改革への道(欧州編)(2)
今日もリモート会議だ。参加者は、日本帝国総理、経済産業省事務次官である。
まずは、全員の挨拶から始まった。
「では、今日の議題です。EU加盟国に工場や現地法人を所有する企業に命令しなさい。
EU加盟国から撤退する計画を立案すること。撤退の際、雇用した現地人を全員解雇。退職金は一円。また、撤退に必要な費用は、日本帝国が全額負担するので見積もりからです。
復唱しなさい。事務次官。」
「はっ。EU加盟国に工場や現地法人を所有する企業に命令。
EU加盟国から撤退する計画を立案。
撤退の際、雇用した現地人を全員解雇。退職金は一円。
また、撤退に必要な費用は、日本帝国が全額負担するので見積もりからです。
以上になります。」
「宜しい。事務次官。」
「あのぉ……一つ宜しいでしょうか。総統閣下。」
「発言を許可します。事務次官。」
「これは、EUのウナギの件でしょうか。総統閣下。」
「それ以外の聞こえ方をしたのなら、私の言い方が、悪かったのでしょうね。事務次官。」
「つまり、報復……である……訳ですか。総統閣下。」
「それ以外の聞こえ方をしたのなら、私の言い方が、悪かったのでしょうね。事務次官。」
「はっ……はははぁーーっ! すぐに取り計らいますぅっ! 総統閣下!」
画面が、ブラックアウトした経済産業省事務次官だった。
カメラとマイクをOffにしたのであろう。
「時に、私からも一つ宜しいでしょうか。総統。」
「どうぞ。総理。」
「報復にしては、ずいぶん時間をかけますね。これでは、最悪一年かかりますよ。」
「いいのです。これは、二の矢、三の矢。まず、もっと即効性の高い報復をします。
敵が、それに応じない場合、ないし及び『絶滅危惧種』を強行した場合の対応策です。」
「……即効性……ですか。具体的にどのような手を使うのです。総統。」
「いい機会ですから、『打ち合わせ』をしましょう。総理。」
「『打ち合わせ』ですか。まさか、米国大統領よろしく関税でもかけますか。総統。」
「おしいけどハズレです。むしろ、『逆』ですよ。欧州向けの輸出品に関税をかけます。
故に、『逆! 関税』。」
「成程……それによって、EUの経済に混乱をもたらす。
しかし、そんなもの他国から買えばよいのでは?」
「優れた経営者とは、この状況を逃しません。私なら、買い占めるでしょう。
それも、昨年の価格で、向こう二十年分、買い占めます。」
「しかし……………………………………………………ま……さ……か……。」
「どうやら、気付いたようですね。では、『逆関税』をかける品目と税率です。
砂糖に1000%。これで価格は、十倍になります。
更に、発表前にこの事実を米国大統領にのみ、こっそり教えましょう。
すると、自国企業に、砂糖を買い占めるよう指示する事疑い無し!
何しろ、『あの関税大好き大統領』ですからねぇ……。」
「それって……『インサイダー取引』と言いませんか。総統……。」
「でしょうね。
が、インサイダー取引したのは、米国大統領と米国企業です。
日本帝国も日本企業も無関係です。ほっほっほっっ。」
遂に開いた口が塞がらなくなった総理大臣だった。
「あーーのーーぉーーそろそろ、本題に入りたいのですけど。総理!」
「いいんですか。そんなことして。」
「大丈夫です。私には、憲法規定で『不逮捕特権』あります。あなたはシラを切りなさい。
で、本題ですが、実際の会議では、私が『過激な意見』を提案します。
あなたが、『逆関税』を提案して下さい。私が便乗したかのように話をまとめます。」
「意味ありますか。それ。」
「会議ですから。時には、『八百長』も必要です。」
「そこまで言うなら、従いますよ。」
* * *
場所は、フランス大統領執務室。時は、『特別コメント』の発表の翌週だ。
「親分! てぇーーひぇんだぁっっっ!」
大統領秘書官の「大統領! 一大事です!」は、「親分! てぇーーひぇんだぁっっっ!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某時代劇とも無関係に相違ない。
「どうしました。騒々しい。」
「砂糖の件です。大統領。」
「……砂糖……あぁ……そう言えば、そんな話を聞きましたね。……先週でした。」
「その砂糖が、買い占められています。大統領。」
「買い占め? 何処が、どれだけです?」
「米国企業です。ハンバーガーチェーンに、カフェチェーン、食品メーカー……
とにかく、多数の米国企業が、ここ二週間の間に世界中の砂糖を買い占めています。」
「ほぉ……で、量はいかほどでしょうかね。」
「企業ごとに異なりますが、10~50年分の砂糖を買い占めています。
しかも、日本と『アフリカ連邦』との取引停止もしております。大統領。」
「10年? 随分先まで買いましたね。なら、売れ残りで我慢しましょう。」
「すると、日本と『アフリカ連邦』だけです。大統領。」
「……………………………………おのれぇ! 謀ったなぁ!」
* * *
今日もリモート会議だ。参加者は、日本帝国総理、農林水産省事務次官、
厚生労働省事務次官である、まずは、全員の挨拶から始まった。
「では、今日の議題です。今回の施策は、寒冷地農作物から人工甘味料を精製する事。
役割分担は、農林水産省、生食しただけで甘みを感じる寒冷地農産品を創る事。
厚生労働省、現在の寒冷地農産品から人工甘味料を精製する事。
いずれも制限は、現在の御州寒冷地農産品の内、芋野菜類を基礎とする事。以上です。」
「一つ宜しいでしょうか。総統閣下。」
「発言を許可します。厚生労働省事務次官。」
「具体的数字は、無理としても相当の時間と費用がかかると予想されます。総統閣下。」
「時間に関しては、二十年まで許します。予算は、年間五千億、両省で一兆とします。」
「二十年でも『できる』と保証できない事が、世界の常識です。総統閣下。」
「違う! それは、間違っている。『この方法ではできない事が分かった』これが常識。
この積み重ねこそが、正解への早道。九割九分の積み重ねの上に、正解があるのです。」
「そうしなければ、前任者の様に無期懲役にする。そう仰りたいか。総統閣下。」
「それ以外の聞こえ方をしたのなら、私の言い方が、悪かったのでしょうね。」
リモート会議である。にもかかわらず、空気が凍り付く音が聞こえたような気がした。
「……分かりました。何とかやってみましょう。総統閣下。」
「では、私からも質問があります。総統閣下。」
「発言を許可します。農林水産省事務次官。」
「既にサトウダイコンから砂糖の抽出に成功しています。今更では? 総統。」
「ご存じないか。その砂糖から、匂い……大根臭を除去できていませんよ。」
「ですが、ケーキなどのお菓子の中に入れれば、打ち消せるのでは? 総統。」
「その為に、匂いの除去から軽減までを、実装した人工甘味料を創りなさい。」
「承りました。総統閣下。」
「宜しい。早速取り掛かりなさい。農林水産省事務次官、厚生労働省事務次官。」
直後、二人の画面が、ブラックアウトした。
「時に、総統。これもやはり『欧州ウナギ対策』ですか。」
「それ以外の聞こえ方をしたのなら、私の言い方が、悪かったのでしょうね。
欧州の動きは、読んでいます。これらも先手を制するまでの事。
特許の取り合いは、戦ですよ。総理。」
こうして、終わったリモート会談だった。
* * *