改革への道(外交編)(1)
次に、外交だ。通訳を交えながらの国際電話交渉となる。
米合衆国第47代大統領と、日本帝国総統、交渉のガチ対決だ。緊張を禁じ得ない。
「私の提案は、一つ。日本帝国と米国との条約調印だ。」
「率直に問う。君の申し出は、アメリカに何の利益をもたらす?」
「『平等』だ。君が望んだのだろう。日米を『平等』にしたいと。」
「それで、条約調印かね。」
「違う。日本帝国と米国との条約調印だ。さすれば、日米安全保障条約を廃棄可能だ。
日本帝国と米国との『新たな』条約では、『集団的自衛権』を盛り込む。
これで、日米を『平等』にできるだろう。違うかね。大統領。」
「そうなると、アメリカは、日本帝国を『独立国』と承認しなければならない。」
「それを差し引いたとしても、余りある利益であろう。『平等』とは。」
「しかし、折角民主化させてやったのに、また立憲君主制に逆戻りか。」
「違う。日本人には、立憲君主制が似つかわしい。国民主権など似合わないのさ。
で、返答は如何にする。大統領。」
「分かった。一週間以内に、新条約の草案を送る。」
「こちらの草案も同様に送る。細かい条件を詰めていこう。」
こうして、 米合衆国第47代大統領との会談は、無事成功した。
* * *
今日は、日本帝国重鎮による遠隔会議だ。参加者は、総統、総理大臣、外務省事務次官、アフリカ支局長、元大蔵省元財務省官僚(現YouTuber)だ。
「遂に、アメリカとの条約調印を達成しました。皆様お疲れ様です。」
この外務省事務次官の発言に、同意する全員だった。
「だが、私は忘れません。『核共有』が、努力目標で誤魔化された件忘れません。」
「まあまあ、これでアメリカが、日本帝国を『独立国』と承認したのです。」
「分かっています。故に、我らは、新たな『核共有国』を探さねばならぬのです。」
「まさかとは思いますが、かの国ですか。」
「否。『核共有国』より優先順位の高い作業に着手せねばならぬのです。
諸君、心して聞いて下さい。」
「分かりました。お願いします。」
「アフリカです。時に諸君、何故アフリカは、あれほど貧しいのか、答えなさい。」
「……それは、植民地支配の影響でしょう。あれで搾取された為です。」
「同感だ。が、原因は一つではありません。複雑に絡み入った結果なのです。
それは、私も承知しています。その上で、最大の原因が、何か答えなさい。」
全員が、沈黙する中、発言の許可を求める元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可します。」
「はい。それは、植民地支配の影響……それも置き土産ですね。
……即ち、『国境線』です。」
「その通りです。では、何故『国境線』が、国を貧しくするのか、説明したまへ。」
「はい。『国境線』で、アフリカ大陸を細切れにし、国の規模を小さくします。
国土面積も狭く、人口も少ないので、労働力も少なく、国力も小さい。以上です。」
「素晴らしい、満点の回答です。では、続きは私から説明しましょう。まず、問おう。
人口、国の数、面積は如何程ですか? アフリカ大陸全体でですよ。アフリカ支局長。」
「はっ、2024年の数字で、アフリカの人口は、約15億人、54か国です。
西サハラを含めて、55か国、約3037万平方キロメートルとなります。総統閣下。」
「つまり、アフリカ各国は、平均で人口三千万人、面積で六十万平方キロメートル。
これらを下回る訳です。これでは、労働力だって大したこともありません。
農業、物流、国防やるべき仕事は山積み。が、三千万人では、どう割り振っても不足。
職業選択の自由など無理。国家が、一元管理し最適解を国民に強制する必要があります。」
ここで、水を一口。ちなみに、先程の面積平均値は、日本の約1.5倍に該当する。
「が、十五億人ならどうでしょう。選びたい放題です。故に、提唱します。
アフリカの国境をすべて取り払い、一つの国とするのです。
名付けて『アフリカ連邦』構想!」
全員が、沈黙する中、発言の許可を求める元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可します。」
「アフリカ連合をどのように扱いますか? 総統閣下。」
「それって、ただの烏合の衆でしょう。雁首揃えて、紛争一つ解決できていません。
私の記憶が、確かならば、現在進行中のアフリカ紛争は、十六です。国の名前を答えなさい。」
「はっ、2024年の数字で、アフリカの紛争当事者国は、十六。国名は、ナイジェリア、エジプト、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、スーダン、アルジェリア、モロッコ、カメルーン、マリ、ソマリア、ブルンジ、チュニジア、リビア、コンゴ共和国、中央アフリカ、モーリタニア。西サハラを含めて十六か国になります。総統閣下。」
「よくできました。流石、アフリカ支局長。またも、私の記憶が、確かならば、六か国です。
