改革への道(アフリカ編)(1)
今日は、リモート会議である。北アフリカ諸国十二か国を招待した。
これだけで、アフリカの人口の約33%(約四憶九千万人)になる。
既に、会議参加国には、資料を配布してある。今日は、質疑応答の場だ。
具体的な国名を挙げるときりがないので、割愛する。それこそ露骨な時数稼ぎだ。
「確かに、仰る通り5倍の通貨量をもってすれば、5倍の通貨高も可能でしょう。
それをもってすれば、食料燃料問題も解決しましょう。そこは、同意します。」
まず、口火を切ったのは、アルジェリア外務大臣だった。
旧フランスの植民地で、人口約四千七百万人(世界33位)、
面積約二千四百万平方キロ(世界10位)、
一人あたりGDPは、約四千米ドル(世界56位)。
世界規模で言えば、上の下、アフリカでは、一等国と言えよう。
が、内情は1991年から内戦が続いている。一旦、2002年頃には、終結した。
ものの、残党が、蠢動し続けている。現在なおだ。国内情勢は、推して知るべしだ。
「我々としては、懸念点が幾つかあります。まず、『アフリカ連邦大統領』の権限が強過ぎる事。
二つ、紛争解決手段が、分かりづらい。三つ、本当に全員に食料配給可能なのか。以上です。」
「君の意見は、明確で明白で明瞭だ。そして、二つ目と三つ目の問題点は、集約可能。
つまり、『アフリカ連邦大統領』の権限を強大なものにした理由に直結する。
これだけの『権力』があれば、逆らう者を『皆殺し』にできる。
それに、『アフリカ連邦大統領』の許可なく武装する事は、『憲法違反』だ。
『憲法違反』である以上、裁判不要即時処刑可能、責任は大統領にある。
従う者には、衣食住を与える。逆らう者には、死を与える。これ位しなければ駄目だ。」
「それで、紛争が解決しますか。」
「先程、説明した『逆らう者』には、他人の食料を奪う者も含む。古代の賢者によれば、『人間とは、衣食住が、満たされれば、礼節を思い出す生物』だそうだ。
衣食住が、満たされれても、礼節を思い出せないのは、只の獣だ。殺処分すべし。」
「暴論です!」
「何か勘違いしてないか。この提案は、自国の平和維持を、自国で賄えない後進国への援助だ。
大体、政府に不満を持つ国民が多いから、宗教性過激派組織に付け込まれた。
しくじり国家の分際で、文句を垂れるな。そんなに、失敗と失策と失態を積み重ねたいのか。」
「失礼にも度を越している! そう言うあなたの外交は、三流以下だ!」
「思い出した。一つ目の質問に答えていなかった。『アフリカ連邦』には、副大統領を置かない。
憲法にも記したが、最大で第十大統領まで選挙で選出し、相互に監視し合う制度にした。
これだけ用意すれば、汚職や弾圧や売国などに走らない大統領が、一人くらいいるだろう。
君、文字の読み書きは、大丈夫なのかね。」
「そうでは、ありません! そこまで礼節を軽んじて何が外交ですか!」
「知っている。外交とは、『相互主義』であるとな。礼節を欠いた者に示す礼節など無い。
文句が、あるなら退室してくれても、こちらとしては、一向に構わない。」
ようやく黙り込み、着席するアルジェリア外務大臣だった。
「いいか、諸君! 今が好機なのだ! ウクライナ戦争に、イスラエル対ハマスの紛争。
これら二つが、重なった結果、欧米がそちらにかかりっきりだ。アフリカまで手が回らない。
逆に言うと今しかない! 今だけが、後進国から脱却する好機なのだ! 違うか!」
会議の場に充満した沈黙の空気だった。
「私は、アフリカを変えるぞ。アフリカ大陸全ての国境を取り払い『統一国家』とする。
それさえ成せば、アフリカ大陸にリニアモーターカーを、敷設できる。物流革命だ。
何なら、軌道エレベーターだって建設可能だ。宇宙空間で24時間365日の太陽光発電!
常温核融合より、早くエネルギー問題も解決する。何なら常温核融合だって買えばよい。」
最早、何も言い返せない面々だった。勿論、一朝一夕にできるとは、思っていない。
統一まで、十年。リニアモーターカーまで五十年。軌道エレベーターまで百年。
人工衛星内に移民まで二百年。太陽系各惑星から資源採掘まで五百年。
太陽系から外の居住惑星探索開始まで千年。これが、私の『千年計画』だ。
「考えてもみろ! 今ある紛争の数々。ウクライナ、イスラエル双方に存在する『共通特徴』。
それは、『核を持たない国』だ。『核非保有国』は、『核保有国』に蹂躙されている。
君たちもそうなりたいのか! だが、違うぞ。アフリカ十五億人の民が日本に協力すれば!
『核保有国』になれる! 『核共有』だってできる。アフリカは、日本に協力するのだ。」
最早、発言を割り込ませる者などいない。
「誰が決めた! 今在る国境は、誰が決めた! 白人だろう。何故そんなものにしがみつく。
そんな必要無い。今こそ、日本とアフリカが、白人が押し付けたルールを『ブッ壊す』!
同意する者は、付いて来い。」
今日の所は、持ち帰って検討すると言う事しか言い返せない面々だった。
* * *
今日もリモート会議だ。参加者は、私と、陛下であらせられる。
「本日は、お時間頂戴頂き、誠にありがとうございます。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「本日は、陛下に輔弼奉る案件が、一つございます。」
「伺いましょう。」
「はい。私は、『人さらい』をする所存。何卒お命じ下さい。」
「では、『何処で』『誰を』『何の為に』実行するのか、報告しなさい。」
「まず、『アフリカ大陸、サハラ砂漠』を中心に、『子供』を対象に、『彼らの権利を守る為』でございます。今しばし深堀りしてもよろしゅうございますか。」
「はい。伺いましょう。」
「あの地域には、古代より多種多様多数の遊牧民族が、生活していました。
が、これらの民族には、共通して言える特徴が、ございます。
特に、女性の権利を著しく制限しております。
曰く、教育の制限、人生設計の制限は、結婚して子を産み育てる事を強制する。
女性器の切除手術によって、性的快楽そのものを制限するなどです。」
「手術ですか。誰が、執刀するのでしょう。」
「はい。医療資格も何もない素人にございます。当然衛生面など考慮されません。
が、最大の問題点は、彼らが、これらを『伝統』と称して継続している事です。」
「意味は、分かりました。で、子供をさらった後、何処に連れて行くのです。
ひょっとして、全寮制の学校を新設するつもりですか。」
「流石、陛下。ご慧眼御見それいたしましてございます。」
「で、全寮制の学校では、どのような教育を施すつもりでしょう。」
「午前中は、英語仏語日本語等の言語、算数、歴史を中心とする義務教育。
午後は、職業訓練に実際の職業。アルバイト扱いで報酬も渡すまで訓練します。
名付けて『学園都市構想』でございます。」
「『学園都市構想』ですか。……と言う事は、数万人以上を『対象』とする訳ですね。」
「流石、陛下。ご慧眼御見それいたしましてございます。」
「素晴らしい。では、私の名において命ずる。『あなたの思う通り実行せよ』。」
「はっ。」
* * *