまっています。問題ない部分は極力早く投稿します。