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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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12話「正ヒロイン登場」

 夕食会からさらに日が進み、四月下旬。王族であるルパート王太子主催の狩猟大会が待ち構えていた。このイベントは覚えている。正ヒロインであるマーガレット・オブ・スティールがたまたま居合わせ、イザベラと鉢合わせしてしまうのだ。

 本来、狩猟大会は王族や貴族の男性だけが集まる社交の場だ。けれど、今回は王族所有のカントリーハウスを解放し、婦人を集めたちょっとした立食パーティーを同時に開催するというので、未婚の令嬢たちはみなそわそわしていた。王族やそれに近しい貴族男性に見初められて嫁げれば、その家の将来は安泰だ。だから親たちはこぞって参加させようとする。

 マーガレットやイザベラも例外ではなかった。だから事前に知っていたミレアは、エミールに頼んで断ろうとしたところ、なにかの手違いか、ミレアの弟であるジョルジュが、王太子本人に出席すると伝えてしまったらしい。


「エミール様。ハンティングの腕前は大丈夫ですか?」

「大丈夫……ではないかもしれない。縁日の射的は、病院で子どもと一緒にやっていたからできても、こっちは本物の銃だからね」

「弟がすみません」

「いいんだ。別に、僕が一つも獲物が取れなくても、君はがっかりしないだろう?」

「当然です。なにせ私は、目の前で動物が轢かれるのを見たくないだけで、とっさに助けるような愚かな女ですから」


 そうやってこの世界に転生してきた。何度もいうように悔いはない。


「ミレア。そんな言い方しなくていい」

「事実なのに?」

「それでも、だ。苦手な動物でも、助けた君は十分立派だよ」

「私はそうは思わないんですけど……でも、ありがとうございます」


 褒められるのを望んでいたわけではない。それなのに、気を遣ったエミールに褒めさせてしまったので、今度からはその話題は避けることにした。


「お嬢様とマーガレットをなるべく近づけないようにはするつもりですけど、そっちはエドワードさんをお願いしますね」

「ああ、わかってる。なるべく二人で行動するように心がけるよ」


 出席で返事をした以上、当日に仮病を使って不参加するという手も考えられたが、万が一、使用人の口から嘘が漏れてしまうと、窮地に追い込まれるのはこちら側だ。それだけは避けたかったので、なるべく目立たぬようにしてやり過ごすことにした。


***


 狩猟大会の朝。雨が降って中止になるように、てるてる坊主を逆さに飾ってみたものの効果はなかった。清々しいほどの晴天だ。腹をくくるしかない。

 ルパート王太子所有のカントリーハウスは、どれも広々としているため、ミレアが上手く菓子でイザベラを誘導すれば、マーガレットとは接触せずに平穏に過ごせる可能性が高い。招待客を数えると、ざっと百人は超えているのでなんとかなりそうだ。

 間近で見る金髪に緑色の瞳をしたマーガレットは、誰もが目を引く笑顔が太陽のように眩しかった。まだ十五歳だというのに、正ヒロインだけあって完成度が高いのだ。美しく、気品と知性に満ちている。傍にいるだけで、思わず目で追ってしまう気持ちも理解できる。

 しかし、そこまで目立ってくれるおかげで、こちらは避けやすいので助かっていた。


「お嬢様。好物のパンケーキがございますよ?」

「ふうん、そう。確かにパンケーキは好きだったけど、薄っぺらいものは物足りないのよね。私の口には、ふわふわ以外は合わないわ」

「……イザベラ様!」


 このデレっぷりが癖になるというのに、この世の殿方は、気の強そうな少女は敬遠するため見る目がない。ちょっと前まではツン部分の割合が多く、「薄っぺらいパンケーキなんて貧乏くさい」と言っていた。イザベラは徐々に丸くなっている。


「ではオレンジゼリーは如何ですか? あ、プディングもありますよ。見てください、アップルタルトも美味しそうです」


 マーガレットが右に一歩進めば、イザベラを伴い、こちらは右に三歩進む。マーガレットが左に一歩引き返せば、イザベラを伴い、こちらはその場に待機する。そんな感じに距離を取っていたため、終始落ち着かなかったが、接触しないためならばやむを得ない。


「私たちしかデザートを見ていないわよ?」

「いいんですよ。今日は全種類制覇しにきたんですから」


 外の様子が気になるものの、ここにいる限りはエドワードと接触することはない。マーガレットの動きだけに集中すればいい。


「あ、お嬢様。ご友人がいらっしゃいますよ。タルトをお渡ししながらご挨拶されてはどうですか?」

「それもそうね。用意して頂戴」

「はい。かしこまりました」


 時々、侯爵邸に遊びにくる令嬢を見かけたので、アップルタルトを二人分用意して令嬢のもとへと向かった。テーブルと椅子も用意されており、そちらに置いて紅茶のセッティングを済ませると、イザベラと令嬢は楽しそうにお喋りを始めた。

