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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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番外編4話「いつの日か、また」完

 先代のフランドル侯爵邸──放火未遂事件から一週間。軽食でも差し入れしようとミレアが工房を訪ねたところ、扉は空いているのに室内には誰もいなかった。昨日までは、熱心に世話を焼いていたジョルジュと、清潔感のある見た目を取り戻した才知がいたはずなのに、呼んでも返事はなかった。どこか出かけたのだろうか。


「……あ、あんた、人のうちで、なにしてるんだ? 泥棒か?」


 背後から現れたのは才知だが、明らかに様子が違っていた。鼻眼鏡は変わらないけれど、覇気が感じられないのだ。つい先日会ったばかりなのに、ミレアを目にしても硬い表情のままだ。


「……才知?」

「……サイチ? なんだ、それは」

「あの、ここはミツルギサイチの画廊兼、工房ですよね?」

「……いいや。うちは十年前から家具一筋だよ。画業をしたことは一度もない」

「えっ!?」


 才知らしき男から、家具職人だと言われて驚いた。そういえば、室内にあったはずの絵や画材が一切なくなっている。


「昨夜、身に覚えのないもので溢れ返っていたからすべて処分したけど、もしかして、あんたのものだったのか?」

「その処分したものはどこに?」

「外になければ、誰かが持ってったんだろうよ」


 ここにくる途中、放置された絵画や画材は目にしていない。すでに誰かが回収してしまったのだろう。


「もういいか? これから出かけるんだ」

「え、ええ。失礼しました」


 なにが起こっているのかさっぱりわからないまま、ミレアは工房を追い出された。才知がこうなってしまった以上、ジョルジュはどうなのか気になった。

 もしも才知のようになっているのならば、ジョルジュは実家に帰っているかもしれない。

 自宅に戻り、出かける準備をしようとしていたミレアのもとに、誰かが尋ねてきた。


「姉さん」

「え、ジョルジュ!?」


 大きなものを抱えたジョルジュが、玄関先にいたので目を見開いた。会いに行こうとしていた人物が目の前にいるのだ。動揺しないわけがない。


「お化けにあったみたいに驚いているけど、どうしたの?」

「今、丁度会いに行こうと思っていたのよ」

「そうだったの? 僕は姉さんにこれを届けに来たんだ」

「これは……」

「昨日、たまたま通りかかった裏道で見つけたんだ。これ、姉さんと侯爵だろ?」


 そこに描かれていたのは、笑顔のミレアとエミールの姿だった。劇画タッチではないが、間違いなく才知が描いた絵だ。


「ほかにも色々あったから、なんとなく回収したけど、たぶん、これも姉さんだよね?」


 もう一枚見せられたキャンパスには、劇画タッチで描かれたミレアの姿もあった。

 ジョルジュに憑依した一晴は、ミレアを『姉さん』とは呼ばない。才知と同様、ジョルジュの中にはもう、一晴はいないのかもしれない。


「どうして路地裏にいたの?」

「それが、ここ十日間の記憶が一切ないんだよ。実家にいたはずなのに、知らず知らずのうちに首都に遊びに来てたのかなぁ? 昨夜、絵画を拾ったから、近くにあった宿泊所に運び込んで、家に送る物を選別していたんだよ。どれもいい絵だから飾ろうかなって」

