改革への道(欧州編)(10)
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官だ。
「挨拶は不要。報告は、受けています。で、あちらのリモート会議希望日は、
何処まで詰める事ができましたか。」
「はい。日本時間で、来週火曜ないし木曜日です。総統閣下。」
「では、時差を含めてしっかり対応して下さい。事務次官。」
* * *
今日のリモート会議参加者は 米合衆国第47代大統領と、日本帝国総統だ。
まず、社交辞令の挨拶から始まった。
「こちらは。日本が欧州で何をしているか把握している。とぼけても無駄だ。」
「『とぼける』? 大統領、こちらは、その様なつもりはありません。
但し、言動には注意されたし。さもなくば経済制裁もあり得ます。」
「ほぉ……経済制裁……何をするつもりかね。」
「アフリカ、インドネシアからの砂糖輸出に、逆関税1000%。」
途端、『への字口』になる大統領だった。そんな事になれば、
大統領を初めとする米国人が大好きなコーラが、飲めなくなる。
その事実に、気付いたのであろう。
「確かに、貴国はハワイで砂糖を生産可能でしょう。が、全国民分とは……。」
総統の言葉を所作で、制する大統領だった。
「わかった。わかった。だが、『内政干渉』や『経済制裁』は、いかんぞ。
今日は、あくまで『妥協点』を探るものだ。例えばこういう具合にだ。
『ウナギの絶滅危惧種指定申請の無期延期』あたりで手を打たんか。」
「足りませんな。極論、欧州人が絶滅すれば、問題は全て解決します。」
「……正気で言っているのか。」
「私が欲しているのは、『口約束』ではありません。『物的証拠』です。」
「……分かった。何を以てすれば『物的証拠』足りえるのか聞かせて欲しい。」
「欧州連合(EU)議長を天皇陛下が、兼任する事です。未来永代。」
「おいっ! それは、実質日本が、欧州を支配するに等しいぞ!」
「それくらいの『物的証拠』無くば、欧州人を信用できませんな。」
「……もう少し緩和できんのか。」
「How much?(幾ら出す?)」
「原子力潜水艦ならどうだ。」
「核弾頭搭載大陸間弾道弾配備済の原潜を十隻。即時無償譲渡。」
「………………………………………………3隻にならんか。」
「十隻。」
「なら、核弾頭は無しにしてくれんか。それなら10隻でも構わん。」
「ならば、艦載機満載のキティーホーク級空母を三隻つけて下さい。」
「……分かった。で、何処まで条件を緩和するのかね。」
「欧州連合(EU)並びに、欧州全ての国は、地球生物保護機構に加盟。」
「地球生物……? ああ、GBCOの事か。分かった了承させよう。」
「但し、商品の到着まで、欧州との交渉には、応じません。お早めに。」
「分かった。早急に送る。」
こんな感じで、話はまとまった。
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理だ。
「しかし、原潜10隻、空母3隻ですか。よく向こうは、飲みましたね。」
「空母に関しては、フォレスタル級でもよかったが、大差無し。…………いやいや、そもそも『陛下による兼任』は、本意ではありませんでした。」
「知ってますよ。交渉好きの大統領には、刺さる手段ですな。
『最初に厳しい条件を出し、相手に条件緩和の為、対価を払わせる』。」
「そこですよ。そうしたら、『あの条件』を出してくれました。
こちらとしては、大助かりですよ。」
「……しかし、向こうからすれば、旧式の兵器を渡すつもりなのでは。」
「それこそ願ったりです。むしろ、お陰で向こうが妥協に応じてくれました。」
「……と言う事は、何か対策があるのですね。」
「原潜は、バラして原子炉を取り出す。それを核弾頭に流用。
これで、核弾頭搭載大陸間弾道弾を十発入手できました。」
「本気ですか!」
「少なくとも、向こうは禁止していません。即ち、暗黙の了解をしたのです。
更に、エンジンは、リチウムイオンバッテリー式に差し替えます。」
「ばれたらどうします。総統閣下。」
「既に、気付いてますよ。米大統領にはね。」
「まさしく、暗黙の了解ですね。総統閣下。」
