改革への道(欧州編)(4)
「何故だぁっ! 何故日本はこちらの交渉に応じない。誰かいないのか!」
「駄目です。大使館から出向いても、門前払いです。EU加盟国全て門前払いです。」
「こうなったら仕方ない。英国を通じて連絡を取るしかない。」
「成程、あの国なら『逆関税』半分だし、何か『裏取引』しているに違いない。」
「駄目だぁっ! あんな裏切り者なんか信用できるかぁっ!」
「おまけに『転売ヤー』だ。度し難い鉄面皮のブリカスだ。」
「だが、どうする。早く手を打たないと、ハロウィンにクリスマス、砂糖が足りない!」
「なら、米国を仲介者にするしかない。」
「そんな事したら幾ら要求されると思ってんだ。」
「こうなったら止むを得ん。両方に依頼して、条件を出されたら『検討する』としよう。」
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官、同省欧州支局長、
経済産業省事務次官だ。
「挨拶など不要。報告なら既に受けています。故に指示あるのみです。
念の為、確認しますが、企業からの報告は全て上がっていますね。経産省事務次官。」
「はっ。確かに全て報告は上がっております。総統閣下。」
「ならばよし。『二の矢』をつがえなさい。経済産業省事務次官、外務省事務次官。」
「その前に、そうなさる根拠をお聞かせ下さい。総統。」
「連中は、自分がしでかした『罪』を理解していません。徹底的にやるのみですよ。
それに、欧州に進出した日系企業数約千二百社。従業員数など、たかが六十万人。
そいつらが、失業した所で失業率は、大きく増えません。軽いジャブですよ。」
「では、何故こうもEUとの交渉を先延ばしするのです。総統。」
「簡単です。連中には何もさせる事無く、ひたすら時間を稼ぐのです。
さすれば、連中は何の成果も無いまま次の選挙に突入せざるを得ない。
こうして、連中が大敗を喫し、親日政権樹立。これが、私の希望です。」
「それは、さらなる反日政権樹立の可能性もありますが……。」
「それなら、先に剣を抜いたのは、欧州。こちらは、正当防衛です。いいですね。」
「…………分かりました。総統。」
* * *
「大変ですぅっ! 大統領。」
「何事です。何処かの独裁者が、核兵器でも使ったのですか。」
「日本企業です。我が国で営業している日本企業が、撤退を表明しました。」
「日本企業? どの日本企業ですか。」
「全てですぅっ! 我が国で営業している日本企業が、全て撤退を表明しました。大統領。」
「…………………………………………おのれぇっ! 謀ったなぁぁぁっ!」
* * *
今日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官、同省欧州支局長だ。
「挨拶は、不要です。まず、報告しなさい。事務次官。」
「はっ。二つございます。欧州支局長より報告申し上げます。総統閣下。」
「はっ。報告申し上げます。一つ、EUより謝罪と賠償請求です。総統閣下。」
「『逆関税』を二倍にしなさい。英国も含めてです。」
「お待ちください。総統。」
「発言を許可します。総理。」
「その前に、対話すべきでしょう。」
「連中の言い分は分かっています。要求あるのみ。故に耳を貸す必要などありません。
そもそも『鰻の絶滅危惧種指定』が、要求なのです。これ以上要求を聞くまでも無し。」
「その言い分、分かります。が、親日政権樹立の策はどうなっていますか。総統。」
「それは、現地の諜報工作員の仕事です。各国で絶賛活動中ですよ。
今の政治は駄目だ。親日しなければ解決しない。ひたすら親日と情報発信中です。
私の記憶が確かならば、欧州連合の議会と、委員会委員長の選挙は、2029年です。
違いますか。支局長。」
「はっ。その通りです。議会は、同年5月、委員長は、同年7月です。総統閣下。」
「では、それまでしっかり親日感情を高めなさい。結果次第で報酬増額もありえます。」
「はっ。『それまでしっかり親日感情を高めなさい。結果次第で報酬増額もありえます。』
以上復唱しました。総統閣下。」
「では、二つ目の報告を伺いましょう。支局長。」
「はっ。報告申し上げます。二つ、その他全てのEU非加盟国より英国同様の声明発表。
これで、一回目です。総統閣下。」
「宜しい。では、三か月連続で実施するか注視しなさい。支局長。」
「はっ。復唱します。『三か月連続で実施するか注視しなさい。』総統閣下。」
「特に質問はありませんか。…………………………では、以上で本日の会議は終了。」
* * *
「どういう事だぁっ! 英国だけ『逆関税半額』だとぉっ!」
「しかも、『逆関税900%』で、転売………………ふざけるなぁっ!」
「何故、こうなるっっ!」
「では、私から一つあります。宜しいですか、議長。」
「発言を許可します。」
「何でも英国では、この三か月間毎月10日に同じ内容の声明文を発表しています。」
「何ですかそれは? 内容を教えなさい。」
「英国からの声明は、『ウナギの絶滅危惧種指定に断固反対。』以上です。」
「それだけですか。」
「はい。この三か月間毎月発表している声明文の内容全文です。」
「そんな……何故ブリカス共は、今更日本に尻尾を振る! 何故だぁっ!」
「坊やだからさ。」
欧州議会議員の「砂糖が欲しいからに決まっているでしょう。」は、「坊やだからさ。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某赤い彗星とも無関係に相違ない。