「……そう」


 時系列はだいたいあっている。マーガレットの母親が購入した絵画を見かけ、工房を訪ね、才知と一晴に再会したのはここ二週間での出来事だ。


「絵、気に入らなかった?」


 心配そうに尋ねられ、ミレアは笑みを浮かべて首を振った。


「ううん、ありがとう! 広間に飾るわね!」

「よかった。って、僕が描いたわけじゃないけどね」

「ふふ、知ってるから大丈夫よ」

「そうなの?」

「うん。この絵を描いた人、お姉ちゃんの知り合いなの。だから、他の誰かの手に渡らなくてよかったわ」

「そうだったのか。大事にするよ」


 ジョルジュは用事を済ませると、「義兄さんによろしくね」と一言残して立ち去った。

 ミレアは使用人を呼び、絵画を大広間に運ばせ飾ってもらった。まじまじと才知の絵を眺めていると、不意に背後から声をかけられた。


「──ミレア、家にいたのか。その絵は……もしかして、才知くん?」

「そうです。さっきジョルジュが届けてくれたんですよ」


 ドレスショップにいなかったミレアを心配したのか、エミールは探していたらしい。大広間に足を踏み入れ、飾られている絵画を見上げてすぐ誰のものかわかったようだ。


「さっき、工房に寄ったんですけど、才知だったはずの人はまったくの別人になっていたし、ジョルジュも一晴ではなくなっていました。なにがあったんでしょうか……?」

「もしかすると、あの二人も意識不明のまま飛ばされて、成就をきっかけに向こうに戻ったんじゃないのかな」


 ミレアも、この世界で断罪回避という目的を達成した夜、不思議な夢を見た。ミレアが見たのだから、才知や一晴が見ていないとも限らない。二人は、現世で生きることを選んだのだろう。


「少しの間でしたけど、幼馴染みたちと久しぶりに再会できて楽しかったです」

「僕も、才知くんにお礼を告げられてよかったよ」

「ふふ、そうですね」


 その後、一晴とともに奇跡的に現世へと戻った御剣才知は、if作品として悪役令嬢更生ものを描いてヒットさせ、さらに『まさか俺の作品がきっかけで、喪女だった幼馴染みが結婚するなんて!』というタイトルでも人気を博すことになった。

 水縞あいりがそれを知ったら、アイディア料を求めそうなものだが、ミレアが奮闘した六年間を形にしたことで納得しただろう。


「エミール様。お腹、好きませんか? サンドイッチを作ったので食べませんか?」

「うん。食べたい。お茶は僕が淹れるよ、ラズベリーリーフでいい?」

「はい、ありがとうございます!」


 エミールは、台所でお湯を沸かすために大広間を出ようとしたので、ミレアも後に続いた。ミレアに気がつくと、肩に手を添え優しく支えてくれる。温もりを感じる。


「子どもが生まれても、お茶は僕が淹れるからね」

「あら、どうしてですか?」


 微笑みながら尋ねると、エミールは片目を閉じながら答えてくれた。


「君に座っていてほしいからだよ」


 領地視察と管理で多忙を極めているというのに、時間を作ってはミレアを気遣ってくれる。助けてくれる。ミレアの希望で最低限の使用人で回しているので、侯爵夫人でありながら時々料理やおやつ作りをしているのだが、エミールは楽しそうに皿洗いをしてくれる。


「優しいですね」

「今知ったの?」

「ふふ、前から知ってました!」

「それならよかった。僕の前世は小児科医だから、安心して産んでほしい。絶対に後悔はさせないから、二人で大切に育てよう」

「……はい!」


 少しずつ子ども部屋の準備を始めている。性別はどちらでもいいように白い服を中心に、ミレアはベビー服を手縫いしている。子どもが成長したら、揃いの服を縫って公園や街中を散歩したい。ドレスショップは手伝いを増やして仕事量を抑え、家族の時間を優先するつもりでいる。


「今日の夕飯……ハンバーグはどうですか?」

「いいね!」

「キャベツの千切り、任せますね」

「いいよ。人参のグラッセは?」

「食べたいです!」

「わかった。副菜は僕が作るね」

「わーい、楽しみです!」


 以前、エミールが作った人参のグラッセが美味しかったので、ハンバーグの際はいつも作ってもらっている。

 新しい家族が増えるのは半年先のことだが、ミレアは待ち遠しかった。子どもが生まれたら、前世のこと、両親のこと、そしてこの世界のことをお伽噺のように語るつもりでいた。




──完──


読んで下さりありがとうございました!


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