こんな感じで、話はまとまった。
* * *
今日のリモート会議参加者は 米合衆国第47代大統領と、日本帝国総統だ。
「……やはりと言うか、金額面で折り合いが、付かなかった。
1100億ユーロ(約20兆円)は、高過ぎる。下げてくれないか。」
「それは、『地球生物保護機構』の年間運営費用です。まかりませんね。」
「だから、毎年1100億ユーロ(約20兆円)は、高過ぎると言っている。
そんなに欧州から金をふんだくりたいのか。」
「そう言えば、最近小耳にはさんだのですよ。
グリーンランド人に一人一千五百万ドル配る代わりに、グリーンランド政府府に、政治的な権限と責任を寄こせと言っている大統領がいるそうですね。」
「……………………………………………………それが、どうした。」
「日本の慣用句にこのようなものがあります。『足元を見る』。」
「知っている。『弱みに付け込む』と言う意味なのだろう。」
「グリーンランドは、極寒の地。島全体の産業も地下資源に頼っています。
まさしく、グリーンランド人の『足元を見る』提案ですな。」
「…………………………………………………………それが、どうした。」
「では、本物の『足元を見る』とは如何なる所業か、教示しましょう。」
「聞かせてもらおうか。」
「日本なら、一人一億ドル払いますよ。」
途端、『への字口』になる大統領だった。グリーンランドの人口は、約六千人。
つまり日本は、六千億ドル(約95兆円)で、『買う』つもりである。
対して、某大統領は、(約14兆円)で、『買う』つもりなのだ。
「…………………………分かった。幾ら出せばグリーンランドから手を引く?」
「日本は、一人五千万ドル払うと発表します。そこで、一億と発表して下さい。」
「……それだけか!」
「証拠として、『グリーンランド人全員に一人一億ドル支払う。』そう明記された大統領令に署名して下さい。それを日本のマスコミが撮影した時点で日本は手を引きます。」
「分かった。それだけでいいのだな。」
「私としては、米国がグリーンランドを併合する事自体反対しません。
が、一千五百万ドルは、あまりに『あこぎな商売』です。そこは訂正します。」
「分かった。では、欧州の件は、どうする。」
「現在、米国が統治している委任統治領南洋諸島を即時無償譲渡して下さい。」
「……それは、簡単ではないぞ。何しろ常任理事国の賛成過半数が必要だ。」
「ですから、米国、英国、仏蘭西の三か国が、賛成すればできますよね。」
「分かった。それで、幾らまでまけてくれる?」
「半額ですね。」
「できれば、100億ユーロ(約1兆8500億円)にならんか。」
「日本は、この件で既に妥協しています。これ以上はありません。
と、言いたい所ですが、もう一つ条件を上乗せすれば可能です。」
「なら、聞かせてもらおうか。その条件とやらを。」
「仏蘭西の海外植民地並びに準県を全て即時独立承認。これで九割引です。」
「分かった。その条件で交渉する。」
こんな感じで、話はまとまった。
* * *
話は一日遡る。今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理だ。
「明日は、アメリカ大統領とのリモート会議ですが、大丈夫でしょうか。総統。」
「何が『大丈夫』だと思いますかね。総理。」
「運営費用負担、毎年1100億ユーロ(約20兆円)の件です。
確かに、鰻の絶滅危惧種指定の件に対する『賠償金』の意味合いもあります。
が、高過ぎでは? 総統。」
「この件、EUの方が先に米国大統領に泣きついていた。ならば纏めてくれるますよ。が、減額くらいは、交渉してくるでしょうね。あの大統領。」
「そこで、総統から提示された『日本側条件』が、甘すぎると思います。」
「ん? 確か『半額で南洋諸島』、『九割引で仏蘭西の海外植民地独立承認』。
以上だった筈ですが、何か問題でもありますか。総理。」
「安すぎます。『国連常任理事国入り』くらい要求する事も可能です。総統。」
「いいですか。前提として私は、国際連合に存在意義を認めていません。
むしろ、潰すべきとさえ目論んでいます。そんな物の『常任理事国』?
