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突入⑭ -脱出-

「これは急がないとまずいかもな、人目に付くのはマズいぞ。煉、走れるか?」

 みことに肩を借りながら歩いていた煉には誰が見ても厳しい。

「相変わらず俺に対しては無茶が多いな。無理に決まってんだろ」

 思わしくない状況に打開策を打ち出したのは理沙だった。

「私セキュリティ登録してあるから平気です。こっちの門なら今日のこの時間はまだ管理人いないはず、急いで」

 そう言いながら総矢の腕を引っ張りながら先頭を歩き出す。信用していいのか分からず、みことと煉は顔を見合わせる。だが、引かれる総矢が何とも言えない笑顔で頷くのを清正が確認し、理沙の後に続いた。使用人数が少ないのか、監視カメラはあるものの人の気配が全くない小さい門へ辿り着いた。理沙が門の脇の指紋センサーに左手をかざすと、静かに鍵を開く。門を開こうと手を掛けたその瞬間、煉が唐突に口を開いた。

「疑う真似したくねぇからハッキリ聞くぞ。さっきの『今日のこの時間はまだ』ってどういう意味だ? 何でこの人気の無い門に管理人がいないと断言できた?」

 理沙の手が止まる。理沙は振り返り、煉に向き直る。

「信用されないことは理解できます」

 その一言から始め、理沙は総矢達と相対するまでの出来事を語った。矢口から連絡を受け、総矢達を追って地下に降りる直前、理沙は煉達が地下から追い出した被験者達と鉢合わせ、恐怖に怯えながら挙動不審に脱出経路を探す彼らを見て総矢達に襲われたものの命からがら逃げてきたと勝手に解釈し、今まさに自分達がいる場所からすぐに外へ連れ出したことを話した。

「……じゃあ、あの人達は無事に外に出られたのか?」

「うん、兄さん。それ以降は私も分からないけど。だから私が今日のここの状況を知っていました」

 理沙の真っ直ぐな視線に、煉は気圧されながらも納得し、礼を告げる。

「疑って悪かった、それとありがとな」

 理沙は軽く会釈してから再び門に手をかけ、引き開けた。窮屈に感じられる塀の外へ出て、全員が安堵していた。

「疲れたな、どこか体を休める場所へ行こう」

「賛成。担ぎ続けるのも結構厳し、ちょっと! どこ触ってるのよ!」

「今のはどう考えても事故だろうが。それに今のは腰に手が当たっただけだろ?」

「触ったのは認めるのね?」

 煉とみことの突然の口論を無視し、清正はさっさと歩き始めていた。

「総矢も妹さんも行くぞ。あいつらはほっとけ」

「少し、寄りたい所あるんですけど」

「あぁ、いつもの所だろ」

「ええ、確認しておきたい情報があります」



 一行はレイルの店に到着した。総矢が先頭で店の扉を開く。

「え? 結衣ちゃん? 何でこんな時間から店に?」

「……」

 虚ろな目でどこか宙を見ている。

「おい、どうしたんだ? こんな時間に起きてて寝惚けてんじゃねーのか?」

「……」

 無言のままカウンターで人数分のカップを取り出し、水を注ぐ。いつもと様子は違うものの、染み付いた行動は変わりない。その様子に違和感を覚えながらも、総矢達はテーブル席へと移動した。

「……」

 またも無言のまま結衣は人数分のコップをテーブルに置く。

「ありがとう。随分眠たそうだけど大丈夫か? 人なんか俺たち以外に来ないから奥で休んできなよ。代わりにレイルいるなら叩き起こして来」

 総矢が言い切る前に、返事もせずに結衣はカウンターの奥へと移動する。

「……」

 煉が視線をみことの体に移しながら言葉を漏らす。

「あの子、平気かよ? こんな時間から起きて睡眠時間削ってたら成長止まるぞ」

「何? どこ見て……喧嘩売ってるの? この変態」

 理沙が心配しながらカップに手を伸ばす。

「あんなに眠たそうなのに接客してるなんて、大丈夫かな?」

「そう、だな」

(何か妙な気が……ま、レイルが来てから話をすればいいか)

 気楽に総矢達は考えてレイルが現れるのを待った。だが、カップの水を飲み終えてもレイルが現れず、結衣も戻らない。待ちきれず、清正が口を開いた。

「遅いな」

「不自然ね」

 みことの言葉に嫌な予感を感じ、総矢が立ち上がる。

「ちょっと見てきます。すぐ戻りま……」

 立ち上がった直後に平衡感覚を失い、総矢は隣のテーブルにもたれかかった。

(これ…は……! みんな……)

 たった今、会話をしていた清正とみことを含めた全員が完全に意識を失い、座ったまま眠っていたことに気が付く。

(睡眠……薬……)

 薄れ行く意識の中、誰かの謝罪が聞こえた気がした。

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