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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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18話「更生したはずなのに」

 それから少し経ち、あと数日で夏至が訪れるという時に、とある事件が発生した。デビュタント以来、顔を合わせていない正ヒロインのマーガレットが、何者かに襲われ怪我をしたとメイドが噂していたのだ。それだけでなく、その現場には、婦人ものの櫛が残されていたという。


「……イザベラお嬢様が、まさか……」


 事件の翌日に発行された新聞にも、婦人が何者かに襲撃されたと記載されていた。犯行時刻は十五時丁度。しかし、十五時になるとイザベラはアフタヌーンティーを日課にしている。事件当日とされる日も、ミレアはチーズケーキを提供していた。アリバイがある。


「お嬢様ではないわ!」


 噂話をしているメイドを嗜めてから、ミレアは、すぐさま事実確認するためにマーガレットの自宅へと急いだ。

 マーガレットは、中心部ではなくローゼンブリッジの郊外にある邸宅で、母と年の離れた兄の三人で暮らしている。ミレアが住居を知っているのは、原作を読んでいるからだ。伯爵だった父親は数年前に他界しているため、兄が伯爵の爵位を相続し、母親は持参金と寡婦財産で生活している。

 アポイントも取らずいきなり訪問したため、家令に追い返されることも覚悟していたが、あっさり応接間に通された。


「いきなり訪問してすみません」

「ふふ、いいのよ」


 マーガレットは自宅にいた。デビュタントの際に会ったのが最後だったが、顔色もよく元気そうだ。

 本日、手土産として持参したのは、ミレアが昨日焼いたチーズケーキだ。手作りのもので申し訳ないが差し出すと、マーガレットは笑顔で受け取り、中身を確認するなり笑みが零れた。


「あの、襲われたと聞いたのですが、怪我の具合は如何でしょうか……?」


 まだフランドル家には誰も尋ねていないが、もしもイザベラが犯人にされてしまうと、警察が事情聴取に来るだろう。イザベラは家におり、アフタヌーンティーを楽しんでいたと証言するために足を運んだ。長年勤めるメイドゆえにかばっていると思われる可能性も捨てきれないが、やっていないものはやっていないので、疑われているならば早めに対処したかった。


「ああ、はい。そうなんです。ちょっと足を捻挫して膝を擦り剥いたくらいなので、心配いりませんよ」

「それならよかったです。それで、あの、現場に落ちていた櫛が、イザベラお嬢様のものだったと……」

「え? ああ、はい。こちらです」


 マーガレットが差し出した櫛を確認すると、確かにイザベラが愛用していたもので間違いなかった。猫の足跡と名前が彫られている。だがしかし、これは数か月前に部屋で紛失していた櫛だ。それなのに、外で見つかるとは想像していなかった。


「なぜこれが……」

「私が襲われたのは確かですけど、でも、イザベラさんじゃないことはわかっているんですよ」

「え、どうしてですか?」

「犯人の身長、私とあまり変わらないどころか、ちょっとだけ高かったんですよ。でも、イザベラさんはデビュタントでお会いしたことがありますけど、私より低めですよね」


 指摘された通り、イザベラはマーガレットより十センチ低い。たとえヒールを履いたとしても、この頃はローヒールが主流だったため、どちらにしろ視線は下になる。


「それより、私が襲われたのは本当ですが、わざとらしく櫛だけが落とされていたのと、犯人が見つかるまでは公表しないつもりだったんです。この通り、軽傷ですし。それなのに、翌日には新聞に載っていただけでなく、ミレアさんも現れた。なにかあると思いませんか?」


 事件当日、マーガレットの傍にいたのは侍女だったが、情報を第三者に売るような子ではないという。家で母親には打ち明けたが、三人しか知らないのに、鮮明に事件の状況が書かれていた。


「もしかして……新聞記者に情報を売ったのは、犯人でしょうか?」


 その場にいなかったのでミレアにはわからないが、マーガレットの話を耳にして真っ先に浮かんだ。どういうわけかイザベラの私物を盗み、犯人に仕立て上げ、新聞記者にネタを売る──。そうとしか考えられなかった。


「ええ。その可能性もあると思います。ミレアさん。気をつけてくださいね」

「はい。ご忠告、ありがとうございます」

「あ、私ったらお茶も出さずにごめんなさいね。今用意しますから」

「おかまいなく!」


 ミレアが持参したチーズケーキを皿に移し、マーガレットは紅茶を淹れてくれた。


「このチーズケーキ、とっても美味しいですね。チーズケーキは好物なんですけど、どこのお店ですか?」


 嬉しそうに頬張りながら、マーガレットは尋ねた。


「お口に合ったならよかったです。昨日、お嬢様のおやつに焼いたものなんです。残り物でごめんなさい。今度はホールで持参しますね」

「まあ! それは楽しみだわ!」


 手土産を選んでいる余裕がなく、残り物を渡してしまったが喜んでもらえて安心した。

 マーガレットがミレアに、嘘の証言をしているようにはどうしても思えず、第三者の悪意がこちらに向いている可能性が新たに浮上してしまった。イザベラが、悪役令嬢ではなくなってしまった以上、その役割がマーガレットに移ることも、無きにしも非ずだ。悪役令嬢と、ヒロインの立場が逆転する展開の作品も、いくつか読んだことがある。

 けれど、仮にそのパターンならば、もう少し早めにイザベラと接触していただろう。本来、初対面を果たすのはデビュタントではなく二年前だ。マーガレットと母親が転落事故に巻き込まれ、大怪我を負う騒動は一年前だと記憶している。立場が逆転しているならば、イザベラの命が狙われているはずだが、今もこうして無事でいる。

 とりあえず、襲われた本人に事実確認できたので、そろそろ帰ることにした。


「今日は突然、お邪魔してごめんなさい。そろそろお暇しますね」

「いいのよ。馬車で送りましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。マーケットに寄ってから帰るので、大丈夫です」

「わかったわ。また遊びにきてね」

「ええ、ぜひ!」


 原作の推しである正ヒロインに内緒で会ってしまい、ミレアはイザベラに申し訳なく思いながらも、後日、改めてホールケーキを持参することにした。

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