表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第七話 誰かを選べないなら、全員に与えればいい

「今日も“お願い”しても、いいですか?」


夜。神殿の回廊にて、リアナが手を差し出した。

その手のひらは、触れられるのを知っているように、自然に開かれている。


ユウトは、そっとその手を取った。

ぬくもりが伝わる。息が重なる距離に、リアナは微笑んだ。


「ふふ……。だんだん、ユウトさんの温度がわかるようになってきました」

「……温度?」

「はい。誰に触れたあとか、私に触れるときと比べてどう違うのか……。心の動きで、伝わってくるんです」


言葉はやわらかい。けれど、その奥には針のような何かがあった。


「今日は……どなたと?」


ユウトは返せなかった。

セレナの名を出せば、またあの笑顔の奥にある“独占”が疼きだす気がして。


◇ ◇ ◇ ◇


翌日、訓練場。

アリシアが剣を振るう音が、静かな朝を裂く。


「ユウト。こっちへ」


呼び止めた彼女の表情は、少し険しい。

それでも、差し出された手にはためらいがなかった。


「右腕を痛めた。……治せる?」


「はい、でも無理は──」


「してない。……ただ、あなたに触れてもらいたかった」


ユウトがそっと腕に触れると、アリシアはわずかに目を細めた。


「こうして癒やされるたび、思うの」

「……何をですか?」

「“強くある必要なんて、本当はなかった”って」


囁く声。

アリシアの瞳は、かつてないほど揺れていた。


◇ ◇ ◇ ◇


その夜。ユウトの部屋。


「ずいぶん人気者みたいね?」


セレナが、窓辺に立っていた。

何の気配もなく入り込んだらしい。


「……どうして、ここに」

「気になったのよ。君が“誰を選ぶのか”」

「ぼ、僕は……」


セレナはそっと歩み寄り、ユウトの胸元に指を滑らせた。


「誰も選ばず、みんなに触れて、みんなに“癒し”を与える──。それが君の優しさ?」

「違う……違うと思う。だけど……でも、誰か一人だけを癒やすなんて、選べない……」


苦しげな声に、セレナは静かに笑った。


「なら、全員に与えればいいのよ。君のぬくもりを、優しさを。

どうせ、君に触れた彼女たちは──もう、他の癒しを知らない体になってるんだから」


「……そんな、こと……」


「責任、取りなさい。

あなたに触れたあの子たちを、最後まで包み込んであげなきゃ──壊れてしまうわよ?」


◇ ◇ ◇ ◇


翌朝。ユウトは一人、祈りの庭に立っていた。

誰の手も取らず、ただ風に吹かれながら、己の掌を見つめていた。


(俺が触れることで、誰かが満たされる。

でも、それは本当に“救い”なのか……)


風が吹き抜ける。

その掌には、昨日触れた三人分の体温が、まだ残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