13話「初めての依頼」
季節はまた進み、夏至まで残り一週間。ミレアが、イザベラのドレスをリメイクするようになり三着手がけた。季節ごとに新調していたものを、年に一着と抑えたので、趣味が実益を兼ねただけでなく、ついには侯爵家の経費削減にも貢献していた。
そして、ついにこの日がやってきた。初めてイザベラのドレスをリメイクしてから、今か今かと待ち望んでいた。
夏を涼しく迎えるため、薄手のドレスにリメイクしてほしいと、初めて外部から相談されたのだ。相手はイザベラの数少ない友人で、カントリーハウスにて熱心に語り合っていた同い年の令嬢だ。これもひとえに、イザベラが自慢してくれたおかげだ。
ミレアとしては是が非でも請け負いたい。なぜならば、リメイクの報酬として提示された金額は、ヤングレディーメイドをしているミレアの月収と同額だったのだ。一か月働いてもらえる給与を、一度のリメイクで受け取れるのならばやらないわけがない。
しかし。十三歳のイザベラは、頬を膨らませて不機嫌さを前面に出していた。いくら友人の頼みとはいえ面白くないようだ。
「ミレアは私の専属メイドなのに、他の子のドレスもリメイクするの?」
上目遣いで問いかけられ、ミレアは悶絶しそうになった。
(この子は、なんて可愛い拗ね方をするの!?)
ミレアは、衝動に駆られて、思わずエミールに自慢しに行きたいところをなんとか抑えた。食い意地を張りながらツンケンしていた頃から比べると、イザベラは間違いなく良い方向に成長している。
「お嬢様。もしもこの依頼を受けさせてくれるのなら、私はイザベラ様に、とっておきの一着をお作りしますよ。オーダーではなく、私が自らドレスを作成いたします」
ミシンがないため時間がかかってしまうが、一針一針丁寧に縫うつもりだ。前世でコスプレイヤーをしていた頃の血が騒ぐ。手縫いで一からドレスを作った経験はなくても、ドレスを着てはにかむ姿を想像するだけで、俄然やる気が湧いてくる。ミレアの中に新たに誕生したイマジナリー・イザベラは、大いに喜んでくれている。やるしかない。
「……約束よ?」
「ええ、必ず!」
小指を出して指を絡めると、ようやくイザベラは控えめながら笑顔を見せた。やっぱりイマジナリーより実物が可憐だなとミレアは力強く頷いた。
この依頼が成功した暁には、次なる依頼が舞い込む可能性も考えられる。この時代は、仕立て屋にドレスメーカー、縫い子、リメイクドレスなど洋服関連で生計を立てている裁縫職人が多く存在している。断罪回避に成功した後、裁縫の道に進むのもいいかもしれない。
令嬢の好みを聞き出し、イザベラと共に邸宅にお邪魔して実物を拝見しながら、理想を追求するために何度も話し合いを重ねた。可憐な少女の魅力を最大限に引き出すべく、暖色で統一したデイドレスを完成させると、どんな反応をしてくれるのか待ち遠しかった。
「こんなに可愛いのに、軽いし、なにより涼しいわ!」
預かっていた二着のドレスを解き、ツートンカラーになるよう意識しつつ、裏地はリネンやオーガンジーに変えて縫い直した。自信作だ。
「気に入っていただけてよかったです。イザベラお嬢様のドレスと色違いに見えるよう、心がけました」
「ねえ、イザベラ。今度、ミレアさんのドレスを着て、一緒にアイスクリームを食べに行かない?」
「いいわね!」
赤毛のイザベラと、栗毛の令嬢が二人並んでポーズを決めれば、誰もが目を奪われるほどの美少女っぷりに圧倒されるだろう。まさにお人形のようだ。水縞あいりの前世は、趣味でレイヤーをやっていたので撮影される側だったが、ここにカメラがあれば、心行くまで撮影したかった。コスプレイベントに参戦すれば、すぐに撮影会が始まったに違いない。
心の中で大絶賛していると、報酬として支払われる金額よりも倍も手渡されたので慌てた。五日間という早さで、期待以上のドレスが完成したからだと、半ば強引に押しつけられた。買い足した生地は向こう持ちだし、五日間で二か月分の月収を稼いでしまった。
イザベラには、一からドレスを作ることを条件に依頼を引き受けたので、約束通り秋口に向けて準備することになった。
下見のために一人で街へ繰り出すと、以前、エミールと立ち寄った高級店に入荷したばかりの新作生地に目を奪われた。紅葉シーズンにぴったりな茶色の生地に、赤く小さな花が散っていて可愛らしいのだ。それ以外に白いレース生地を購入し、デコルテ部分とスカートの中央部分、手首の部分にふんだんに使用した。茶色の生地は、上半身の一部と、スカートの外側部分だ。バランスをとりながら、組み合わせて丁寧に縫い上げた。上品な仕上がりになった。
今までリメイクした三着のドレスは、明るい組み合わせになるように工夫していたので、もしかするとイザベラのお眼鏡にかなわないこともあり得る。もう一着作るように言われるかもしれない。
けれど茶色に赤い花柄、そしてレースの白い生地で縫われたデイドレスを目にした瞬間、イザベラは喜んでくれた。
「こういう、大人っぽいデザインにも挑戦してみたかったの!」
そして、イザベラの秋用ドレスを目にした侯爵夫人は、娘のドレスと揃いになるよう馴染みのドレスメーカーにオーダーしていた。
夫人へのアピールにも繋がり、ミレアはまた一つ自信をつけることに成功した。一石二鳥どころか三鳥だった。