軍事クーデターによって、現行政府が転覆された国の数です。
連合は、どのように対処しましたか?」
「はっ、『加盟資格停止処分』です。総統閣下。」
「つまり、アメリカ連合は、『出入り禁止』にしただけで、何もしていません。
本来なら、加担者全員を捕縛処罰するべき案件です。死罪ないし及び無期懲役が妥当です。
これは、アフリカ連合そのものの権限不足による機能不全と言わざるを得ません。
違いますか。諸君。」
ここで、元役人の現YouTuberを指名した。
「私の先程の発言は、意味合いが違います。解体しますか。それとも残すべき箇所を残しますか。
残した場合、『アフリカ連邦』に、吸収させますか。と言う意味合いです。総統閣下。」
「つまり、君は、私の『アフリカ連邦』構想に賛成する。そう言う訳ですね。」
「完全賛成ではありません。総統閣下の意見では、人口と面積だけで、大した産業もありません。
完全賛成するには、情報が不足しています。全ての情報を明らかにして下さい。総統閣下。」
「必要なのは逆転の発想。否、三次元、四次元の発想ですよ。これから、説明しましょう。
その前に、問う。米国の人口と、通貨総量は、何ドルですかね。事務次官。」
「はっ、2024年の数字で、約3.3億人、約1.3兆ドルになります。」
「つまり、アメリカ人一人当たり、約四千ドル。何故、それだけの通貨を発行するのでしょう?」
全員が、沈黙する中、発言の許可を求める元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可しましょう。」
「必要だからです。それ……四千ドル……を下回ると、デフレ。上回るとインフレになります。」
「宜しい。満点の回答。勿論、デフレ、インフレと言っても0.00001%でもそうですよ。
しかし、『アフリカ連邦』構想においては、『必要』の一点のみが、重要。」
今度こそ、全員の空気が、意味不明で統一された。
「『アフリカ連邦』構想においては、『アフリカ連邦』加盟国は、統一通貨を使います。
これは、強制です。ダサさと分かりやすさを重視した名前、通貨『アフリカ』と仮称します。」
「EU、ユーロのアフリカ版と言う事でしょうか。総統。」
「そうとも言う。だが、その通りではありません。で、アフリカと米国の人口比は5:1。
つまり、通貨の総量も5:1にしなければなりません。分かりますか、諸君。」
「あっ……。」
全員が、沈黙する中、一人気づいた元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可しましょう。」
「つまり、アフリカの通貨総量を、アメリカの5倍にする事で、5倍の通貨高を引き起こす。
そう仰りたい訳ですな。まさしく、三次元、四次元の発想です。」
「ようやく、『その通り。』と言えましたな。五倍の通貨高になれば、輸入品は、安く買えます。
具体的には、五分の一。逆に、輸出のもうけも、五分の一。アフリカを輸入大国にします。」
全員が、沈黙する中、一人気づいた元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可しましょう。」
「しかし、それでは、国内にろくな産業が育ちません。輸入するだけの国になりませんか。」
「何を申す。さっき君が言ったでしょう。『大した産業もありません』と。今更ですよ。
それに、『産業』を育成するには、時間もお金も膨らみます。通貨『アフリカ』は、下支え。」
全員が、沈黙する中、一人気づいた元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可しましょう。」
「しかし、問題点が無い訳ではありません。それだけ多量の通貨をまいたら……。」
その発言を途中で遮った。
「承知の上です。六兆五円億アフリカを、国内で流通させたら、ハイパーインフレを起こします。
そう言いたいのでしょう。無論、対策もあります。……ん? 質問ですか。発言許可。総理。」
「あのぉ……先程、六兆五円億アフリカは、『アフリカ連邦』に必要だと仰いました。」
「その通り。よく覚えていましたね。総理。」
「しかるに、今しがた、『ハイパーインフレを起こす。』と仰いました。
どちらが、正しいのでしょう。総統。」
「では、説明しましょう。時に、アフリカのブルンジの人口、GDPはいかほどですか。」
「はっ、2024年の数字で、約1400万人、一人当たりGDP約320ドルです。」
さらっと答えるアフリカ支局長だった。アフリカ最貧国の情報まで把握しているとは流石だ。
「つまり、概算ブルンジには、約四十五億ドルの通貨が、流通している訳ですね。
そこに、約1400万人×四千アフリカで、五百六十億をまくとハイパーインフレを起こす。
彼の発言とは、そういう意味だったのですよ。理解しましたね。総理。」
「そりゃ、そうでしょう。十倍の紙幣まいたら、物価だって十倍になりますよ。
それを、ハイパーインフレと言うのです。総統閣下。」
