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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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19話「弟」

 初夏の日差しが心地よい六月下旬。

 マーガレットが襲われた一件から五日が過ぎようとしていた。事件は解決しておらず、目撃者が少なかったことから、このままお蔵入りするのでは、とミレアは考えていた。

 噂話に真っ先に飛びついたメイドのことが耳に入ったのか、ハウスキーパーからは、根も葉もない話に安易に乗らないようにと忠告があった。主人を貶めるようなことを吹聴したことが発覚した場合、推薦状なしでクビになることもある、とのことだった。それ以来、メイドたちの間で囁かれる話題は別のものに変わった。

 ミレアとしては、事件当日のイザベラには、邸宅にいたというアリバイがあるので主張したかったが、ハウスキーパーに事前に相談したところ、波風立てずにそっとしておいた方が早めに治まると助言された。

 ミレアには、もう一つ、気がかりがあった。それは、ここ最近、弟のジョルジュの姿を見かけていないことだ。朝の食堂にいないことの方が多いのだ。侯爵邸で働く使用人は、侯爵や侯爵夫人、イザベラやエミールよりも先に食事を済ませる。いつもは朝や晩の食堂で見かけていたはずなのに、一週間ほど目にしていないので、同僚の庭師から事情を聞くことにした。


「おはようございます。この頃、弟を見かけないんですけど、なにか知りませんか?」


 一人で座っていたので、ミレアと同い年くらいの青年の隣席に腰かけた。


「ああ、ミレアさん。おはようさんです。ジョルジュなら、ルパート王太子に呼び出されているので、宮殿にいるはずですよ」

「……宮殿に?」


 宮殿に呼び出されていることを告げられ、ミレアは首を傾げた。原作でも接点はあったとはいえ、わざわざエルダークラウン宮殿まで呼び出されたことはなかったはずだ。


「はい。よく職場を抜け出すから本来ならクビだろうけど、相手は王太子だから多めに見てもらってますよ。羨ましいなぁ」


 もっと弟を気にかけるべきだった。メイドは主に屋内、庭師見習いや馬の世話係は屋外がメインなので、食事の時間か休日に接触するしかない。使用人の部屋は男女別の階に設けられており、行き来はできても見つかれば咎められるので足を踏み入れないようにしていた。

 メイドとして効率よく立ち回って昇級すること、イザベラを更生させること、断罪回避後の生活のこと、そしてエミールと猫の食事にも気を配っていたので、弟のことまでは手が回らなかった。

 とりあえず、姿を見かけることがあったら、積極的に話を聞いてみることにした。



 

「お嬢様。今日はお天気がいいので、中庭でアフタヌーンティーにしませんか?」

「いいわね。レモネードを淹れてくれる?」

「ええ。準備してきます」


 中庭ならば、木の剪定や花の植え替えをしている時などに、呼び止められるだろう。就業時間中だが、イザベラに一言断れば、弟と接触しても不機嫌になることはない。そう教育してきたからだ。

 台所で軽食の用意をしてからレモンを取り出し、よく水洗いしたものを薄い輪切りにする。鍋にレモンとはちみつ、水を少量入れてことことと軽く煮込む。砂糖を使うのが一般的だが、ミレアははちみつで甘くするのが好みだった。

 硝子のティーポットに煮込んだはちみつレモンと、よく冷えた炭酸水を注いでレモネードを完成させた。


「これでよし」


 小さなワゴンに軽食とレモネード入りのポット、グラスを載せて中庭へと急いだ。

 すでに椅子に腰かけていたイザベラは、今朝、食堂でミレアが声をかけた庭師見習いと笑顔で談笑していた。珍しい。


「あ、ミレア。ねえ、グラス、二つある?」

「ええ、ございますよ」

「よかった。そこにいる彼、レモネードをまだ飲んだことがないっていうの。あれだけ流行っているのに、おかしいでしょ? だから、ちょっとだけ分けてあげてくれる?」

「かまいませんよ」


 いつの間にかそんな話になっていたのか、泥で薄汚れた青年は申し訳なさそうに立ちながらも、イザベラからの厚意を無下にはしなかった。


「へへ、ありがとうございます。いただきます!」


 グラスにちょっとだけと言われたが、ポットにたっぷり作っているので、試飲のために半分ほど注いで手渡した。受け取った青年は、グラスを傾け一気に飲み干した。


「んー……すっぱい!」

「ええー? そんなことないのに。ねえ、ミレア。もしかして、今日は失敗したの?」

「いいえ、まさか」

「そうよね。私にも頂戴」

「はい、どうぞ」


 グラスに口をつけて一口飲むと、イザベラは「すっぱくないのに」と不思議そうにしていた。


「お嬢様。きっと初めてレモネードを飲まれたので、慣れていないだけかもしれませんよ」

「それもそうね!」


 諸説あるが、レモンは疲れている方があまり酸味を感じないとどこかで目にしたことがある。しかし、今それを指摘するのは違う気がしたので言わなかった。

 レモネードで談笑していると、中庭にもう一人いることに気がついた。ジョルジュだ。


「イザベラ様。弟をみかけたので、声をかけてきてもいいですか?」

「いいわよ」


 許可が下りたので足早に弟のもとへと向かった。


「ジョルジュ」

「……姉さん」

「ねえ。最近、ルパート王太子に呼び出されてるって本当なの?」

「……なんだ、そのことか。本当だよ」


 なんだ、という一言に引っかかるが、今それを追求してしまうと話が進まなくなるので突っ込まなかった。


「王太子の用件は?」

「姉さんには関係ないことだよ。王太子のプライベートなことだから、いくら姉さんでも教えられない」


 口止めされているのか、それとも守秘義務のためなのか。尋ねても教えてくれなかった。


「言えないのなら無理に聞かないわ。ただ、危険なことに巻き込まれていないわよね?」


 ミレアが再確認すると、ジョルジュは小さく頷いた。


「……うん」

「それならいいけど、困ったことがあったら、いつでも相談してね」

「……わかった」


 もう少し話したかったが、上司である庭師がジョルジュの名を呼んでしまった。返事をしたジョルジュは、そちらに向かって走り去ってしまった。

 仕方ないのでイザベラのもとへと戻った。


「ミレア。話はもういいの?」

「ええ。ありがとうございます」


 もう一人の庭師見習いも名前を呼ばれたらしく、小さく会釈をしてから走って行った。

 イザベラは少しだけ残念そうだが、中庭を散歩すれば、また話す機会はあるだろう。

 弟のよそよそしさが気になるものの、ジョルジュはミレアの一つ年下で、思春期真っただ中だ。あまり詮索しないようにしつつも、注意深く見守ることにした。

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