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突入⑪ -見極め-

 矢口は煉の不気味な笑顔を見ても動じる事も無く目を逸らさない。敵対心しか感じられない煉に対し、矢口は掌の炎球を放った。

「その程度で調子に乗りやがって! 償いはしてもらうぞ、もちろんテメェの命でっ!」

 煉も自慢げに炎球を浮かべ、矢口に向けて投げ飛ばす。正面からぶつかり合った炎球は矢口のものを蹴散らし矢口に襲い掛かる。

「えぇ、私が能力を使いこなせていないのは重々承知しています。ですが……」

 飛来した炎球を矢口は手から放出した水でかき消した。清正は予測していた通りの展開に、驚きはしなかった。

「やはり多重能力者か、ということは……」

 水の壁が崩れると同時に総矢達全員に向け、電撃が放たれる。その攻撃を察知していた清正が、水の壁を全員の前に繰り出し、電撃を受け止めていた。

「流石ですね、水谷さん。皆さんの中で能力の出力が最も大きいだけの事はありますね。コントロールが正確、加えて迅速です。今の私には到底真似できません。ですが」

 今度は風刃を繰り出し、水の壁を突き破って清正を襲う。

「今まで見た能力は全て使用可能って訳だな」

「いいえ、まだ1人、能力の内容すら把握できていない方がいますよ」

 その視線は総矢に向けられていた。

「能力を使用しているのは分かっています。その強さも他の方々に劣らないレベルな筈なのに何も能力を見せて頂いていませんからね。体外的なものでは無いと踏んではいますが……それも肌で直に感じ取りたいものですね」

 これまで黙っていた理沙が不意をついて突撃した。

「よくも、今までよくも騙してくれたわね! 地獄に落ちろ!」

 電気を纏い、急加速で矢口の背後に回りこみ、矢口に向けて電撃を放った。

「えぇ、申し訳ありませんでした。ご両親の事に加えて、あなたは人体実験の被検体にもなっていただきましたし、非常に感謝していますよ」

 が、放ったはずの電撃は矢口に届くどころか、手から放たれることすらなかった。

(でも、向こうが攻撃できる瞬間なら私の攻撃も! 速さじゃ負けない!)

手に意識を向けたまま気を抜かずにいる。それを嘲笑うかのように矢口は余裕の表情を浮かべ、あくまで冷静に口を開く。

「ではこちらから」

 矢口の手から電撃が放たれる。

(しまっ、ぐっ!)

威力自体は対した物ではないが、発動速度の差で理沙が対抗できないことは明白だった。電撃を浴び、痛みに体を硬直させる。その隙を逃さず理沙に向けて風刃を放つ。理沙は横に倒れこむ事で何とか回避し、体勢を立て直して再び身構える。総矢はその一連の流れを見ていたが、受け入れられない現実に困惑しただ立ち尽くすしか出来ずにいた。

(あれが、あれが矢口先生の追い求めた『力』だと? 俺の両親も、理沙もあの人の理想なんかの為に苦しめられたのか? 俺だけじゃない。大塚さんも、火口さんも、清正さんも……)

 呆然として、空になっていた総矢の心を怒りが一気に満たしていく。

(そうだ、あいつだ! あいつが!)

 考えることを放棄し、両手で棍棒を掴むと無我夢中で矢口に突っ込んだ。今まさに膝を着いた理沙に攻撃を加えようとしていた時に矢口は振り向き、理沙を蹴り倒し、牽制の為に総矢に向かって炎を放つ。

「さぁ、見せてもらいましょうか!」

 総矢は言葉にならない声を上げながら突っ込み、正面から炎に包まれた。

(今! このタイミングなら邪魔は入れない。能力キャンセルは一時停止中。さぁここからどう動く?)

 期待に心躍る矢口をよそに、顔面のみを腕で保護しながら総矢は炎を突破してきた。手も足も火傷のあとが見られ、何かを行った様相は微塵も感じられない。

「……?」

 矢口は疑問に感じながらも総矢を注意深く確認する。総矢の攻撃も単なる大振りに過ぎず、回避には事欠かない。至って普通の攻撃、ただ力任せに棍棒を振り回すだけの姿に、矢口は苛立ちを覚える。

「もっと能力使って本気で来て下さい、これならどうですかっ?」

 今度は電撃を総矢に浴びせる。避けきれず、体を一瞬硬直させるだけで、総矢は大振りのまま矢口に襲い掛かるに過ぎない。

「……能力の何も無い、いえ、使えて無いようですね。ただただ獣のように突っ込むだけの今のあなたは相手にする価値もありませんね。少々惜しいですが……」

 矢口の期待は既に消えうせ、冷たい目を取り戻して総矢に両手を向ける。今度は様子見程度とは異なる威力で総矢に止めを刺すつもりで電撃と炎を同時に放った。避ける素振りも無く総矢はただひたすら突っ込む。炎と電撃が総矢を包み込んだ。そう思われた瞬間、正面を向いたままバランスを崩す。倒れたことが功を奏し、矢口の攻撃は総矢の右肩を掠める程度だった。

「バカ野郎! 何やってんだ、死にたいのか! 少しは冷静になれ!」

 総矢に足払いを仕掛けた清正が叫ぶ。総矢は止まる様子が無い。転倒しても呻きながらただひたすら矢口を睨み続ける。怒りで視野の狭まったことが功を奏し、足払いで攻撃を避けさせられた。が、異常な気迫に清正は驚き、動きを止める。その間、倒れ込む総矢を横目に煉が炎球を放っていた。

「いぃぃけぇぇ!」

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