改革への道(アフリカ編)(9)
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、タンザニア大統領だ。
「本日は、お時間を頂戴し恐縮の至り。日本帝国総統です。」
「ご丁寧に痛み入ります。タンザニア大統領です。で、何の御用でしょう。」
「以前も申しましたが、私の言葉は、『アフリカ連邦大統領』の言葉です。
お心に留め置きくださいますよう、重ねてお願い申し上げます。大統領。」
「はい。勿論覚えておりますとも。総統閣下。」
「では、アフリカ連邦憲章第一条を復唱しなさい。大統領。」
慌ててタブレット式端末を確認するタンザニア大統領だった。
「えーー『アフリカ連邦。アフリカ連邦とは、アフリカ連邦に参加する国と地域全てを包括する統一国家である。』以上になります。総統閣下。」
「重畳です。で、タンザニアは、『アフリカ連邦』加盟国でしたよね。大統領。」
「はい。間違いなく加盟国です。総統閣下。」
「成程。すると、タンザニアの国民とは、同時に『アフリカ連邦』の国民でもある。
その認識を間違いなくお持ちでなのでしょうね。タンザニア大統領。」
「はっ。憲法解釈は、私の専門外です。そこまでは分かりかねます。総統閣下。」
ここで、BGMとしてトッカータとフーガニ短調(作曲:バッハ)を流す。
「これこそ『知らなかった』では済まされない件です。よって、タンザニア大統領!
貴君に『反逆罪』を適用! 即時罷免、無期懲役刑、全財産没収処分とします。」
ここで、会議室の扉をけ破る音と共に扉が開いた。
「大統領。報告いたします。タンザニア大統領府警護隊全員制圧されましたぁっ!」
そう報告したのは、自衛隊に拘束されたタンザニア大統領府警護隊隊長だった。
続いてタンザニア大統領をも拘束した自衛隊体調が、報告する。
「報告申し上げます。タンザニア大統領府制圧完了致しました。総統閣下。」
「宜しい。では、命令します。『タンザニア大統領を逮捕並びにぶち込め!』。」
「はっ。『タンザニア大統領を逮捕並びにぶち込む!』以上復唱致しました。総統閣下。」
こうして、身柄を拘束されたタンザニア大統領だった。
「裁判を! 法の加護を! 申し開きの場を!」
「前王朝ならいずしらず、ローエングラム皇朝には、裏切り者を保護する法など無い!
無益な哀願をするな!」
総統の「『アフリカ連邦』国民を虐殺した罪、万死に値する。」は、「前王朝ならいずしらず、ローエングラム皇朝には、裏切り者を保護する法など無い! 無益な哀願をするな!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某英雄伝説とも無関係に相違ない。
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理だ。
「成程。まさしく『細工は流々仕上げを御覧じろ。』ですね。総統。」
「私の予想が、外れたとするならば、タンザニア大統領が、あれ程の『愚物』であったと言う事実ですね。それれさえ無ければ、無駄な虐殺を止められたものを。」
「それは、外れではありません。『愚物』だった場合の対策も講じていました。
むしろ、『愚物』であってくれてよかったと言うべきでは。総統。」
「何もよくありません。タンザニア大統領が虐殺した命は、二度と戻らないのです。」
「しかし、デモ隊と取引したのでしょう。『あそこでデモを実施すれば大統領と同じ食事を与える。』とね。それを支払う必要がなくなりました。総統。」
「そんな僅かなお金をケチっても、命には換えられません。むしろ、褒美を与えねば。」
「褒美? 誰にです。総統。」
「サイバーセキュリティ対策室の面々ですよ。彼らが、タンザニア大統領府の監視カメラにクラッキングを仕掛けて、映像を自動コピーしてくれたお陰ですよ。」
「それなら、警視総監賞と、臨時賞与50万円を指示してあります。総統。」
「ならば、問題ありません。私からの指示は、以上です。何か質問はありますか。」
特になかったので、今回の会議は、これでお開きとなった。
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官、同省アフリカ支局長、
宮内庁長官だ。
「本日は、お時間を頂戴頂き、誠にありがとうございます。皆様。」
「宜しくお願い致します。」
全員の声が、唱和した。
「では、本日の案件です。アフリカ支局長より報告申し上げます。」
「はつ。報告申し上げます。タンザニア大統領罷免に伴い、国民投票を実施致しました。
投票率約94.6%、賛成約92.8%、反対1.8%にて可決。以上です。総統閣下。」
「宜しい。ならば、民意に従い、タンザニアを直轄領とします。そこでです。
皆さんに『お土産』を贈呈しようと考えます。ご協力願えますか。宮内庁長官。」
「はっ。何なりとお申し付けください。総統閣下。」
ここで、全員に指示を伝達。それが、終わった所で、会議終了。
* * *
「あなた、食事をご馳走して下さるなんて、今回の大統領は素敵な方ね。」
「だから言っただろう。直轄領賛成に投票して正解だった。」
「お父さん。大統領のご飯、楽しみ。」
「お父さんも楽しみだよ。きっと美味しいよ。」
「わぁい。」
その後、首都でも有数のホテル、そこの最上階に案内される一家だった。
「うわぁ……席が一杯だぁ。」
「今日は、『大統領と同じ食事をする会』の貸し切りなんだ。」
「ほら、あんまりキョロキョロしない。テーブルの方を向いて座るのよ。」
「はい。お母さん。」
そんなこんなで各卓に届けられる料理の数々だった。
「本日のお料理をご説明申し上げます。ご飯、みそ汁、御新香、冷奴、
キャベツの千切り、チキンカツ、デザートには、水ようかん。以上になります。
ご飯は、稲の種を適量の水と共に過熱した物です。
みそ汁は、味噌と言う大豆の発酵食品とグルタミン酸を使ったスープです。
御新香は、野菜の発酵食品です。
冷奴は、大豆の絞り汁に塩化マグネシウムを加えて固めたもの、生の豆腐です。
お好みで、こちらのおろし生姜や葱、醤油で、味を調節してお召し上がりください。
キャベツの千切りは、生のキャベツを細く切ったものです。
お好みで、こちらのマヨネーズをつけてお召し上がりください。
チキンカツは、鶏肉に卵とパン粉で、衣をつけた上で高温の油で揚げたものです。
お好みで、こちらのソースをつけてお召し上がりください。
水ようかんは、小豆と言う豆のペーストに砂糖を加え、冷やしたものです。
以上になります。」
「えぇ……なんか……しょぼぉ……。」
「あのっ! 鶏肉なんですか! 大統領の食事と言えば、牛肉でしょう。
ほら、この写真を見て下さい。間違いなく牛肉じゃないですか!」
「あぁ……こちらの写真は、タンザニア大統領のお食事ですよ。
本日のお食事は、『アフリカ連邦大統領』のお食事になります。」
「……ですが、『アフリカ連邦大統領』は、タンザニア大統領より偉いのでしょう!」
「はい。その通りです。故に、『連邦大統領』閣下は、庶民と同じものを召し上がる。
その要望を常に仰せであらせられます。日本においては、全て庶民食なのですよ。」
「……そんな……。」
「また、『アフリカ連邦大統領』は、いずれ『アフリカ連邦』を経済成長させ、
国民全員が、毎日鶏肉に砂糖菓子を食べられる様にすると仰せでした。
本日は、どうぞごゆっくりどうぞ。」
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