第8話
プルルル プルルル プルルル
スマホの着信音が鳴る。
特にやることもなくダラダラとゲームをし、そのうち腹が減って、カップラーメンをすすっていた所だった。
「はい。」
「おう!ノブか!」
「あぁ、横山さん。何ですか?」
「雨ばっかで暇だろ?今夜飲みにでも行かねーか?」
「…いいですよ。特に…予定もないですし。」
「後でそっちに行くからよ。準備しとけよ。」
「はい。」
横山はいつも突然に誘ってくる。だが、ノブはそれが嫌ではなかった。おそらく相手が横山だからだろう。大雑把ではあるが、なんだかんだ、人情味のある人間なのだ。
ノブには親も兄弟もいない。気づいたら施設で暮らしていた。学校には、真面目に通った。静かな少年だった。思春期には、親のいない事に暗い想いを抱え、それを誰にも言えなかった事が苦しかった。
高校卒業後、初めて現場で横山と出会った時は、彼の図々しい態度に驚いた。親は?兄弟は?今まで誰も気を使って触れてこなかった部分に、彼は直に触ってきた。
「…いません。」
「あぁ、そうか。」
その時の横山との会話はそれきりだった。
別に同情するでもない、励ますでもない、ただの確認作業の様な…、そんな風にノブは感じた。だから、良かった。
横山との出会いをきっかけに、ノブは様々な人と交流を持てた。と言っても、別にキラキラした人種と、ではなく、泥臭く、汗臭い、そんな人々との交流だった。そして、それがとても居心地が良かった。
ノブにとっては、横山という存在は、親でも他人でもない、しかし、自分の生活の一部となってくれる人だった。
部屋着から外着に着替え、横山を待つ。ちょうど8時をまわろうとした所、再びスマホが鳴った。
「着いたぞ。」
「『みゆき』ですよね?」
「そうだ。」
雨の中、傘をさして二人は歩く。
カラン カラン
鐘の音と共に店に入ると、
「いらっしゃ〜い!あら、横ちゃんとノブちゃん!雨なのに来てくれて嬉しいわぁ!」
お店のオーナーママ、みゆきママが満面の笑みで出迎えた。
「今日ね、私の特製肉じゃが作ってあるのよ。二人とも食べて食べて。」
「おぉ、ママ特製かぁ。そりゃあ楽しみだなぁ。ノブ、お前ラッキーだぞ。ママの肉じゃがは上手いんだ!」
(横山さんは、おそらくこのママに気があるから…。)
ノブは場の空気を壊さないよう、程々に相槌をうち、その場を過ごした。




