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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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17話「リメイクドレスショップ」

 建国記念日まで残り四か月。小満を過ぎると街の至るところでは紫や桃色のペチュニアの花が咲き始め、眺めているだけで自然と笑みが浮かぶ。

 つい先日、エミールは二十一回目の誕生日を迎えたが、珍しくイザベラが休みをくれたので、ミレアは丹精込めて仕立てたチャコールグレイのベストと、リクエストされたスフレパンケーキ、焼き肉で祝った。侯爵家の嫡男だというのに、焼き肉でいいのか問いかけたところ、前世でも定期的に食べていたことから恋しくなったらしい。

 スフレパンケーキとホットケーキで迷ったと言われた際は、さすがに聞き流した。

 侯爵家の嫡男という立場から、領民に会う機会が多いので汎用性の高いベストを選んだのだが、気に入ってくれたらしく、今日も同系色のボトムスと合わせてばっちり着こなしていた。金髪の美青年はなにを着ても似合うから羨ましい。


「どこで店を開きたいか、そろそろ固まった?」


 リメイクも請け負うドレスメーカーとして新たにショップを開業するにあたって、どこで店舗を構えるか。最初に考えなければならない問題だ。昨年からあちらこちら調べているものの、ミレアが六年間で貯めた給金は無尽蔵ではない。


「だいたいは。街の中心部は注目を浴びやすいですが、入れ替わりも激しく競争率や賃料も高すぎるので、まずは裏通りにある小さなフロアを借りるつもりです」


 開業は来年の社交界シーズン前の二月を予定している。イザベラの友人である令嬢に、いつかドレスメーカーとして独立したいと考えていることを打ち明けたところ、第一号になりたいと名乗り出てくれた。断罪回避に成功することが最優先なので、イザベラにはまだ内緒にしてもらっている。


「君さえよければ、母が所有していた物件に興味はないかな?」

「……え?」

「今は別の人に貸しているけど、顔馴染みのテーラーから、そろそろ引き上げて田舎で暮らしたいと言われてね。ほら、あそこの店だよ」


 エミールが指をさすと、その店は定期的に連れられていた、海外からの輸入生地を扱う富裕層向けの仕立て屋だった。ミレアが購入する機会はあまりなかったが、何度も足を運んでいた高級店だ。


「店内にある生地や糸も、処分が面倒だからまとめて買い取ってほしいって」

「で、ですが、あそこにあるものはどれも高くて、私じゃ手が出ませんよ? それに賃料も払えません」


 中心部からそう離れていない区画だ。マーケットが近くにあるし、人通りも多い。店を開くには最適で、気軽に立ち寄ってもらえるだろう。けれど、立地条件のいい店舗はミレアでは借りることはままならない。数か月分の賃料だけで、開店資金が底を突いてしまう。


「うちで買い取るつもりだよ」

「……と、いうと?」

「僕がオーナーになるから、君に店の運営を任せたいんだ」

「……」


 エミールがショップのオーナーになり、ミレアには店主として働いてほしいと告げられた。店内在庫は使い放題の上に、当面の間、賃料は相場の一割でいいという。好条件すぎる。


「あの……どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「君を囲いたいから……って言ったらどうする?」

「えっ」

「冗談だよ。生前の母もファッションが好きで、ここで店を経営していたらしいんだ。フランドル侯爵と結婚して、店の管理は叔父に譲ったそうだけどね。だから、先行投資を兼ねて君の手伝いをさせてほしい」


 エミールの実母に、そんな設定があったとは。ミレアは初耳だった。原作の細部まで聞いているはずなのに、どうやらすべてではなかったらしい。エミールと叔父だけが知っている事実なのだろう。


「甘えてしまってもいいんですか?」

「いいよ。新たに貸し出す人を探そうにも、店内の片づけが必須だし、なにかと面倒だろ? 条件をすり合わせて契約を交わさなきゃならない。けど、その相手が君ならば打ち合わせがしやすいし、どんな人となりか知っているから、精査しなくていいし、こっちとしても楽なんだよ」


 エミールの方が損をしているような気もするが、店の売り上げを伸ばしに伸ばせば恩を返せるだろう。ミレアは小さく頷いた。


「……わかりました」

「よかった」


 その足で挨拶に向かうと、現店主が紅茶を淹れてくれた。


(……ここでお店を開業させるのね……!)


 まだ半年以上も先の話だが、自分のお店を持つという実感が突如として湧いてくる。心の底からわくわくしてくる。

 リメイクドレスのサンプルを用意したり、帽子や小物を準備したり、やることは多いが着々とオープンに向けて進めていた。

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