 こうなると長い。そろそろトイレにも行きたいし、ちゃんとサポートできているのか弟のことも気がかりだ。三十分ほど席を外すとイザベラに耳打ちしてから、ミレアはカントリーハウスで働くメイドにお金を渡し、少しの間イザベラに目を配るよう頼んだ。

 春の狩猟大会なので狙うのは野ウサギがメインだ。カントリーハウスの裏に大きな天幕を張りそこを本部とし、射止めた動物は従者が運んで血抜きをする。ジョルジュはエミールと一緒にいるはずだ。

 ところが、ジョルジュは本部で待機していたルパート王太子と一緒にいた。傍にエミールの姿はない。


(ジョルジュがあそこにいるのなら、エミール様はもしかして一人?)


 遠くから眺めながら首を傾げていると、外にいたミレアを一人の人物が追いかけてきた。


「これ、落としましたよ!」


 呼びかけられたミレアが振り返ると、そこにいたのは眩しいくらいの金髪と澄んだ緑色の瞳の持ち主、マーガレットだった。


「え……なにも落としてないはず……」


 マーガレットが差し出したのはハンカチだった。それは以前、街中でエドワードが拾ってくれたものと同じだった。今回は、お手洗いに行った帰りに落としてしまったらしい。


「すみません、ありがとうございます!」


 どうしてこうも抜けているんだろうと焦りながらも、ハンカチを受け取った。


「いいえ。それでは、私はこれで……」


 スカートの裾を掴み、お淑やかに挨拶をしたマーガレットは、またカントリーハウスに戻ろうと方向転換したところ、石に躓き、よろけた拍子に転んでしまった。ヒロインのドジっ子属性が発動してしまった!


「きゃっ!」

「大丈夫ですか!?」


 申し訳なさでいっぱいになる。ハンカチを落とさなければ、マーガレットはわざわざミレアを追いかけることはなかった。手を差し伸べて助け起こした。


「え、ええ。平気よ、このくらい」


 けれど、イザベラの付き添いとはいえ、同じく招かれた自分よりも立場が上の正ヒロインが怪我をしたというのに、そのまま放置することはできない。後々、災いの火種になってしまうようなことは摘み取らなければならない。

 天幕に向かった方が早いので、救護班を呼びに行こうとしたところ、背後から歩いてくる人物に気がつくのが遅れてしまった。


「──ミレア、心配いらないよ。僕が診る」

「あ、はい。エミール様、お願いします」

「失礼します。マーガレット様」

「え? あ、はい」


 猟銃を地面に置いたエミールは、マーガレットの目の前で膝を折り、スカートを捲ってもらい怪我の具合を確認する。


「うん。血は出ているけど、この程度の傷なら跡も残らず五日くらいで綺麗に治るよ」

「本当ですか?」

「ええ。ちょっとこのまま待っていてください。すぐに手当てしますから」


 立ち上がったエミールは天幕に入ると、なにかを手にしてすぐさま戻ってきた。小さな酒瓶とハンカチ、そして薬草を手にしている。


「ちょっと滲みるけど、心配はないですよ。スピリッツの酒は度数が高いから、殺菌作用があるんです」


 そう言いながらアルコールを膝にかけ、以前、ミレアを手当てしたときと同様に、ノコギリソウとオオバコを摩り潰したものを塗布し、シルクのハンカチでしっかりと巻いて結んだ。さすが前世は小児科医だけあり手当てが的確だった。


「これで大丈夫。家に帰ったら、ハンカチをとりかえて、同じように摩り潰したノコギリソウとオオバコを塗布して、包帯を巻いて寝れば、二、三日中には傷も塞がって、五日くらいで治りますよ」


「ありがとうございます!」


 エミールのおかげで助かった。カントリーハウスに戻るマーガレットを見送ってから、ミレアは頭を下げた。


「助かりました、エミール様」

「当然だよ。君の役に立てたのならよかった」

「それでは、私はイザベラ様のもとへ戻りますね」

「うん。またあとで」


 イレギュラーな事態が発生してしまい、ジョルジュについて質問することは出来なかったが、邸宅に戻ってからでも話は聞けるだろう。置いてきてしまったイザベラのこともこれ以上は放置できないので、ミレアは急いで戻った。まだ令嬢と話足りないようで、ミレアが背後で待機していることにも気づかず夢中になっていた。

 マーガレットはというと、先ほど転んだことなど、もう忘れましたと言わんばかりに、別の令嬢と談笑しているので胸を撫で下ろした。

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