「ですから、そんな事は、承知の上。故に『対策』も立ててあるのです。
私の説明を最後まで聞きなさい!」
ようやく、静かになった所で、説明に入る。
「人口一人当たり、四千アフリカを発行する事は、既定路線、動かきません。
これによって、アフリカの通貨高を起こして、あらゆる輸入品を安く買う。
しかも、外国にとっては、自分達が安くした訳でもないのに、爆買いしてくれる。
ご都合主義にも程がある『お得意様』です。ここまではいいですね。諸君。」
全員が、静かに首肯した所で、説明を再開する。
「結論、食料品並びに生活必需品を配給制度にします。つまり、通貨高で安く輸入した『品物』をばらまくのです。勿論、無料ですよ。
すると、消費して無くなるのだからインフレもデフレも起きません。」
「………………………………………………はぁっ! っっっっっ!」
「分かりませんか。紙幣は印刷するが、これを国内では、流通させません。諸君。」
「では、誰が外国から買い物をするのですか。総統閣下。」
「まず、『アフリカ連邦』に、国営総合商事会社を設立。そこに、買わせます。
資金源は、『アフリカ連邦準備銀行』から、『補助金』の形で渡せばよいでしょう。」
「……成程、それなら可能そうですね。」
「いや、いや、いや、いや、いや、いや、無茶でしょ!」
「違います。むしろ、こうでもしないと、アフリカのあらゆる問題を解決できません。
アフリカ問題は、数あれど三つに集約できます。それは、何ですかね。アフリカ支局長。」
「はっ、貧困、飢餓、内戦です。総統閣下。」
「宜しい。満点の回答ですよ。では、続きは私から説明しましょう。まず、問おう。
国民全員が、配給制度で、食料に困らない。満腹時に、誰かとケンカしたいですか。」
全員が。沈黙する。
「勿論、内戦全てが、同じ理由だとは、言いませんよ。しかし、大半は何とかなるものです。
そこで、『アフリカ連邦』加盟国の国民全員が、配給制度で、食料に困らない。
更に、外国から土建屋や資材を『輸入』する事で、衛生的な住宅に居住可能。
また、インド綿で作ったTシャツも、無料で配布される。これで、衣食住が揃います。」
室内に充満する沈黙の空気だった。
「ここで、『産業育成』。まず、国営住宅建設会社を設立させ、現地人を雇用。
更に、上下水道。更に、発電所。全て以下同文。理解できましたかね。諸君。」
「一つ宜しいでしょうか。総統閣下。」
全員が、沈黙する中、発言の許可を求める元役人の現YouTuberだった。
「発言を許可しましょう。」
「先程、総統閣下は、仰いました。『アフリカ連邦』は、5倍の通貨高になる。しかし、それは全て参加した場合のみです。現実問題最初から全て参加する筈もありません。」
「その通り。故に、『連邦制』ですよ。『連邦制』故、歯抜けでも飛び地でも成立します。
更に、これには『優先順位』が、存在します。その説明の前に一つ、問おう。
時に、アフリカ国別人口ランキング国名、人口、上位八位を答えなさい。」
「はっ、1位から順に、ナイジェリア、約2.2億人、2位エチオピア、約1億人、3位エジプト、約1億人、4位コンゴ民主共和国(旧ザイール)、約1億人、5位タンザニア、約6千万人、6位南アフリカ、約6千万人、7位ケニア、約5千万人、8位スーダン、約5千万人です。」
「成程、この中で狙うべき国が見えましたね。先程触れた通り『アフリカ連邦』構想に必要なのは、人口です。それも、自国の産業で自国民を食わせられない貧困国です。
貧困国故、貧困から抜け出す為、なりふり構わなくなるでしょう。そこが狙い目です。」
「成程、貧困国の国民が、配給で食うに困らなくなれば、周辺国の国民が『羨ましい』と思う。そこに、つけこんで、加盟国を増やす訳ですか。で、具体的には、何処です? 総統閣下。」
「よい質問ですね総理。一位エジプト、二位スーダン、三位エチオピア、四位コンゴ民主共和国(旧ザイール)、五位ジプチ、六位エリトリア、七位マダガスカル、そんなところですね。
諸君らも気づいていますね。日本には、世界一ィィィィっ! の対偽札技術が、有る事を。」
「確かに、仰る通りです。『アフリカ連邦』に売り込む材料になります。総統閣下。」
「では、これを見てください。未完成ながら、『アフリカ連邦憲法』の草案です。」
「『アフリカ連邦憲法』? そんなもの必要ですか。」
「『アフリカ連邦』構想においては、階層構造になっています。まず、『アフリカ連邦憲法』、次に『アフリカ連邦大統領』、その下に『アフリカ連邦法』、その下に『アフリカ連邦議会』と『アフリカ連邦内閣』と『アフリカ連邦司法局』、その下に『加盟国』が、存在します。」
「すると、各『加盟国』の憲法や法律は、そのまま適用する訳ですね。総統閣下。」
「その通り。そこで、『アフリカ連邦憲法』の草案です。不足があれば、追加して下さい。」
「分かりました。総統閣下。」
こんな感じで、リモート会議を終えた。
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