無用無益無駄。しがみつく気など毛頭ありませんよ。総理。」
「では、『核武装権』では?」
「これこれ……幾らセキュリティ万全のリモート会議とは言え、滅多な事は……
それは、秘密裡にしたいのです。納得して下さい。総理。
ちなみに信玄公死後、あれ程簡単に武田家が滅亡した理由はご存じか。」
「……義務教育では、後継ぎ不足。とりわけ勝頼の無能と学びました。」
「その意見を押す歴史学者は、多いそうですね。総理。」
「何か、意見があると言う事ですか。総統。」
「私は、信玄公の『遺言』が原因と考えています。総理。」
「ああ……確か『我が死を三年間秘密にするのだ』ですね。総統。」
「その沈黙を重臣全員で共有ぜざるをえなかった。何しろ主君の『遺言』です。
徒疎か《あだおろそか》にはできません。結果、耐え切れなくなった者が出ました。
更に、そいつは挙句、信長への情報漏洩を始めとする裏切りに走ったのです。」
「思い出しました! 穴山梅雪ですね。その裏切り者の名は。」
「正解。しかもそいつは、武田家滅亡のご褒美を信長から貰いました。
何と、徳川家康と共に京都見物に招待されました。1582年の事です。」
「1582年……思い出しました! 本能寺の変ですね。総統。」
「正解。そこで、本能寺の変を察知した二人は、京都からの逃亡を図りました。」:
「ん? そう言えば徳川家康は、生き延びて江戸幕府を設立しました。
では、穴山梅雪は、どうなりましたか? 総統。」
「野武士の待ち伏せに会い、生きて故郷の土を踏む事はありませんでした。」
「……何だか、『信玄公の呪い』でもあったのでしょうか。総統。」
「『信玄公の呪い』ですか。我々には、関わりのねぇ事でござんすよ。
関係ある事は只一つ。『謀は、密なるを以てよしする。』
知るべきでない者は、報せるべきに非ずですよ。総理。」
「つまり、日本から穴山梅雪を生み出さない為ですね。総統。」
「もし、日本から穴山梅雪が、誕生した場合、私は死んでも許しません。」
「まずい。この人なら死して直、裏切り者を『呪い』かねない。」
等と言う無駄口を叩かない日本帝国総理大臣だった。
「勿論です。日本からは、決して穴山梅雪を生み出しません。総統。」
「あなたには、全幅の信頼を置いています。今後も働いて下さい。総理。」
こんな感じで、リモート会議の話はまとまった。
また、歴史に残る『日欧合意』は、数日後纏まった。
これは、日本側の提案が、完全に受理される形である。
但し、以下の条件が加算されました。
『1100億ユーロ(約20兆円)は初年のみ。』
『それ以降は、毎年550億ユーロ(約10兆円)。』
『植民地独立を以て毎年110億ユーロ(約2兆円)。』
また、日本帝国、米国、欧州連合同時の全世界向け発表もされた。
* * *
ここは、都内某所の料亭……その奥にある経営者の住居兼事務所だ。
「先生、ナカガワです。」
「うむ。入りなさい。」
「失礼いたします。……また、そのニュース録画をご覧になられていたのですね。」
「素晴らしいぞナカガワ。あの総統閣下は、やって下さった。
欧州を屈服させ、『鰻の絶滅危惧種申請の取り下げ』を受け入れさせた。
しかも、今後は、日本の許可なく『絶滅危惧種申請』をしないと成約までさせた。
素晴らしい。日本の完全勝利だ。こんなに胸のすく思いは久しぶりだ!」
「仰る通りです。そこで、例の件の報告になります。よろしいでしょうか。」
「うむ。聞かせてもらおう。」
「鰻の産卵場所に仕掛けた罠で、交尾相手を物色中の鰻を多数捕獲しました。
既に、雌雄を別の箱に移してあります。餌となる小魚は出入り自由です。
が、丸々と太った鰻は、出られない素晴らしい罠です。」
「よし! でかしたぞナカガワ! これで、精巣卵巣共に手に入る。
後は、前回同様、お二人をご招待するのだ。」
「はっ。つきましては、ご招待状の草稿もお持ちしました。」
「流石、ナカガワ。気が利くな。見せてもらおうか。返事は、明日にする。」
「はっ。」
* * *