「では、私から一つあります。宜しいですか、議長。」
「発言を許可します。」
「諸君らは、『GBCO』をご存じかな。」
「何だそれは?」
「聞いたことも無い。」
「正式名称は、英語でこうなります。
Globally
Biological
Conservation
Organisation
略して『GBCO』です。野生動物の保護を目的とした超国家間組織です。
諸君らが、知らないのも無理からぬ事、今年設立された組織です。
そして、恐るべき組織でもあります。」
「そんな、できたばかりの組織の何を恐れる理由がある。我らは、EUであるぞ。」
「そうだ。我らは、EUぞ!」
「EU!」
それは、いつの間にかシュプレヒコールになっていった。
「静粛に!」
静寂まで要したのは、議長による10回の宣告だった。
「まだ伺っていませんよ。何を以て『恐るべき組織』と呼称したのです。」
「『説明しょう!』」
欧州議会議員の「では、ご説明しましょう。」は、「『説明しょう!』」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某ヤッターなアニメとも無関係に相違ない。
「『GBCO』の議長国は、日本なのです。」
議場の空気が、凍り付く音が響いた。
「………………………………………………………………………………ふざけるなぁっ!」
「日本めぇっ! 野生動物の保護を支配する気かぁっ!」
「ゆるまじ! 日本!」
「そもそも『鰻の絶滅危惧種指定』で、日本にちょっかいをかけたのは、おまいらだろ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの場に存在しない。
* * *
翌日のリモート会議参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官だ。
「挨拶は、不要です。まず、報告しなさい。総理。」
「しかし……本当に、宜しかったのですか。各国首脳は、総統と話したがっていました。」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」
総統の「ですから表の顔は、首相。裏の顔は、総統。役割分担です。それに、私が出席しても会話相手は通訳に過ぎない。故に無用無益無駄ですよ。」は、「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」 と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某吸血鬼とも無関係に相違ない。
「で、G7の各国首脳は、何といっていたのです。総理。」
「意外でしたのは、カナダですね。総統の予想通りでした。」
「当然にして自然にして必然の結果ですよ。彼の国の本音は、米国に支配されたくない。
でも、経済支援が、欲しい。ならば『地球連邦構想』に飛びつくのも無理からぬ事。
これ、釣れた魚は大きいですよ。逃がしてはなりません。甘い汁を吸わせてでもです。
勿論、私の指示通り話をしたのですにょね。」
「はい。総統が仰った通り、日本のパン工場を誘致を認めさせました。あちらに伝えた
建前は、あくまで『経済協力』としてです。総統。」
「宜しい。これで加奈陀と墨西哥で、米国を挟み撃ちにできます。」
「必要でしょうか。そんなもの。」
「たかが、『挟み撃ち』とも言いましょうや。が、二正面作戦は、意外と効きますよ。
念の為とは、こういう所から効果を発揮するものです。で、他の国は?」
「ドイツ、イタリア、フランスには、EUが鰻の絶滅危惧種指定した件について言及。
総統のお怒りは、地球より大きい。謝罪と賠償請求を模索中だと伝えました。」
「で、連中の反応は、私の予想とどれだけ乖離していましたか。総理。」
「ほぼ予想通りでした。すると、この後の展開も同様に進むかと……
で、軍事経済面での協力体制を『強く』要求してきたのが、ドイツです。総統。」
「それは、私の指示通り返答したのでしょう。なら問題なし。
それに、今欲しいのは、一に時間、二に時間、三四が無くて五にに時間。
時間さえあれば、戦争しても負けません。そこまで準備してから敵が先に抜剣。
この状況を作りなさい。とりま米国は、放置でいいでしょう。」
「私からも一つ宜しいでしょうか。総統閣下。」
「発言を許可します。事務次官。」
「本当に、宜しかったのでしょうか。韓国を無視して。」
「くどい。粗大ごみに用などありません。で、英国はどうなったのです。」
「はっ。これも総統のほぼ予想通りでした。第一に、邦人殺害の証拠が無いと主張。
第二に、行方不明者の要求には、応じました。第三に、自衛隊の撤退要求をされました。
勿論、邦人殺害の容疑が晴れていない事を理由に拒否しました。が、英国の法律で、
対処すると言いました。よって、殺人犯の法律など従わない。そうでないなら、
証拠を示すよう要求しました。すると、あちらも邦人殺害の証拠を出す様、
要求してきました。以上になります。総統閣下。」
「素晴らしい《ブラボー》! それでよし。時間稼ぎの対応としては十分です。
これで、何を言われても邦人殺害の証拠を要求すれば話を終わらせる事が可能。
後は、デモを発生させる様、世論を誘導。英国が殺害する瞬間を撮影するまでです。
今回は以上で、私からの指示は終わりです。質問はありますか。」
特になかったので、今回の会議は、これでお開きとなった。
* * *




