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突入⑫ -分析-

 巨大な炎球は一瞬浮かべた矢口の不敵な笑みと共に崩れ、弱まった。すかさず水を放出し、炎を完全に消す。炎の消失と共に、3人が同時に矢口に襲い掛かる。みことと煉は炎を、理沙は電撃を放つ。だが再び、放ったつもりの攻撃は全員が不発のまま終わった。唖然とする三人をよそに、矢口は肩を震わせて笑う。

「疑問が尽きない、という顔をしていますね。ですがその答えを考える必要はもうありませんよ」

 自身の能力不発に動揺し、反応の遅れた全員に電撃が迫っていた。

(しまった……)

(ダメ、避けられない!)

(クソがっ!)

 ダメージを覚悟して目を閉じたが、痛みも感じず、何も起こらない。恐る恐る目を開けると、清正の右手が操る水壁が電撃から三人を守っていた。

「落ち着いて聞け。方法は分からないが、奴は能力を完全停止させられる。タイミングも完璧にだ」

 聞き覚えのある言葉に煉が噛み付く。

「それならさっき倒したヤツもやってただろうが!」

「違う。倒した男はある程度タイミングは合っているように見えたが、僅かにズレがあった。構えるタイミングと能力が発動するのに一貫性が無く、能力の発動が遅れることもあった。自分でコントロールしている訳ではなく、あの状況を見ていた何者かが行っていたってことだ。だが目の前の男は、今の流れの中、煉の炎のコントロールの断ち切りから自身の水の能力で防御、そこからの反撃のタイミングまで完璧すぎる。あの瞬間的な切替は誰かと息を合わせて出来るものじゃない」

 総矢を止めながらもその間に冷静すぎるほど清正は矢口を観察していた。その分析はほぼ正解である。先の風の男との戦闘では矢口はモニタを通して戦闘を監視し、タイミングを見計らって能力の妨害を行っていた。そこまで細かく分析され、顔では平静を装っていたが、驚きはしていた。

(今の流れの中でそこまで分析されるとは……厄介な相手です。ですが、だからこそ……)

 矢口が全員を軽く見る。清正の発言に動揺している煉達を見て、自分の方が一歩先に動き出せる事を確信した。全員の能力を強制解除する。清正の水壁が崩れ、煉達の足下を濡らす。

「それでは今日はここで失礼します」

 意外な台詞に煉達は完全に虚を突かれた。通路の奥へと矢口が移動すると、タイミング良く隔壁が降りた。

「待ちやがれっ! こんなもん!」

 煉が右手を前に突き出す。が、当然能力は発動しない。

「落ち着け。対策を練る時間が出来た、首謀者も誰か分かった訳だ。収穫は大きい。一度退くぞ……お前もいい加減落ち着け!」

 総矢は素手で床を殴っていた。怒りをどこへ向ければ良いのか分からず、そうする事しかできない総矢を止めようと清正が抑える。

「くそっ、くそっ! あんた達は悔しくないのか! アイツが元凶なんだぞ! 悔しさも怒りも無くなったってのか? ふざけんなよ、放せ、放せよ!」

 暴れる総矢を目の当たりにし、みことは感情的になって暴れたときの事を思い出した。

(あの時、私もこんな風で、それを見ていたあなたがこんな気分だったのかもね……)

「どうせあんた達も力を手にして、力に溺れてあいつへの憎しみも怒りも揺らいでいるんだろ! そうだよな? 自分達が強くなれたのはアイツのおかげだか……」

 言い終える前に総矢の体は清正の手を離れ、吹き飛んでいた。

「今何て言った、オイ? てめぇ、いつまで自分に酔ってんだ?」

 総矢は、自分が吹き飛んだ原因が煉の拳である事に気付いたのは立ち上がってからだった。煉の言葉は静かだが、それでいて硬く握られた拳は小刻みに震えていた。

「いつまでも駄々こねるガキみてぇなこと言ってんじゃねぇ。 あーうぜぇうぜぇ」

「何だと? 怒ることすら忘れた腑抜けが! 何もわかってない癖に偉そうな……」

 重症と思えない程の重い拳が煉から繰り出され、総矢の体が再び床を転がる。

「分かってねぇのはてめぇだ! 手当たり次第噛み付いて、自分すらも傷付けて可哀想な自分を主張したいだけのただのガキじゃねぇかよ。それとな……」

 床に這い蹲りながらも総矢は煉を睨み、視線を逸らさない。が、そんなことに気も留めず、煉の周りの空気が一気に冷たくなる。それに呼応するかのように部屋中に空気が張り詰め、音が無くなる。

「俺の憎しみや怒りが揺らいでいるって…………本気で、言っているのか?」

 清正以外の全員が恐怖で体が硬直していた。怒りに狂っていた総矢も身の危険を感じる程であった。理沙に至っては煉の怒気と言葉に圧倒され、その場に座り込んでしまっていた。

(何、コレ……? この人……本気じゃなかったの?)

 理沙が先の戦闘で総矢達の内の誰かを目の前で殺めていたら、この怒りは完全に理沙自身に向けられていた。その事を考えるだけで体がまともに動かせなくなっていた。

「煉、もういいだろ」

 清正が煉の肩に手を掛ける。と、同時に張り詰めた空気が和らぎ、総矢達も体を包み込む恐怖から開放され、安堵した。

「冷静になったな。総矢、それじゃそこの妹とやらも連れて来てくれ。色々と知っているようだからな」

「……分かりました」

「それじゃ俺達は先に帰り支度しておくぞ。大塚さん、煉の応急処置頼む」

「え、あ、うん。……でもいいの?」

 総矢達に一度視線を向け、清正に耳打ちする。つい数分前まで敵として殺し合っていた相手に対しての行動として納得していないみことは不満そうな顔をしていた。清正は分かってはいたが、総矢達の記憶を全員が見たことにより、不満はあれどもすぐには答えを出せないと踏んでその場を収めることを優先した。

「それは後で話す。それより、心配する相手が目の前にいるだろ?」

「おい、そこの2人、というか大塚。早く処置してくれ。総矢のせいで包帯緩んじまった」

 煉の声に体を硬直し、ビクッと震わせた。その様子を見て清正が顔を背けて笑う。

「早く行ってやれ」

「うっさいわよ」

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