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幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい  作者: ゆずまめ鯉


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8話「リメイクドレスに挑戦せよ」

 転生から二年目を迎えた春。十四歳のミレアは、上級ハウスメイドに昇級していた。上級ハウスメイドの中では最年少で、異例の早さだといわれたが、二十六歳まで生きた現代知識がある分、臨機応変に動けているだけだ。いつまでチート能力のような効力を体感できるかミレア自身、わからない。けれど、四年後に待ち構える断罪を回避することを目的に行動している。

 日常の業務の他に、エミールの食事と黒猫に与える餌の準備を請け負い、今もミレアが食材の買い出しと調理を担当している。黒猫に関しては朝晩二食で変わらないが、エミールの食事を作る回数は一日一回に減らし、朝晩はシェフが作ったものを提供していた。毎月渡されていた紙幣はさすがに減額されると思いきや、二十と書かれたものを相変わらず受け取っている。おかげさまで貯金がはかどっている。

 キッチンメイドとハウスメイドは四人部屋だったが、上級ハウスメイドになると二人部屋になる。寝台以外に机と椅子、クローゼットが与えられるため、多少私物が増えても問題はない。

 けれども、抜き打ち検査が不定期にあるため扉に鍵はつけられず、度々紛失騒動が起きていた。念の為、貴重品は肌身離さないようにしているが、それでも盗難や強盗事件は起きてしまうので、近いうちに評判のよい銀行があるのならばそこへ預けるつもりだ。むろん、預け先は一箇所ではなくいくつか分散させ、万が一を備えてリスクはできる限り軽減させる方向でエミールに相談している。


「ねえ、ミレア。こっちとこっちなら、どちらがいいかしら?」


 十二歳になったイザベラは、先月作ったばかりの両肩に二段のフリル飾りがついた、羊の脚のように見えるジゴ袖の青いデイドレスと、五段のフラウンス・スカートが特徴的な水色のデイドレスで迷っていた。ジゴ袖のデイドレスは少し前に大流行していたデザインで、後者のフラウンス・スカートのデイドレスは昨年の流行だ。


「どちらもお嬢様にお似合いですよ」

「そんなことはわかっているわ! だから迷っているの!」

「それは失礼しました」

「はあ。こんなに迷うのなら、もう一着作ってもらおうかしら……」


 この時代の貴族が着用しているドレスは、一着オーダーするだけでも何十万もするほど高額だ。使用される生地の量が多く、その生地も物によっては値が張る上に、ミシンが普及する前なのですべて手縫いだった。そう何着も仕立ててしまえば、たとえ貴族であろうとも年収が軽く吹き飛んでしまうほどだ。今年はすでに、母親である侯爵夫人と揃いで作っているため、ミレアとしては賛同できない。


「私がリメイクしましょうか?」


 貴族の夫人や令嬢は、朝のドレス、訪問用のドレス、午後の散歩用のドレス、アフタヌーンティー用のドレス、夕食用のドレスと気分次第で何度も着替えている。春と冬に一着ずつ新たにオーダーするイザベラのドレスの数も、優に二十は超えているだろう。そのため、ドレスのリメイクは日常的に行われている。

 母親のものを娘のサイズに修正したり、令嬢が着ていたものをレディーメイドや上級ハウスメイドに譲ったり、庶民の間では、市場で売られている中古のドレスを購入し、自分で修繕して着用したり、リメイクしたものを売ったりと貴族も庶民もファッションを楽しんでいる。


「あなた、そんなこともできるの?」

「お任せください」


 前世は衣装を自作していたコスプレイヤーだ。裁縫は得意だ。

 早速、イザベラにスケッチブックを借り、衣裳部屋にあるドレスで組み合わせやすそうなものをいくつか探し、お気に入りのドレスに近くなるようデザインする。二、三枚描いてみせると、すべて気に入ってくれた。水色などの青系と桃色の系統が多いので、その二色を組み合わせたパステルカラーのドレスを新たに提案すると、イザベラが了承してくれたのでリメイクに取りかかった。通常の業務をこなしながら作業するのは大変だったが、なんとか五日で完成した。


「いかがですか? お嬢様」


 トルソーに着せてイザベラの部屋まで運ぶと、ドレスを目にした彼女は固まってしまった。事前に見せたイラストとは異なり、パニエなどを入れてより立体的にさせているため、想像と違ったのかもしれない。

 イザベラは、スカートのひらひら部分を大そう気に入っていたので、それぞれ三段だったものを水色、桃色と交互になるように組み合わせて五段に変え、前身頃と後ろ身頃の色を交互にし、袖は前身頃、後ろ身頃とは逆の配色になるように工夫した。個人的には自信しかない。だが、イザベラは目を瞬かせて固まっている。


