第1話・第2話
また、だ。
また、拾ってる。
半透明の大きな袋と銀色の長いトング。
町の道沿いを正確に、真っ直ぐ、その男は歩く。
そして、止まる。
腰を曲げる。
顔は、見えない。
拾う…。
トングの先を袋に入れる。
出す。
また数歩、歩く。
拾う。
▢▢▢
いつからだろうか。その男が目に入るようになったのは。
高校2年の春。
私は、文系クラスに進んだ。
別に文系科目が好きだった訳では無い。私が好きなのは数学と英語。苦手なのは社会。でも、理系クラスに苦手な子が多かったから。仲がいい子もいたけれど、無理だな…、そう思って、それだけで、文系クラスを選んだ。
思えば、1年の時もそうだった。
中学時代、同じ部活だった子がある日、私に聞いてきた。
「ねぇ、明里はどこの高校受けるの?」
私は、特に警戒心もなく答えた。
「え?桜ケ丘高校だけど?」
「えっ!?まじか!同じじゃん。ちなみに国際科?普通科?」
「…普通科だけど…。」
そう私が言うと、ユカは心底安心したように言った。
「あー、良かった。私、国際科希望なんだよね。」
彼女のあまりにもあけすけな反応に、私はびっくりした。
(これって、私と同じ所に行きたくないって事だよね?私…、何かしたっけ?てか、そういう事って、普通本人には聞かないんじゃ…。)
彼女とは中学の部活が同じで、まぁ、私が合わせていた形ではあったけれど、今まではそこそこ仲良くしていたはずだ。
(どこから、彼女の中で私の立ち位置が変わったんだろう…。)
別に私も、彼女の事は、部活という接点がなければ、そこまで仲良くしたいと思えるタイプではなかったから、そう言われても、そこまで気にならなかったけれど…。
チクン
それでも、少しは、胸に刺さった。言葉が、というよりかは、その時の、空気、に。彼女の、ホッとした笑顔、に。
彼女のカーブを描いた目元から視線を外し、私は特に何も言わずその場を去った。もう、それ以上の用はなかったから。
高校入学後。
私は、また廊下で彼女と会った。
(…ユカも受かったんだ…。)
「やっほー!お互い受かって良かったね。」
受験前のやり取りなど、まるでなかったかのように、再び彼女が話しかけてきた。
ユカは中学の頃は癖っ毛だったのに、ストレートパーマもかけて、お化粧も少ししていた。
「ところでさぁ、明里って、部活決めた?」
「え?あ…、うん。弓道部がいいなって思ってる。何か、かっこいいし。」
「えぇー!まじか!!ちょっと、私も弓道部いいって思ってるんだよね。えー、まじかぁ。入らないでほしいなぁ。」
「……。」
再び、同じ事が起こった。
そして、気付いた。
(あぁ。そうか。彼女は私を下に見てるんだ。だから、こんな事、正面から言えるんだ…。)
何も言えずに私は、その後、茶道部に入り、少しだけ活動した後、部活をやめた。
幸いにも、普通科の友人には恵まれた。皆、優しくて、面白くて、勉強もそれなりに真面目で、6人グループだったのに揉め事も起こることなく、穏やかに過ごす事が出来た。
だけど、時々、友人から聞かれる、なぜ部活をやめたかの質問には、上手く答えることが出来なかった。確か、高校と家が遠いから、通学に時間かかるし、とか、なんとか言っていた気がする。
その後、6人グループは2年に上がる時、理系と文系に4人と2人で分かれた。私は、理系のグループ外のクラスメイト達が異様に元気で、それがしんどかったのと、理系クラスは国際科のクラスに近いから…という理由で、文系に進んだ。
どうしても、自分の興味のまま動くことが出来なかった。
少しでも、空気のいい方。きれいな方が良かった。
そんな高2の春だった。




