1話 飢える子猫
「きゅるるる.......ううっ、ふにゅ。お腹空いたよぉ.......」
現在、小汚い白い野良猫の僕は深夜のガヤガヤとした街を徘徊している。煌びやかな建物の光と忙しなさそうに移動する表情豊かな人間達。そこらにあるお店からは、良い匂いが漂い僕のお腹は更にぐぅ……と鳴ってしまう。お腹が空き過ぎてもう倒れそう……何でも良いから何か食べさせてぇ……ぐすんっ。
「にゃう……」
僕が街を徘徊している目的は、人間達が捨てたご飯の残りを漁って食べ物を探す事だ。運が良ければ、生ゴミではあるけど魚に少し身が付いた物や期限切れのお弁当に缶詰の残りがある事もあるのです!
「きゅるるる……」
野良猫の世界は非常に世知辛い.......常に食べ物と安住の地を探す為に移動する毎日なのだ。
「3日前に食べたアジのお魚……めちゃくちゃ美味しかったなぁ。ゴミ箱漁りはこれだから止められないのだ。残飯の残り物には福がある。腐る前にあり付けたのが運が良かった」
何故僕に人間の知識があるのかと言うと……人間と会話をする事は出来ないが、僕は元日本で機械加工の仕事をやっていた28歳の男だったのだ。しかし、とある事故に巻き込まれて命を落とし、次に目が覚めたら僕の身体はこうなって居たのです。
「…………」
人生とは本当に奇っ怪で不思議なものですね。人間として生を終え幕を閉じたと思えば、次に目を覚ましたら、何と白い子猫に生まれ変わってしまったのだから。何故僕は猫へ転生してしまったのか全くの謎です。
今の僕の身体は脆弱な子猫.......常に死と隣り合わせの運命。まあ、不幸中の中の幸い.......唯一良かったと思える様な事は、健康体で身体が動く事くらいかな。自由と言っても身体はまだ幼い。身体は直ぐに疲れるし、あんまり遠出は出来ないし天敵に襲われたらひとたまりも無い。
「キシャアアア!!」
「ヒィッ.......!?」
気付けば僕はいつの間にか、他の野良猫さん達の縄張りに足を踏み入れてしまったらしい。子猫に生まれ変わってから早3ヶ月.......未だに身体の自由がまともに効かない中、猫社会の厳しさを嫌という程思い知った。
(ぐすんっ.......何か食べ物を僕に恵んで下さい.......何でも良いので)
食べ物を分けてくれないかと懇願して見るが、その答えは予想していたものであった。僕は威嚇する野良猫達に背を向けて全力で走った。同じ猫なのに猫の言葉が全く分からず、僕は本当に猫と呼べる存在なのか怪しい所だ。
「はぁ.......はぁ.......」
こうなれば、何処かの飲食店に入りご飯を盗むしかないか.......いや、早まっては駄目だ。窃盗はいくら何でも犯罪に当たる。あ、でも今の僕は猫だからセーフなのか? いや、それでも駄目だ!
「にゃお.......」
幸い季節は夏、外が暖かいのが唯一の救いでした。本当は昼間に徘徊して、どなたか心優しい人に擦り寄ってお情けを貰うのが賢明かなとも思ったけど、昼間はカラスや車に他の野良猫と言った天敵が等が沢山居る。日中はコソコソと隠れるしか無い。
(あ、あれは.......!? Gか!)
途方にくれながら歩いていると前方にGが何匹か居たのです! でも、流石にGを食べるのは物凄く抵抗感がありますが、今の僕に取って重要なタンパク源の1つ。本当はこの身体なら離乳食かミルクを飲むのが一番良いのだろうけど、そんな豪華な物は到底飲める筈が無い。贅沢は言ってられぬ!
(やるしか無い.......生きる為にはあいつを何としても喰らう!)
子猫は音を立てずに、ゴミ箱の近くに潜むゴキブリにこっそりと近付いた。
「にゃーお!」
「カサカサ.......」
「うっ.......何と言う速さだ!?」
あぁ.......逃げられてしまった。しかし、本当にやばいな.......空腹で今にも倒れそうだ。水で誤魔化すのもそろそろ限界がある。
「くんくん.......むむ!? こ、この匂いは焼き魚か!?」
僕は美味しそうな匂いに釣られながら、トコトコと歩いて向かった先には、人間達が笑いながらビアガーデンをして盛り上がっていたのだった。夏の風物詩の1つと言えばビアガーデンらしい……これはご飯にありつけるチャンスかもしれない。地面にお零れが落ちてる可能性があるやもしれぬ!
【――――――♪】
【――――――!】
正直、あの集団の中へと1歩を踏み出すのにかなりの勇気が居る。頭では人間にも良い人は沢山居ると分かっていても、身体が恐怖で震える。まるで産まれたての小鹿の様に僕の身体はプルプルと震えていた。
(勇気を出すんだ! ここで逃げたら僕は本当に餓死してしまう!)
子猫は意を決して、震える身体に鞭を打って人間達の集団に近付いた。
「あ、あの! その焼き魚を少し.......僕にも恵んで下さいませんか?」
「――――――?」
「―――――――――♡」
「――――――!?」
ふぁっ.......な、何ですか!? 何で皆さん僕の周りに集まるの!? ううっ.......怖いよぉ。
「――――――♡」
「――――――!!」
人が続々と集まって来ました。そして皆さん目が怖いです! 僕は反射的に毛を逆さに立て思わず威嚇してしまいました。
「..............」
「にゃお!?」
な、何だ!? 女性達の輪の中から、リーダーらしき人が近づいて来て、何と僕を抱きあげようとして来たのです!
「――――――?」
「は、はわわっ.......!?」
思わず見とれてしまいました。長くて清潔感ある綺麗な黒髪、キリッとした目に整った顔、容姿端麗で出る所はしっかりと出たモデルさんみたいなお人だ。そこら辺のアイドルや女優が霞むくらいにこの女性の容姿は美しい。
「や、やめて.......触らないで!」
「..............」
「え、な、何でそんな悲しそうな顔をするのです?」
むむっ.......これはこっちに来いと言う事なのか? ふむ、どのみち今の僕には選択肢は残されておらぬ。どうせ野垂れ死ぬくらいなら、このお姉さんに身体を委ねて見るのも良いのかもしれない。
「お姉さん、ご飯下さい.......」
「―――――――――♪」
「わぷっ!?」
僕はお姉さんに抱かれながらこの場を後にしました。
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