「気に入りませんでしたか?」

「……着てもいい?」

「ええ、もちろん」


 ミレアが目配せすると、イザベラ専属のレディーメイドがトルソーに着せたドレスを回収した。そして着替えるのを手伝った。


「どうかしら?」

「よくお似合いですよ、お嬢様」


 ウェーブのかかった腰まで伸びた赤毛に、赤い瞳の少女が、水色と桃色のパステルカラーのデイドレスに身を包んでいる。とてもよく似合っている。


「こちらもおつけください」


 ボンネットと呼ばれる、ストロー素材を前に突き出すように編み込んだ大きな被り物を勝手に拝借し、そのボンネットに結べるよう、水色と桃色の幅広い生地を交互に縫い繋げた細長いリボンを一緒に手渡す。


「まあ!」


 どこからどう見ても可愛らしい、パステルカラーの令嬢が誕生した。


「今すぐお散歩に出かけたいわ!」

「ぜひ、お出かけしてください」

「そうするわ!」


 そして、あわよくばリメイクドレスの宣伝をしてほしい──と、打算的だが内心、思っていた。そんなことは臆面にも出さず、外出するイザベラとヤングレディーメイドを見送ると、ようやくミレアの昼休みが始まる。ここ数日はたくさんのドレスを目にしていたので、ミレアも自分用に一着ほしくなってしまった。買い出しのついでに、中古のドレスを物色しようと邸宅を出発した。




「……あ、このドレス、原作のヒロインが着ていたものにそっくり!」


 人で賑わう大通りのマーケットで、中古のドレスを眺めていると、黄色と青色のストライプ生地で縫われたデイドレスに惹きつけられた。ウエストの位置は胸のすぐ下と高く、肩と襟の部分はパフスリーブで可愛らしい。ハイウエストから下にふんわりと広がるスカートの下には、等間隔に四段ほどフリルがあしらわれていた。


(……そんなに高くないし、買っちゃおうかな)


 石鹸などの必要な日用品以外はなるべく買わないようにしていた。けれど、原作ヒロインのコスプレをしていたことも相まって、久しぶりに着たくなった。


「それを買ってくれたら、このボンネットもおまけでつけるよ?」

「……ください!」

「ありがとう!」


 ボンネットをつけると言われ、お忍びで街に繰り出していた時の原作ヒロインのコスプレが、まさか原作の世界観で出来るのならば安すぎると買ってしまった。着替えられる場所を聞き、ミレアはドレスに身を包んだ。


「わあ……素敵! これで金髪のウイッグもあれば完璧なのになぁ」


 さすがに中古のドレスはあっても付け毛の類いは見当たらなかった。この世界に転生してから、初めてメイド服と寝巻以外の洋服に袖を通した。新鮮だ。

 可愛いドレスに高揚しながら、明日使用する肉や魚を購入していたところ、誰かに肩を叩かれた。


「あの、すいません」

「はい……えっ!?」


 ミレアが振り向くと、そこにいたのは見覚えのある外見の青年だった。それもそのはず。原作の正ヒロインであるマーガレットと結ばれる、従兄弟のエドワード・コートニーだったのだ。つまり、イザベラが恋をしてしまう相手だ。


「ひ、人違いです!」

「あ、待って!!」


 なるべく接触しないつもりでいたのに、うっかり顔を合わせてしまったのでミレアは慌てて逃げ出した。気を抜いてしまった。マーガレットが着用していた衣装と似ているのなら、間違えて声をかけられるということもあり得るのに、すっかり失念していた。


(私のバカ!)


 悔やんでももう遅い。ボンネットをしていたので勘違いしたのだろう。顔を見た瞬間に、幼馴染みではないことはすぐにわかったはずだ。

 ところが、青年はなにかを叫びながら追いかけてきた。


(どうしたらいいの!?)


 メイド服に着替えなければ、職場の邸宅には戻れない。なす術がない。どうしようもない。そんな困っていたミレアを助けてくれたのは、今朝も顔を合わせたばかりの協力者だった。


「君も買い物にきていたの? 荷物、僕が持つよ」

「……エミール様?」

「行こうか」


 エミールは、普段と異なる装いをしているのに、すぐにミレアだと見抜いたらしい。ミレアのことをしきりに気にしていたエドワードと、離れられるように連れ去ってくれた。助かった。


「まだ昼休みは終わらないよね? せっかくだし、アイスでも食べない?」

「いいんですか?」

「外で偶然会えたんだし、行こうか」


 高級な菓子店で味わえる、フルーツ味のソルベをご馳走してもらい、途中で着替えてから邸宅に戻った。

 イザベラからは、道行く人々にリメイクドレスを大絶賛されたと、お礼にチョコレートの詰め合わせをもらった。とても美味しかった。

 エドワードに追いかけられた理由は、ミレアが落としたハンカチを拾ってくれたからだったという。エミールを通して返却され、内心申し訳なく思った。しかし、なるべく接触を控えたかったので、それでよかったと納得した。

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