改革への道(アフリカ編)(2)
先程、陛下にも輔弼奉った通りである。今まで対外的に語った内容は全て『建前』だ。
そもそも、アフリカの貧困の原因とは、何か。主に貧弱な経済、疫病、汚職、紛争だ。
自称有識者が、言うには様々な意見を述べている。特に、紛争には色々言っている。
民族、宗教、貧富の差、植民地支配の置き土産などだ。
が、これらは、枝葉に過ぎない。幹や根や、その下の土壌ではない。
そこで、私に言わせれば、紛争の理由は、全て一つに集約可能だ。
時に、諸君、質問だ。隣人が、昼夜の区別なく周辺の家々に騒音をまき散らしたとする。
君なら、どうする?
本人に抗議するか。
本人の家族や友人に抗議するか。
もし、騒音の音源が、賃貸物件なら、大家、管理人、管理会社などに抗議するか。
それでも、効果がなければどうする。
警察を呼ぶか。
なんなら、弁護士を立てて、訴訟に踏み切る手もある。
これらは、法治国家であれば、諸君らが法を守るのであれば、『常識』だ。
ところが、これらを『常識』とみなさない人間とってみれば、問題解決の手段は一つだ。
要するに、『暴力』で『排除』するのだ。
例えば、〇〇教信者の祈りの声が、うるさい。
よし、『ブッ殺せ』。
例えば、〇〇人は、我々より金持ちで贅沢な暮らしをしている。
よし、『ブッ殺してカネを奪え』。
例えば、政府の連中が、増税した。
よし、『ブッ殺して新政権樹立だ』。
これこそが、『法を守る気が無い』人間の思想で思考で思案だ。
彼らの脳内には、自己の利益しかない。自己の利益を阻害侵害妨害する存在を悪とする。
そして、それらを排除する際に、『法を守らない』。
故に、『ブッ殺す』。そうなるしかないのだ。
そして、そう思った時には、既に実行した後である。
故に、言葉にする必要すらない。
殺せば、なんでも解決する。殺された存在は、報復も抗議もできないからだ。
無茶苦茶かね。
しかし、中世以前は、概ねこのような社会構造だった。
更に、彼らは、中世から植民地支配を受け、文明文化が発達する事無く現在に至った。
何なら、石器時代から現在に至った事例も存在する。
つまり、彼らは法治国家の何たるかを『学ぶ』事無く、突然現在に至ったのだ。
これでは、無理からぬことであろう。
が、『違法』である事に変りはない。辞めさせなければならない。
どうやって?
ここで、前例を紹介しよう。
我ら『日本』である。
そもそも、『日本』が、法治国家に生まれ変わる前、政府とは『幕府』だった。
そこから、『維新』を経て、『明治政府』に移行して以降、政府の意向で改革が進んだ。
そこには、教育改革も含まれる。ここで、『法律を守る事』を徹底的に叩き込んだ。
一応、触れておくが、何故『明治政府』が、『法律を守る事』を叩き込んだのか?
それは、『江戸幕府』の失敗と失態と失策の尻拭いだ。
即ち、『不平等条約改正』である。
当時の欧米は、日本の前時代的な法律を信用していなかった。
故に、自国法で裁くことを強制したのだ。
それを解消するには、日本が欧米並みの『法治国家』であると、信じさせる必要があった。
これが、功を奏し、日本は急速に『法治国家化』していく事となった。
つまり、答えは、『義務教育』なのだ。ようやく、最初に話を戻す事ができる。
私の『学園都市構想』とは、アフリカの子供達に、『法治国家』の何たるかを教える事だ。
勿論、教える事は、『法治国家』の何たるか、だけではない。
全寮制なのだから、食事は全て日本食だ。箸の使い方から麺をすすって食べる事と教える。
玄関で靴を脱ぐ。隣近所といさかいを起こさない。
宗教観も教える。イスラム教、キリスト教、仏教の特徴をそれぞれ教える。
で、『思想信教は個人の自由だ。』『が、私はそこまで熱心に信仰しない。』
『でも、クリスマスと盆と正月は、祝いたい、』と言った『日本人気質』を叩き込む。
日本では、何故漫画やアニメやゲームがこれほど流行ったのか。
答えは、日本の治安が良すぎるからだ。
故に、お小遣いと称して子供が、現金を持ち歩いても誰も狙わない。
そこで、子供が自分が好きなものに好きなだけお金を使う事ができる。
こうして、子供目線で悪いものを淘汰してきた結果だ。
ちなみに、お年玉に目を付けたのが、ゲーム業界だ。
これらも、『アフリカ連邦』においては常識化させる。
こうして、アフリカ十五億人を『日本人化』させる。
五十年、何百兆円かけてでもやる。
いずれ、アフリカは、日本人の味方になるからだ。
* * *
今までは、アフリカを地域毎に区切って、ある程度纏まった人数との会議を実施した。
今日は、個別のリモート会議となる。参加者は、チャド共和国大統領だ。
両者、通訳を介しての会話だ。まずは、定型的な挨拶を交わす。
「では、確認しますが、私の国の国民全員の現在保有する財産を全て保証するのですね。」
まず、切り出したのは、チャド大統領だった。
大統領とは、言うもののチャド共和国においては、単なる独裁者に他ならない。
というのも、前大統領は、反政府勢力「愛国救済運動」を率いて戦った革命家だった。
1990年9月2日、首都のンジャメナを制圧し、その後大統領に就任したのだ。
勿論、大統領の任期や再選回数の上限などの規制は、彼が憲法で制定した。
が、自身が大統領就任中に何度も憲法を改正し、結果として30年以上大統領だった。
2021年4月20日に、反政府勢力との戦闘視察中に負傷死亡するまで就任し続けた。
要するに、当時の政府へ反逆して、政府を転覆させた上、30年以上独裁者だった。
その息子と、今リモート会議をしている訳だ。私は、疑念も疑問も疑惑も無い。
こいつが、ギレン・サビと同じ事をした輩だったとしても。
何しろ、2021年4月20日に死亡した父親の跡を継いで大統領に就任したからな。
要するに。こいつの言い分をまとめるとこうなる。
「俺(と俺の国民)の財産を、没収することなく、保証しろ。」
とでも解釈すればよいのだ。
「勿論、あなたの在任中は、あなたに決定権があります。チャドの憲法法律を尊重します。
但し、『アフリカ連邦』の憲法法律に従った上での『自治』である事並びに、あなたの
次代以降の大統領が、『アフリカ連邦』の直轄領化を可能な事お忘れなきよう。」
勿論、『アフリカ連邦』においては、『財産相続』を禁止している。
そこで、こいつは、自身の財産を外国……『財産相続』を許可する国に移動させている。
そこは、大目に見てやろう。そうでもしないと、参加してくれないからな。
「分かりました。『アフリカ連邦』に参加します。但し、加盟国としてです。
直轄領の件は、国内世論をまとめる必要があります。しばしお待ちください。」
「はい。何時までも、陛下ともどもお待ちしますよ。」
こうして、リモート会議を打ち切った。
* * *