覗くな!失明の危険あり.「処女神、入浴中」
予言者、テイレシアスの不幸の物語である.
ある時、はるなの家でのこと.アテナが、「そんじゃ私、風呂入ってくるは」手ぬぐいとタオルを持って、浴室の方に向かった.
「おお!」と思ったのは、悪戯小僧の海丸くんとキューピーである.アテナの入浴を覗いてやれ、と風呂場の脱衣所のドアをそっと開けて、中を覗こうとしている時、ルシフェルの親父に見つかってしまった.二人顔を上下に並べて、ドアを今まさに開けようとしているところ、二人の上にはルシフェルの顔があった.
ルシフェルの親父がひそひそ声で二人にいう、
「あのな、おめえら、悪いこと言わねえ、アテナの裸を覗くのはやめた方がいい、目潰れちまうからよ」
二人は一瞬、ドキッとして、ドアを閉めた.音はしないように.幸いアテナには気づかれなかったらしい.彼らはアテナの裸を見ることはできなかった.
居間に戻って、説教のような、忠告のような話をルシフェルの親父さんから聞かされた.
「昔、オリンポスでのことだ.アテナが水浴びをしているところだ.一人の若者が覗いてしまった.テイレシアスという若者だ」ルシフェルは遠い目をして回想する.
「別にお前らみたいな下劣な心で見たわけではないみたいだな.あいつに限ってはな.たまたま通ったら、川で水浴びしているとこに出くわしたみたいだ.」
「おや、若い娘さんが水浴びをしている、いやいや、だめだ、私も、オリンポスの神々に仕える立場のもの、それは、見てはなるまい」
黙って通り過ぎようとした、しかし、七色の光を放つその裸体を見て思わず、
驚嘆の声を出してしまった.
「おお、なんと神々しい」
・・・・・・・・
「黙って見てればわからなかった、かもしれない、驚いて声が出ちまった、そりゃ、処女神の裸つったら、そうそう見れないもんだからな.でも見られていることに気がついたアテナが怒っちまって・・・」
「で、どうなったの?」二人は恐る恐るきく.
「アテナが、『私の裸、見―たーなー』」って、そんで、
「おまえは生涯目が見えないアテナの呪いを受けることになる」、
「てなわけで目が潰れちまった、というわけさ」
「ヒェー、」と二人は、恐れ慄いた.
でも、アテナも考え直したみたいで、
「私の裸見たくらいで、一生目が見えないのもかわいそうね」と呪いを解こうとしたんだが、一向に見えるようにならない.
「あれ、なんでだろう、呪いは解いたはずなのに」
しかしな、テイレシアスの目が見えなくなったのは、処女神の裸という本来みてはいけないものを見てしまったことによる急性の網膜障害、といってもいい症状なんだな.
「それは道義的に見てはいけないのではなくて、物理的な刺激が強いから、見てはいけないものっていうか・・・・」ルシフェルはちょっとしどろもどろになった.
「ほれ、あのレーザーポインターの光を見たら目見えなくなる子供っているだろ、アテナの裸なんて刺激の強いもん見たら、それは目が潰れてもおかしくはない.テイレシアスの野郎にしてみれば、この世でアテナの裸見た唯一の男だから悔いはないかもしれないけどな、かわいそうなのはアテナだ.金輪際、男には自分の裸見てもらえないってことだからな.」
ルシフェルのおじさんの言ってること、今ひとつよくわからないのが正直なところなのだが、小僧の二人は、黙ってしきりに頷いている.
「まあ処女神の看板背負ってる以上、業みたいなもんだな.あの娘が言ったかどうかわからないが、お詫びの印としてだかどうだか、心の目で、将来のことも含めて、見える力を与えた.つまり予言の力を与えたというわけさ.」
テイレシアスは、テイバイの王家の兄弟、エテオクレスとポリュネイケスの争いの行く末を占った盲目の占い師である.クレオンの息子、メノイケウスが自ら進んで生贄になるならば、テーバイは勝利するであろうってね.
風呂から上がってきたアテナはルシフェルと、海丸、キューピーがひそひそと話をしているのを見て、「ねえねえ何話してるの?」と話に入ってきた.
三人は「いやいやいや、なんでもー」と、テレビを見たり、勉強を始めたり、漫画の本を読み始めて誤魔化した.
アテナは海丸とキューピーに、「あんたたち、さっき私がお風呂入るの覗こうとしたでしょう、うーーん?」
「二人は、いえいえいえ、めっそうもございません・・・」という
「あ、そう、ならよかった.私の裸見たら、失明すんだよねー、お父さんも見なかったよね、わかってるでしょうけど」と警告の視線を送った.ルシフェルもドアのところにいたのはお見通しだった.
「我が子ながら、オッソロしい子だなー」
二人の少年も頷いた.




