第五話 それでも、癒したい
ユウトは、自分の“力”について考えていた。
人に触れれば、痛みが消える。
心が、落ち着く。
ただそれだけ──それだけなのに。
(俺が触れるだけで、あの人たちは……)
女騎士は、夢を見て泣いた。
聖女は、震える声で願った。
誰かに必要とされることが、あんなに喜ばれるなんて──でも、それは本当に“癒し”なのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇
夕方、神殿の庭にて。
アリシアが稽古を終えたあと、剣を片手にベンチに腰掛けていた。
「ユウト、手を貸してくれる?」
「……はい」
差し出された腕には、擦り傷。
小さなものだが、彼女は微笑みながら差し出してくる。
「こういうの、自分で治すのはもう慣れてるのに……でも、あなたの手に甘えたくなるの。不思議ね」
ユウトがそっと触れると、彼女は小さく息を呑んだ。
「……ああ、やっぱり。これ、癖になるわね」
熱を帯びたような声。
でもそれは、痛みからではなかった。
「ねえ……あなたが触れてくれるたびに、思い出すのよ。
私が騎士じゃなく、ただの女だった頃を」
「アリシアさん……」
「言っておくけど、勘違いしないで。これは依存でも、執着でもない。
ただ……“あなたにしかできない”って思ってるだけ」
その目は真剣だった。
だけど、ほんの少しだけ潤んでいて。
◇ ◇ ◇ ◇
夜、リアナの部屋。
「ユウトさん、今日は……触れてくれませんか?」
また──同じお願いだった。
手のひらを差し出すリアナの瞳は、以前よりも、ずっと深い色をしていた。
「昨日、あなたが帰ったあと、指先が冷えて仕方なかったの。
……だから、お願い。今夜は、もう少し長く」
ユウトは迷いながらも、その手を取った。
リアナはそっと目を閉じ、彼の指に指を絡めた。
「ねえ……もし、“癒やす力”が他の人にもあったら……私は、今みたいに、あなたに触れていなかったかもしれない。
でも……あなたしか、いないから。だから……」
言葉の終わりは、かすれていた。
それは、告白のようで。
縋る祈りのようでもあった。
◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻ったユウトは、ベッドに沈み込んだ。
(俺が……彼女たちを、壊してしまってるんじゃないか)
必要とされること。愛されること。
それは、確かに心地よかった。
でも、その熱に包まれるたび、自分が“なにか”を奪っているような気がして。
「……それでも、俺は」
呟いた言葉に、誰の返事もない。
ただ、夜風がカーテンを揺らしただけだった。




